フェルト(読み)ふぇると(英語表記)felt

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デジタル大辞泉 「フェルト」の意味・読み・例文・類語

フェルト(felt)

羊毛などの獣毛に蒸気・熱・圧力を加えて縮絨しゅくじゅうさせ、布状にしたもの。保温力・弾力性に富み、帽子・履き物・敷物などに使用。

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精選版 日本国語大辞典 「フェルト」の意味・読み・例文・類語

フェルト

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] felt )
  2. 羊毛などの獣毛繊維を、湿気・熱・圧力を加えてからみ合わせ縮絨(しゅくじゅう)した厚い布状のもの。保温・防熱・防音・振動防止性などに富む。工業材料・服飾・敷物・手芸材料などに用いる。
    1. [初出の実例]「柔いフヱルト氈の靴」(出典:うき草(1897)〈二葉亭四迷訳〉大団円)
  3. で作った帽子・ぞうり・敷物などの製品。
    1. [初出の実例]「浅い鍋底の様な形をしたフエルトをすぽりと坊主頭へ頭巾のやうに被るのが」(出典:道草(1915)〈夏目漱石〉一五)

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改訂新版 世界大百科事典 「フェルト」の意味・わかりやすい解説

フェルト
felt

羊毛やその他の獣毛繊維は,水や弱アルカリ性溶液(セッケン液など)を含ませたり,熱,圧力,振動などを加えると,繊維が互いに密にからみ合い離れなくなる。この現象をフェルト化とか縮絨(しゆくじゆう)と呼んでいるが,獣毛とくに羊毛の表面をおおっているうろこ状の外皮(スケール)がこの縮絨作用に大きな役割を果たしている。フェルトとは,獣毛繊維を縮絨させ,布帛状に固着させ平面としたものを総称していう。用いる材料によって羊毛フェルト,山羊毛フェルト,兎毛フェルト,牛毛フェルトなどという。

 フェルトは牧畜民族が開発した技術で,今日でも中近東の人々の間では敷物類が伝統的な手法で製作されている。その製法は,すのこの上に自然色または染色した羊毛やそれを紐状にしたものを,図案の色と形に従って並べる。その上に台地となる羊毛を広げ,上から水やセッケン水をふりかけ,足で踏みつけ圧力を加えてから,すのこごと巻きしめ転がす。平面が固定し,すのこを解くとでき上がる。製作の際,フェルトの形,寸法,厚さなどは比較的自由に加減できる。

 最古のフェルトとして知られるのは,ロシアのアルタイ山中のパジリクの遺跡(パジリク古墳群)からの出土品(前5世紀~前4世紀)で,フェルトにアップリケの手法を加えて人物像や花文を表した大型のものや,動物闘争文を表した鞍覆い,フェルトの帽子や靴下が発見された。またフェルトで作ったぬいぐるみの白鳥も出土するなど製品は多彩さを誇っている。この遺跡は遊牧系民族の首長の墓とされている。中央アジアの漢代の遺跡である楼蘭からもフェルトの断片が出土している。これは白地のフェルトに藍色の四弁花風の簡単な文様を置いたもので,文様を縫いつけた糸が残っている。日本の正倉院北倉には,もと東大寺の調度品であったと思われる31枚の文様入りフェルト製敷物が残されている。うち5枚は各辺1m余りの方形で,他は縦約2.5m,横1m余りの長方形である。繧繝(うんげん)彩色の大唐花文や草原で打毬をする人物像など唐代の文様が表されており,いずれも中国からの輸入品と考えられている。それらは当時,花氈(かせん)と称されていた。

 以上のフェルトは今日,圧縮フェルト(プレスフェルト)と呼ばれる種類で,織物のようなたて糸・よこ糸の組織をもたず,引張りや摩擦に対する力は比較的弱い。現代の圧縮フェルトの用途は船舶,車両,自動車などの部品に多く使われ,保温,保冷,断熱,防音,振動防止,研磨などに用いられるほか,敷物,衣料,ピアノのハンマー・フェルト,スリッパの底,家具の中入れなどとして多用されている。帽体フェルトは帽子用の立体的なフェルトである。また,織フェルト毛織物に織ったものを,織目が見えなくなる程度まで縮絨したもので,引張りや摩擦に対する力は比較的強い。これは製紙や紡績の工程で主として使われ,ナイロンやポリエステルを混紡したものも多い。
執筆者:

