プラグマティズム(読み)ぷらぐまてぃずむ(英語表記)pragmatism

精選版 日本国語大辞典 「プラグマティズム」の意味・読み・例文・類語

プラグマティズム

[1] 〘名〙 (pragmatism) 一九世紀末から二〇世紀にかけてのアメリカの代表的哲学思想。知識や価値の問題を行動の場面にひきこみ、有用性または有効性ということを基準として考えてゆく。C=S=パース、W=ジェームズ、J=デューイ代表者実用主義プラグマティシズム
現実暴露の悲哀(1908)〈長谷川天渓〉六「其の哲学界に顕れたる最近の形式はプラグマチズム(実際主義或は人間本位主義と訳すべきか)にして」
[2] (原題Pragmatism, a New Name for Some Old Ways of Thinking) 哲学書。ジェームズ著。一九〇七年刊。従来のヨーロッパ的思考を打破したアメリカ的プラグマティズムの方法、真理観、宇宙観についての著者の講演や講義を収録したもの。

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デジタル大辞泉 「プラグマティズム」の意味・読み・例文・類語

プラグマティズム(pragmatism)

《行動を意味するギリシャ語prāgmaから》思考の意味や真偽を行動や生起した事象成果により決定する考え方。19世紀後半の米国に生まれ、発展した反形而上学的傾向の哲学思想。パースジェームズデューイらがその代表者。実用主義。→インストルメンタリズム

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百科事典マイペディア 「プラグマティズム」の意味・わかりやすい解説

プラグマティズム

19世紀末から1930年代にかけてアメリカで有力だった哲学。その称はギリシア語pragma(実践・行為)に由来し,かつては〈実用主義〉と訳された。パース,W.ジェームズデューイらが代表者で,論者により強調点に差異があるが,認識の形而上学的な基礎づけを排し,その妥当性を行為の効果に求め,真理と価値の追求とを社会的協働の中に求めるところに特質がある。論理実証主義分析哲学などとの対話のなかで〈ネオ・プラグマティズム〉(クワイン,グッドマン,パトナムら)も提唱され,アメリカにおける影響力はいまだ小さくない。
→関連項目上山春平久野収経験論陶行知パウンドハッチンズプラグマティズム法学

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世界大百科事典 第2版 「プラグマティズム」の意味・わかりやすい解説

プラグマティズム【pragmatism】

アメリカの最も代表的な哲学。日本では〈実用主義〉と訳されることがあるが,この訳語はこれまでプラグマティズムに関して多分に誤解を招いてきており,最近ではこの訳語を使う人は少ない。プラグマティズムは哲学へのアメリカの最も大きな貢献であり,実存主義,マルクス主義,分析哲学などと並んで現代哲学の主流の一つである。プラグマティズムを代表する思想家にはC.S.パースW.ジェームズJ.デューイG.H.ミードF.C.S.シラーC.I.ルイスC.W.モリスらがいる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プラグマティズム」の意味・わかりやすい解説

プラグマティズム
pragmatism

1870年代の初めアメリカの C.パースらを中心とする研究者グループによって展開された哲学的思想とその運動。ギリシア語のプラグマから発し,プラグマティズムとは,行動を人生の中心にすえ,思考,観念,信念は行動を指導すると同時に,逆に行動を通じて改造されるものであるとする。そして行動の最も洗練された典型的な形態を科学の実験に求め,その論理を哲学的諸問題の解決に応用しようとするもの。代表的哲学者は,パースをはじめ W.ジェームズ,J.デューイ。彼らの理論は,明治の頃日本に紹介されたが,特に第2次世界大戦後デューイの教育理論は,教育思想に大きな影響を与えた。

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知恵蔵 「プラグマティズム」の解説

プラグマティズム

19世紀末に米国で生まれ、現代のアメリカ哲学にも影響を与えている思想。語源は「行為」や「実行」を意味するギリシャ語の「プラグマ」にある。この考え方は、反省や思考を重視する近代哲学に対して、その反省や思考が行為と結びつかねばならないことを強調する。プラグマティズムの創始者であるパースは、観念の意味は行為を抜きにしては考えられないとした。プラグマティズムの名を世に広めたウィリアム・ジェームズは、真理の基礎を生の「有用性」に置き、宗教や科学の意義をそこに求めた。デューイは、パースやジェームズの思想の影響のもと、科学的知識や道徳に関する知識は人間が問題を解決するための道具であるとし、「道具主義」を確立した。現代米国の有力な哲学者であるローティは、こうしたプラグマティズムの伝統とポストモダン的な唯一の真理への批判とを結びつける試みを行っている。

(石川伸晃 京都精華大学講師 / 2007年)

