改訂新版 世界大百科事典 の解説
マイケルソン=モーリーの実験 (マイケルソンモーリーのじっけん)
Michelson-Morley experiment
光の媒質としてその存在が考えられていた絶対静止のエーテルに対する,地球の相対運動を検証しようとして企てられた実験。結果は1887年に発表されたが,絶対静止系(エーテル系)の存在について否定的なもので,アインシュタインの特殊相対性理論を生む重要な根拠となった。
絶対静止系が存在し,光は,この座標系で測ってc≒3×108m・s⁻1で進むものとしてみよう。ガリレイ変換に従うならば,エーテルに対してvの速さで動いている観測者からみると,光の速度はc±vとなるであろう。このことの正否を確かめるためにA.A.マイケルソンとモーリーEdward Williams Morley(1838-1923)は,図のaに示すような干渉計を用いた。光源Lから出た光は,半透鏡M0で直角方向の二つの光に分けられ,鏡M1,M2で反射された後再びM0によってこんどは望遠鏡Tに導かれ,ここで干渉を起こす。M0からM1,M2までの長さは,説明の便宜上,ともにlであるとする。
今,装置全体がM0M1の方向に速度vで動いているとすると,光がM0M1の往復に要する時間はl/(c+v)+l/(c-v)=(2l/c)(1-v2/c2)⁻1である。また,M0→M2→M0と進む光をエーテル系からみると図のbのようなくさび型となり,所要時間は(2l/c)(1-v2/c2)⁻1/2となる。二つの進路の時間差によって望遠鏡Tに達する光には位相差が生ずる。装置全体を90度回転させると,この位相差はちょうど逆符号となり,したがって回転に伴ってTでは,干渉縞の移動が見られるはずである。エーテルは太陽系に固定しているものと考えると,vは地球の公転速度v≒30km・s⁻1≒10⁻4cとなる。マイケルソンとモーリーの装置では,十分な精度があったにもかかわらず,これによる干渉縞の移動は認められなかった。これは,光速がc±vのようにはならず,あたかも,どの座標系からみてもつねにcであることを意味するかのようであり,従来の考えではまったく解釈できない結果であった。
→相対性理論
執筆者:藤井 保憲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報