ドイツの物理学者。ハンブルク生まれ。1876年ドレスデン工科大学に短期間学んで、1876年兵役につき、工学よりも理論的科学を学びたいと考えて1877年ミュンヘン大学に入学、物理学を理論と実験の両面から学んだ。1878年ベルリン大学に移り、ヘルムホルツに師事、ベルリン大学哲学部が提示した電気の慣性についての懸賞論文に取り組み、1879年賞を得た。1880年、回転する導体中での電磁誘導に関する理論的研究で学位を取得、同年ヘルムホルツの有給助手、1883年キール大学私講師となる。キール大学では実験設備がなかったため理論的研究に力を注ぎ、1884年、マクスウェル理論がウェーバーやノイマンの理論より優れていることを論じた論文を発表した。
実験設備を求めて1885年カールスルーエ工科大学に移り、物理学教授となる。そこでベルリン科学アカデミーが提示していた懸賞問題、すなわち誘電分極の時間的変化(変位電流)が通常の電流と同じ電磁作用をもつというマクスウェル理論の中心的仮定を実験的に確かめるという研究に取り組むことを通して、1888年電磁波の存在を実験的に確立し(ヘルツの実験)、マクスウェル理論の正しさを示し、その受容に貢献した。1889年ボン大学に移ってからは、マクスウェルの理論から遠隔作用論の残滓(ざんし)を除いて、それを一貫した体系に定式化することに努めた。また1891年からは、力学の新しい体系化に向けての理論的研究を行った。それは、すべての物理学理論が力学理論に包摂されるという、力学的自然観が背景にあってのことであった。
また電磁波の発見に至る実験的研究の過程で、一次回路の放電の火花(紫外光)を二次回路に当てると二次回路に誘導される火花放電が強くなることを発見し、1887年に発表した。これは光電効果を検出していたことになるのだが、マクスウェル理論の仮定を確かめるという研究本来の目的からそれるため、それ以上探究しなかった。また1883年には陰極線について実験的研究を行い、陰極線は電荷の流れであるという当時の通説とは逆に、エーテル中の波動であると主張した。1891年にはさらに、光が透明な物体を通過するように、陰極線が金属の薄膜を通過する場合もあることを示して、陰極線波動説をさらに強固にした。この説は誤っていたが、学界の大御所ヘルムホルツが支持したこともあって、ドイツを中心に広く受け入れられた。
[杉山滋郎]
ドイツの原子物理学者。電磁波の存在を実験的に示したH・R・ヘルツの甥(おい)。ハンブルクに生まれる。ベルリン大学を卒業し、1920年にJ・フランクと共同で水銀蒸気の原子に対して電子を衝突させる実験を行った(フランク‐ヘルツの実験)。この実験は、当時の原子物理学の中心課題であったボーアの原子構造理論のなかに根本的仮定として含まれている「定常状態の存在」を実験的に確かめたものである。これによって量子論は実験的基礎を得たということができる。この業績によりヘルツはフランクとともに1925年のノーベル物理学賞を翌1926年に受賞した。
1925年ハレ大学教授、1928年ベルリンのシャルロッテンブルク工科大学物理学教授。1935年からジーメンス研究所の所長となったが、ユダヤ人の血を引いていたため、ナチスが政権をとってからは職を追われた。1945~1954年旧東ドイツと旧ソ連で研究を続け、1954~1961年ライプツィヒのカール・マルクス大学(1991年名称はライプツィヒ大学に復した)教授。
[田中國昭]
周波数、振動数の単位。主として音波や電磁波などに用いられる。固有の名称と記号で表されるSI組立単位の一つである。1秒間に1回の周期現象が1ヘルツである。記号はHz。従来の単位であるサイクル毎秒にかわって1933年国際電気標準会議で採択された。名称はドイツの物理学者H・R・ヘルツにちなむ。
[小泉袈裟勝・今井秀孝]
ドイツの物理学者。ハンブルクの生れ。幼いころから技術的才能に恵まれ語学にも非凡な能力を示した。1875年フランクフルトへ出て建設局へ勤め,そのかたわら技術者の資格試験の準備をすすめた。鉄道連隊で兵役を務めた後,77年にミュンヘン大学に入り,最初の学期に学んだ数学で目覚ましい力を発揮し,その後も実験的才能と数学的才能の両面をもった物理学者として成長した。78年ベルリン大学へ移りH.vonヘルムホルツに師事し,ベルリン哲学協会が出した電気慣性に関する懸賞問題に取り組み首席の賞牌を受けた。80年にヘルムホルツの有給助手となり,雑務のかたわら,電磁誘導,電気慣性,陰極線,弾性体の理論,液体の蒸発に関する15の論文を発表した。83年,G.R.キルヒホフの推薦によりキール大学の理論物理学の私講師となり,そこでマクスウェルの基本方程式とウェーバー,ノイマンの電気力学との関連を研究した。85年カールスルーエ工業大学の物理学教授に就任し,誘導コイルを含む豊富な実験装置を背景に,1879年に提出されたベルリン科学アカデミーの懸賞問題,〈マクスウェル理論に含まれる重要な仮定の実験的裁定〉,すなわち,電磁的な力と誘電分極との関連を実験的に確立する問題に取り組んだ。そして88年電気振動から電磁波が生ずることを確かめ,さらにその反射や偏りなどからマクスウェル理論の予言する電磁波の存在を実証,この実験はヘルツの実験として有名である(図)。89年ボン大学物理学教授に就任後はO.ヘビサイドと並行してマクスウェル理論を整理し,現代的体系を築いた。このほか運動体の電気力学,力学の新しい定式化に関する業績がある。