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「プラグマティズム」の解説

プラグマティズム
pragmatism

1870年代から20世紀初頭にチャールズ・パース,ウィリアム・ジェームズ,ジョン・デューイらを主要な提唱者として発達したアメリカの哲学思想。工業化の急速な進展と近代科学の発展に特徴づけられた時代への哲学的対応として,真理についての固定的な観念を排し,より動的な真理の見方を求めた。パースは観念の意味をその実際的結果に求め,科学的真理も確定的ではなく相対的なものであると主張し,ジェームズはある観念を信じることが有益で「市場価値」を持っているかぎり,それは真理であると主張し,デューイは問題解決に役立つ道具としての観念に価値を見出した。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「プラグマティズム」の解説

プラグマティズム
pragmatism

観念や思想を行為(プラグマ)との関連においてとらえる立場
かつては実用主義と訳されたが誤解を招きやすいので使用されない。従来の哲学の観念的な真理追究を排し,実験的方法を重視。経験論の流れをくむ。19世紀末以来,アメリカでパース・ジェームズ・デューイらによって説かれ,資本主義社会の現実に即応した市民哲学として,20世紀思想の一主流となった。

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世界大百科事典内のプラグマティズムの言及

【アメリカニズム】より

…文学の世界では,自由な自然のままの人間を宣揚するホイットマンの詩なども,アメリカニズムの所産といえる。デモクラティックな自由人の能動性を重んじるプラグマティズムは,アメリカニズムの思想的な所産であろう。 しかし他面で,アメリカニズムは独善的な狭隘さや,〈翼をひろげた鷲〉のイメージが象徴する,他国と他民族への威圧的態度spread‐eagleismも生んだ。…

【経験論】より

…この試行錯誤でも感覚に訴えることが基であり,ここから経験を感覚ないし感性の対象界に限定する感覚論,感性的現象界に制限する現象論,感覚ないし感性によって事物の措定(そてい)や定立を確証する実証主義が経験論の主流として成立する。19世紀末以来のプラグマティズム,20世紀前半以来の論理実証主義は現代の経験論に数えてよい。前者の代表者の一人W.ジェームズは直接に経験されるものおよびその関係を純粋経験とし,純粋経験はその外部の別の経験との関連であるいは物的存在あるいは心的存在と呼ばれると見,感性的経験論を根本的経験論へと徹底させ,初期の西田幾多郎に影響を与えた。…

【ジェームズ】より

…アメリカの心理学者,哲学者。アメリカにおける実験心理学の創始者のひとり,哲学においてはプラグマティズムを広い思想運動に発展させ,現代哲学の主流の一つにした指導的学者として知られる。父親のヘンリー・ジェームズHenry J.(1811‐82)は宗教・社会問題の著述家,父親と同名の弟は著名な小説家。…

【実践】より

…そして,社会の歴史的発展法則に基づく革命的実践の意義を強調するとともに,実践によって理論が生まれ,理論によって実践が修正補強される〈理論と実践の統一〉を明確にした。 一方,19世紀後半のアメリカでは,C.S.パースが,カントの実践の二分法に触発されて,形而上学を排して真に科学的に思考する哲学的立場を探求して,それをプラグマティズムと呼んだ。〈プラグマティックpragmatic〉という語は,ギリシア語の〈プラグマpragma〉(活動,実際になすべきこと),その形容詞〈プラグマティコスpragmatikos〉に由来するが,パースは,概念の意味を,思弁ではなくそれが行動に現れる実際的結果によってとらえ,理論をつねに実践(実験)によって検証すべきことを主張した。…

【進化論】より

… いま上でも触れたが,19世紀後半より20世紀前半にわたり,アメリカでは進化論の思想的影響がもっとも特徴的にあらわれている。ダーウィン学説とともにスペンサーの進化論が普及したことはその一つであり,また進化論がプラグマティズムの哲学の成立をうながしたことが注目される。進化論の哲学への影響は,フランスのベルグソンの《創造的進化》(1907)などいろいろあるが,プラグマティズムは最大のものといえる。…

【デューイ】より

…アメリカの哲学者,教育学者,社会心理学者,社会・教育改良家。哲学ではプラグマティズムを大成して,プラグマティズム運動(20世紀前半のアメリカの哲学および思想一般を風靡した哲学運動)の中心的指導者となり,その影響を世界に広めた。教育においてはプラグマティズムに基づいた新しい教育哲学を確立し,アメリカにおける新教育運動,いわゆる〈進歩主義教育〉運動を指導しつつ,広く世界の教育改革に寄与した。…

【パース】より

…アメリカの自然科学者,論理学者,哲学者。プラグマティズムの始祖で,現代記号学(記号に関する一般理論)の創設者のひとり。また記号論理学,数学基礎論,および科学方法論の現代的発展における先駆者のひとりでもあり,〈合衆国が生んだ最も多才で,最も深遠な,そして最も独創的な哲学者〉と言われる。…

※「プラグマティズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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