精選版 日本国語大辞典 「ベンゼン」の意味・読み・例文・類語
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代表的な芳香族炭化水素で、炭素原子6個が正六角形の6員環をなしている典型的な芳香族化合物である。ベンゾールとよばれることもある。さらに、古くはドイツでベンジンBenzinとよばれていたが、この名前は安息香酸benzoic acidを石灰とともに蒸留して得たことに由来し、E・ミッチェルリヒが命名した(1883)。benzeneという綴字(つづりじ)はA・W・ホフマンによるといわれる。
[向井利夫・廣田 穰 2016年2月17日]
特有のにおいをもつ無色透明で可燃性の液体で、煤(すす)の多い黒い煙をあげて燃える。その蒸気は有毒である。水には難溶だが、エタノール(エチルアルコール)やエーテルとは任意の割合で混じり合う。大気中のベンゼンは有害大気汚染物質と定められていて、長期間吸収すると造血器の障害をおこし、貧血などの原因になる。白血病などの癌(がん)性疾患を引き起こすともいわれている。
1825年にイギリスのM・ファラデーにより、鯨油の赤熱分解で得られたガスを凝縮させた液体中から最初に発見され、発見当時からその構造と化学的特性に関心が集まった。1865年、ドイツのF・A・ケクレが有名な亀甲(きっこう)形の六角環状説(ベンゼン環)を提案したが、最終的には1930年代になって、ようやくX線および電子線回折測定により正確な構造が決められた。それによると、ベンゼン環は1辺が0.1399ナノメートルの正六角形で、6本の炭素‐炭素(C-C)結合はまったく同等であり、6個のπ(パイ)電子が3本の二重結合に2個ずつ局在化しているのではなく、6個の炭素に平等に共有され、非局在化していることが証明された。ベンゼンの構造、性質が解明される過程において芳香族化合物の化学は発展し、この意味でも化学に果たした役割は非常に大きい。
[向井利夫・廣田 穰 2016年2月17日]
石炭タールまたは石油から製造されている。しかし、芳香族炭化水素の石油中に含まれる量は少ないので、石油化学工業ではナフサの接触分解、リホーミングによりベンゼンのみならずトルエン、キシレンを含む炭化水素油をつくり、これから分留してベンゼンを製造する。またアルキルベンゼンのような高級同族体からは、脱アルキル化、水素化分解法によりベンゼンを得ている。
[向井利夫・廣田 穰 2016年2月17日]
芳香族性として知られているπ電子の非局在化によりベンゼン環が安定化していて壊れにくいので、ベンゼン誘導体はベンゼン環が失われる付加反応ではなく、反応の後にもベンゼン環が残る置換反応をおこしやすいという特徴がある。ベンゼンの置換反応としては、次の(1)~(4)などが代表的であり、これらの反応はいずれもベンゼン置換体の重要な合成法である。
(1)硝酸と硫酸混合物によるニトロベンゼンの生成(ニトロ化)
(2)発煙硫酸によるベンゼンスルホン酸の生成(スルホン化)
(3)鉄粉を触媒とする塩素、臭素などのハロゲンとの反応によるクロロベンゼンやブロモベンゼンの生成(ハロゲン化)
(4)塩化アルミニウムを触媒としたアルキル化によるアルキルベンゼンの生成、ならびにアシル化によるアセトフェノンなどの芳香族ケトンの生成(フリーデル‐クラフツ反応)。
これら(1)~(4)の反応では陽イオン試薬がπ電子(負電荷)をもつベンゼン環に反応しているので、芳香族求電子置換反応と総称されている。
しかし、次の(5)~(7)の例のように、高温、高圧といった強い反応条件下では、ベンゼン環への付加やベンゼン環が開環する反応もみられる。
(5)白金触媒やニッケル触媒を用いる水素化によるシクロヘキサンの生成
(6)接触気相酸化による無水マレイン酸などの合成
(7)光を照射しながら塩素を反応させてBHC(ベンゼンヘキサクロリドの略、別名1,2,3,4,5,6-ヘキサクロロシクロヘキサン)を得る反応。
[向井利夫・廣田 穰 2016年2月17日]