合成繊維には本来フェルトを形成する性質はないので,別の方法でフェルトがつくられる。ポリエステルからのフェルト製造は,耐久性,寸法安定性,生物的抵抗性や強度の点から望まれた。そこで次のような方法が開発され,多くの会社で使用されている。(1)繊維をそろえて一様のパッドをつくる。(2)パッドをニードルパンチする。ニードル織機は多くのさかとげ針をもっていて,これが上下を往復運動することにより繊維は打綿状態になって互いにからみ合う。(3)からみ合った繊維を熱水に浸すと,繊維は収縮し,打綿状態の繊維がフェルトになる。ポリエステルフェルトはろ(濾)過,磨きやつや出し医用に使用される。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェルト」の意味・わかりやすい解説

フェルト
felt

羊毛または他の獣毛繊維を縮絨してシート状にしたもの。羊毛などの繊維を集め,石鹸,ソーダなどの温液で濡らし,長時間,たたいたり,もんだりすると,繊維がからみ合い,密着,収縮して,緻密な構造となって固まる。この現象を縮絨 (フェルティング felting) といい,得られた集合体をフェルトという。接着剤を使用しない一種の不織布である。紡毛織物を縮絨させたものを織りフェルトという。また最近は耐久力を増加させるため羊毛に合成繊維を混合する。縮絨剤には,石鹸,アルカリ類,希硫酸などの酸類が使われる。次の3種類がある。 (1) 圧縮フェルト (厚さ 1mm~数 cmのシート状)  草履,スリッパ,靴,かばん用,薄地のものは衣料用,裁ち目がほつれず,染色性がよい。工業用として,ガラス,金属の研磨用,防音材,断熱材,フィルタなどに使用。 (2) 帽体フェルト (すり鉢状)  帽子用。 (3) ハンマーフェルト ピアノのハンマーのクッション用。日本にフェルトが輸入されたのは室町時代以後で,陣羽織,旗印などに用いられた。

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百科事典マイペディア 「フェルト」の意味・わかりやすい解説

フェルト

羊毛繊維を圧搾して布状にしたもの。原料をセッケン水などに浸してから蒸気,熱,圧力によって繊維を交錯密着させる。地厚で弾性,保温性に富むので敷物,芯地,スリッパなどにし,ほつれにくく整形しやすいので袋物,帽子,アップリケ用布などに適する。また織フェルトは紡毛織物を縮充仕上げしてフェルトの外観をもたせたもの。
→関連項目フェルトペン毛氈遊牧

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェルト」の意味・わかりやすい解説

フェルト
ふぇると
felt

平面の布帛(ふはく)のようにつくられたシート状の繊維品。これには織(おり)フェルトと圧縮フェルトがある。織フェルトは、紡毛織物に織り上げたものを縮絨(しゅくじゅう)機にかけて織り目がみえなくなる程度まで強く縮絨したもの。「引張り強さ」や「摩耗強さ」が大きいので、製紙機械・紡績機械などの部分品、玉突き台に張るビリヤード・クロスbilliard clothや硬球テニス・ボールの表面裂(ぎれ)などに使われる。圧縮フェルトは、毛繊維を薄く積み重ねて、これに熱とアルカリとを加えて圧搾しながらもむことにより、毛繊維の縮絨性だけで互いに絡み合わせて布帛状にしたものである。引張りや摩擦に抵抗する力はきわめて弱い。用途は、保温材、防音材、パッキングなど弾力性を利用するものに使われる。

[角山幸洋]

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世界大百科事典(旧版)内のフェルトの言及

【テント】より

…移動式の家屋で解体して持ち運びのできる簡易なものを指す。獲物や家畜を追って移動する狩猟民,牧畜民の住居として,北アジアの狩猟民や北米インディアンの用いた3本の木を組み合わせた形や2本ずつ組み合わせた上に1本を渡し,さらにその上に皮や草で編んだマットを覆ったものやモンゴル,キルギスの遊牧民のユルタゲルのような柳の枝などで組んだ笠状の屋根にフェルトをかぶせたもの,西南アジアの遊牧民の長方形のブラックテントなど,現在も用いられているものもあるが,一般的には日常的住居としてではなく,臨時の露営,キャンプ用として軍事,探検,登山などで用いられる布製のテントを指すと考えてよかろう。運動会用や工事用に用いる野外の日よけ,雨よけに用いるものもテントと呼んでいる。…

【もうせん(毛氈)】より

…フェルトに同じ。〈氈〉は敷物の意味で,元来,毛氈は毛の敷物一般を指すものであるが,今日ではいわゆる絨毯(じゆうたん)(カーペット)のような織物状のものは除き,獣毛に湿気,温度,圧力,摩擦などを加えて縮絨させ,無織のまま布状としたものをいう。…

※「フェルト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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