日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホタテガイ」の意味・わかりやすい解説
ホタテガイ
ほたてがい / 帆立貝
Ezo giant scallop
[学] Patinopecten yessoensis
軟体動物門二枚貝綱イタヤガイ科の二枚貝。本州の東北地方から北海道、オホーツク海、朝鮮半島東岸、沿海州に分布し、水深10~30メートルの砂礫(されき)底にすむ。底質粒子のあまり小さな所は好まず、天然の好漁場といわれる所(1平方メートル当り6個体以上)では礫56%(細砂44%)、中漁場では43%、不良漁場(1.5個体以下)では17%である。
[奥谷喬司]
形態
普通、殻高、殻径とも20センチメートルほどに達するが、満1年で殻高2センチメートル、2年で6.2センチメートル、3年で9センチメートルぐらいになる。寿命はおよそ10ないし12年ほどである。殻は丸みのある扇形で、殻頂の前後に三角形の耳状突起がある。左殻は膨らみが弱く、濃い紫褐色である。個体によっては色が薄かったり、赤や黄白色の斑(はん)がある。左殻表面には低いが細くて鋭い放射肋(ろく)を20本ほどもつ。そのほか、小鱗片(りんぺん)状ないし布目状の微細な彫刻がある。右殻は左殻より深く、白色を帯び、放射肋は太くて低い。また右殻は左殻よりやや大きく、腹縁がわずかにずれている。右殻の前耳の下には足糸湾入がある。殻の内面は白く、蝶番(ちょうつがい)には顕著な歯はないが、太い内靭帯(じんたい)がある。前閉殻筋はなく、中央に丸くて大きい後閉殻筋痕(こん)がある。
[奥谷喬司]
生活史
ホタテガイは陸奥(むつ)湾では3月上旬、奥尻(おくしり)島では4月ごろ、根室(ねむろ)では6月に産卵し、5~7日で殻長120マイクロメートルぐらいに達し、D型幼生となる。2~3週間たって300マイクロメートルぐらいになると、付着生活に入る。初めは足糸で礫などに付着しているが、成貝では右殻を下にして海底に横たわる。通常は海底のリップルマーク(砂上にできる波形模様)の上に、潮上に腹縁を向けている。異常大発生のときはやむをえず泥質の所まで分布するが、いずれ大量斃死(へいし)を免れない。環境が悪化するとただちに移動する。移動は、名前のように殻を帆のように水面に立てて行うわけではなく、殻を激しく開閉させ、すきまから水を噴射して短距離を泳ぐことによる。水が耳状部のすきまから噴出されると、貝は腹縁の方向に進み、腹縁のほうから水が出ると殻頂の方向に進む。ヒトデなどの外敵に襲われそうになると、片側から激しく水を噴射して回転し、敵を振りほどく。
[奥谷喬司]
養殖
ホタテガイは従来、豊凶が激しく漁獲が安定しなかったが、現在では養殖技術の進歩によって、1980年8万3134トン、1990年22万9667トン、2000年30万4286トンと漁獲量は増加している。ホタテガイの養殖は1934年(昭和9)以来試みられていたが、1963年(昭和38)までは企業化されずにいた。同年、岩手県、ついで青森県、宮城県、さらに北海道のサロマ湖や内浦湾などで次々に養殖場が設置され、現在のような隆盛をみるに至った。初期には、「耳つり法」といって、殻高4~5センチメートルの貝の前耳に穴をあけ、ナイロンテグスを通してロープに結び付けておく方法が用いられた。この方法は、資材が安価である反面、手間がかかり、また貝の生存率が悪かった。次に、真珠貝養殖に用いるパールネットが流用試用されたが、これも貝の収容数が少ないので現在は用いられていない。現在、岩手県や青森県、サロマ湖などの大生産地で多く使用されているのは、ポケットネットおよび行灯籠(あんどんかご)である。ポケットネットは、目の間隔が2~3センチメートルのハイゼックス(ポリエチレン)製の網の片側に、同じ材質のポケット状の袋を数段取り付けたものである。貝を入れてからポケットの口をふさいで用いるが、この方法によると貝の変形も少なく、波の荒い所でも有効である。行灯籠は、同様のハイゼックス網地でつくった円筒形の籠で、20センチメートルごとに10段ほど仕切り底をつけ、中に貝を収容して垂下するものである。垂下方法も、当初はカキ筏(いかだ)などを流用していたが、現在は、海底から20メートル、海面から数メートルの所に張った中層延縄(はえなわ)式の施設につるすのが一般的である。
[奥谷喬司]
料理
貝柱は肉よりも大きく、おもに貝柱を食用にする。貝柱の周りについている外套膜(がいとうまく)も「ひも」と称して食用する。殻付きをそのまま直火にかけて焼いたり、殻から外した身は塩焼き、照焼き、バター焼きなどにする。ひもを除いた貝柱は、刺身、酢の物、煮つけ、フライ、スープ、コキールなどに広く利用できる。ひもは握りずしの種(たね)、酢みそ和(あ)え、わさびじょうゆ和えなどによい。塩ゆでして乾燥した干し貝柱は干貝(カンペイ)といい、中国料理によく用いられる。
[河野友美・大滝 緑]
『西村雄二著『オホーツクのホタテ漁業』(1994・北海道大学図書刊行会)』▽『菅原義雄・森勝義・竹内昌昭・沼知健一・松谷武成編『カキ・ホタテガイ・アワビ――生産技術と関連研究領域』(1995・恒星社厚生閣)』▽『東北農政局青森統計・情報センター編・刊『陸奥湾のたからほたてがい――もっと、ほたてを知ろう!』(2004)』