各種化学製品の中間体製造のための出発原料として重要である。ベンゼンはアルキルベンゼン、フェノール、アニリン、スチレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、無水マレイン酸などの合成原料であり、これらからさらに各種の樹脂、繊維、洗剤、染料、殺虫剤、爆薬、医薬品などが誘導される(
)。[向井利夫・廣田 穰 2016年2月17日]
『山岡望著『化学史談5・ベンゼン祭』(1958・内田老鶴圃)』▽『吉田善一・大澤映二著『化学モノグラフ22 芳香族性』(1971・化学同人)』▽『中西準子・吉門洋・川崎一・東野晴行著『詳細リスク評価書シリーズ18 ベンゼン』(2008・丸善)』
benzole.C6H6(78.11).石油改質中に,また石炭を乾留したときのガスおよびタール中に多量に含まれ,工業的にこれらから分離,精製する.すなわち,石油精製工業においては,ナフサを接触改質してベンゼン,トルエン,キシレンなどの芳香族炭化水素に富む改質油にかえ,スルホラン法,その他によって芳香族のみを抽出し,さらに分留してトルエン,キシレン,そのほかの留分と分ける.また,トルエンやキシレンの脱メチル水素化法で製造するときには,Cr2O3,Mn2O3,CoOなどの担持触媒による接触反応で処理し,メチル基をメタンとして除去して製造される.ベンゼンは,芳香族炭化水素の代表的な化合物であり,芳香族特有の香りをもつ,無色,揮発性の液体で,人体には有毒である.融点5.5 ℃,沸点80.1 ℃.0.8737.
1.4979.比熱容量1.734 J K-1 mol-1(21.8 ℃).蒸発熱392.6 J g-1(沸点).引火性が強く引火点-11.10 ℃.λmax 198,256 nm(ε 8000,230).エタノール,エーテルなど多くの有機溶媒に可溶,水に難溶.水29.6物質量% で沸点69.25 ℃(101 kPa)の最低共沸混合物をつくる.ベンゼンの構造は正六角形の平面であり,C-C0.1397 nm,C-H0.1084 nm,∠C-C-Cおよび∠H-C-Cはすべて120°である.
ベンゼンは化学的に安定な化合物であるが,強力な試薬によって置換反応および付加反応を受ける.とくにニトロ化,ハロゲン化,スルホン化,あるいはフリーデル-クラフツ反応のような親電子置換反応は,ベンゼンの代表的な反応であり,これによってきわめて多種類の置換ベンゼン誘導体が合成され,これらは芳香族系合成化学,ならびにその工業の中間物として重要なものが多い.付加反応においては,塩素をラジカル的に付加させるとヘキサクロロシクロヘキサン(BHC)となり,水素を付加させるとシクロヘキサンが得られる.また,ニトロベンゼン,クロロベンゼンを経て多数のベンゼン誘導体に導き,染料,医薬,農薬などの中間物として用いられる.LD50 3800 mg/kg(ラット,経口).[CAS 71-43-2]
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…コークスや石炭ガス需要が増大するにつれ,それまで廃物として取扱いに困っていたコールタールを有効に利用することが考えられるようになった。A.W.vonホフマンを中心にコールタールの分析が進み,芳香族炭化水素であるベンゼンが発見された。1856年には弟子の一人であるW.H.パーキンが,ベンゼンからアニリン染料〈モーブ〉を合成するのに成功した。…
…石炭化学工業とは,化学工業のなかで石炭を原料として各種の化学製品を生産する産業で,石炭を乾留して得られる石炭ガス,コークス,コールタールを原料とするものと,石炭をガス化して原料とするもの,の二つに大別することができる。おもな製品としては,石炭ガスからつくられるBTX類(ベンゼン,トルエン,キシレン),コールタールからつくられるピッチ,クレオソート油などがある。なおコークスからカーバイドを経てアセチレンを生産する産業は,電気化学工業の範疇(はんちゆう)に入る。…
※「ベンゼン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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