執筆者:田中 国昭
ドイツの物理学者。H.R.ヘルツのおい。ハンブルクの生れ。ゲッティンゲン大学,ミュンヘン大学,ベルリン大学で学び,1913年ベルリン大学の物理学の研究助手となる。第1次世界大戦中は戦闘に動員され負傷したが,17年ベルリン大学の私講師,20年から25年オランダのフィリップス白熱電球会社の物理研究所技師,25年ハレ大学の教授となった。28年にはシャルロッテンブルク工科大学教授となってベルリンに戻ったが,35年ナチスの台頭に抗して職を辞し,ジーメンス会社の研究所長となった。54年からライプチヒのカール・マルクス大学教授。1913年以降,J.フランクと共同して,電子と原子や分子との衝突を研究し,14年電子が4.9eV以上の運動エネルギーをもつときにのみ水銀原子にそのエネルギーを与えることができ,一方,そのエネルギーを吸収した水銀原子は2537Åの共鳴線を放出することを見いだした(フランク=ヘルツの実験と呼ばれる)。この研究は,ボーアの量子論的な原子構造理論に実験的基礎を与えるものとなり,25年にフランクとともにノーベル物理学賞を受賞した。
執筆者:日野川 静枝
周波数の単位で,記号はHz。1Hz=1/sで定義される。1秒間に振動がn周期繰り返されたときがnHzである。電磁波や音波などで使われる。国際単位系(SI)の中の組立単位の一つである。秒の定義を実現するのに用いられるセシウム時間標準器のだす周波数は9 192 631 770Hzと高い精度で値がわかっており,これが周波数の標準となる。以前はサイクル毎秒(c/s)あるいは単にサイクル(c)が用いられていた。名はドイツの物理学者H.R.ヘルツにちなむ。
執筆者:大井 みさほ
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(今井秀孝 独立行政法人産業技術総合研究所研究顧問 / 2008年)
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1857~94
ドイツの物理学者。実験を行って電磁波を発見し,それが光波と同一性質を持つことを確かめ,マクスウェルの電磁理論を確認した(1887年)。これはのちに無線電信,電話に発達する出発点である。
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…この波動説はフレネルらによって整備され,複屈折や偏光なども光を横波とすることによって説明できることがわかった。その後,マクスウェルは,みずからの電磁理論から,光が電磁波であることを予言し,H.R.ヘルツがそれを実験的に証明した。光【田中 一郎】。…
…
【特殊相対性理論special theory of relativity】
1864年に定成されたマクスウェルの電磁理論からは,真空中をc≒3×108m/sで伝わる波動の存在が予言され,電磁波と名付けられた。この伝搬速度は,すでに測定されていた光の速度とよく一致し,ここに,光の本性は電磁波であるという考えが生まれたのである(光の電磁波説の確固たる基礎は1888年H.R.ヘルツによって与えられ,その実験はヘルツの実験と呼ばれている)。しかし,上記の3×108m/sという速度は,何に対する速度であろうか。…
…これに対して電波といったときは,周波数300万MHz程度のものまでをいう。 電波の利用に関して,電波の公平かつ能率的な利用を確保するために電波法が制定されているが,電波法では,第2条において〈電波とは300万メガヘルツ以下の周波数の電磁波をいう〉と電波を定義している。しかし,これは電波の定義というよりも,電波法の適用範囲を示したもので,電波そのものは,さらに高い周波数も含んだ一般的な概念と考えられる。…
※「ヘルツ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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