マグマ(読み)まぐま(英語表記)magma

精選版 日本国語大辞典 「マグマ」の意味・読み・例文・類語

マグマ

〘名〙 (magma) 地下マントル上部にある岩石が溶けて生じた、高温溶融状態にある造岩物質。種々の珪酸塩が溶融した複雑な組成のもので流動性がある。火成岩はマグマが冷えて固まったもの。岩漿(がんしょう)
ルクレチウス科学(1929)〈寺田寅彦〉六「マグマ運動と地震関係に関する学説

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デジタル大辞泉 「マグマ」の意味・読み・例文・類語

マグマ(magma)

地下に存在する高温で溶融状態の物質。冷却固結すれば火成岩になる。岩漿がんしょう
積もり積もった不平不満。また、危険な要素や動き。「若手議員から執行部に対するマグマが噴き出す」「金利上昇というマグマがたまりつつある」
[類語]岩漿地殻地核マントル岩床岩脈プレート

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マグマ」の意味・わかりやすい解説

マグマ
まぐま
magma

岩漿(がんしょう)ともいう。地下(地球あるいは惑星の内部など)で形成された高温で溶融状態の岩石質物体。これが冷却固結してできたのが火成岩である。また、これが地上に噴出して形成されたものが火山である。マグマは液状の溶融体のみをさし、結晶を多量に含んだものは別の名称でよぼうという考え方もある。しかし、現実には純粋に液状のものとして地下から上昇してくるとは限らず、また冷却の過程で結晶が増加していくので、結晶を含めて広義で用いることが多い。このほか、「地下で発生した高温の流動性物体」という説明も可能である。デイサイト石英安山岩)質の場合のように、ほとんど固体に近いような状態で地上に押し上げられてくる場合があるが、これもマグマとよぶことがある。

[矢島敏彦]

組成

マグマの中にはほとんどあらゆる元素が含まれているが、そのなかでも多いものは酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、リン、マンガン、水素などである。火山岩ではマグマが急冷してできたチルドマージンchilled margin(急冷周縁相)がマグマの組成を示すものと考えられている。マグマの中に含まれていた水分、二酸化炭素その他の揮発性成分は大部分空中あるいは周囲に放出される。そこで、岩石の分析値はそのままマグマの化学組成を示すものではない。逃げ去った揮発性成分を推定して元の組成を復原しなければならない。

 揮発性成分としては炭素、硫黄(いおう)、フッ素、塩素などが含まれる。地域によっては、炭酸塩を主成分とするマグマ、硫化物を多量に含むマグマなどがある。地上に噴出するマグマの種類はさまざまであるが、地下で最初に発生するマグマの種類は限られていると考えられており、この親マグマのことを本源マグマとよぶ。おもな本源マグマは玄武岩質マグマ、花崗岩(かこうがん)質マグマであるが、このほかにも安山岩質マグマもあり、さらに、玄武岩質マグマにもソレアイト質のもの、アルカリ質のものなど、いくつかの系統があると推定されている。先カンブリア時代には超塩基性マグマも存在したらしい。

[矢島敏彦]

発生および活動

地下浅所でのマグマの温度はおおよそ650~1300℃の間である。マグマは地殻下部からマントル上部(地下数十~数百キロメートル)の深さで発生する。この深さの位置に地震波の速度が周辺より遅くなるところ(低速度層)があって、これがマグマ発生帯であるとされている。地下の温度の上昇とか、圧力の減少などによって部分溶融がおこりマグマが発生し、それが集まると、マグマの密度は周辺の岩石の密度よりわずかに低いので、浮力によって徐々に上方に向かって移動してゆくことになる。周囲の岩石の密度と同じところまでくると、マグマ溜(だま)りをつくる。マグマ溜りには地表近く(火山直下)に位置するものから、かなりの深所に位置するものまで、いくつかの種類のものがあるらしい。マグマ溜りの中で結晶化が進むと、未固結の部分の水などの揮発性成分の圧力が高くなり、ふたたび地上にマグマを押し上げようとする力が働く。マグマ溜り付近に働く広域的圧力(プレートを押す力)はマグマ上昇の引き金となる。マグマがさらに上昇して周辺の圧力が低下すると、揮発性成分が飽和して気相として分離して発泡することになる。マグマが発泡をおこすと体積が増大し、それが急激におこると噴火作用となる。マグマ発生のより巨視的原因としては、マントル内の圧力解放とマントル対流の上昇、マントル沈み込みの際の粘性摩擦熱、ホットスポットhot spotなどの熱源が考えられている。

[矢島敏彦]

『久城育夫・荒牧重雄編『岩波講座 地球科学3 地球の物質科学Ⅱ』(1978・岩波書店)』『横山泉・荒牧重雄・中村一明編『岩波講座 地球科学7 火山』(1979・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マグマ」の意味・わかりやすい解説

マグマ
magma

火成岩の元になる造岩鉱物が溶融あるいは部分溶融した液状の物質。岩漿ともいう。ほとんどがケイ酸塩鉱物の溶融体からなるが,炭酸塩鉱物硫化鉱物の溶融体も含まれる。マグマは直接観測されることはなく,火山の噴火の際に,溶岩となって地表に流出したり,含有する揮発性成分(おもに水)が火山ガスとして空中に逸散したりする。またマグマ内の結晶鉱物や溶解されていない岩片もマグマに含まれる。マグマは上部マントルにある固体の橄欖岩が,高温のマントルの上昇に伴って温度が上がったり圧力が下がったりする,あるいは海洋プレートの沈み込みに伴って上部マントルに水が供給されたりすると,その一部が溶けて,玄武岩と同じ化学組成の玄武岩質マグマとなる(→本源マグマ)。マグマは浮力によって地殻下部へとゆっくり上昇し,周囲の岩石を溶かし成分を変化させながら,さらに上昇し,周囲との密度が均衡する火山直下のマグマだまりにたまる。マグマの性質や火成岩が多様性に富む要因の一つとして,カナダ出身の実験岩石学者ノーマン・L.ボーエンが提唱した反応系列 reaction seriesに基づく,マグマの結晶分化作用がある。このメカニズムによると,マグマはマグマだまりにとどまる間に徐々に冷やされて固化する過程で,含有する造岩鉱物を晶出させることで連続的に化学組成を変化させ,より多くの二酸化ケイ素を含む,粘り気のある安山岩質,流紋岩質のマグマに変わり,さまざまな種類の火成岩をつくりだす。このほか,異なる性質のマグマ同士の混合,周囲の岩石を溶かすことで元の性質を変える同化作用も,マグマの多様性を生み出す要因となる。

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化学辞典 第2版 「マグマ」の解説

マグマ
マグマ
magma

岩漿(しょう)ともいう.天然に出現する溶融ケイ酸塩.地下深部には炭酸塩類を主体とするマグマも存在しうるとされる.その化学組成により,玄武岩マグマ,安山岩マグマ,流紋岩マグマなどに区別される.これらのうち,玄武岩マグマは分別結晶作用によって,より酸性な安山岩質,あるいは流紋岩質マグマを生成すると考えられている.玄武岩マグマはその組成にもとづいて,トレイ岩マグマ,アルカリ岩マグマ,および高アルミナ玄武岩マグマに分類されている.これら3種類の玄武岩マグマは,それぞれ本源マグマとよばれ,組成上ではトレイ岩,高アルミナ,アルカリ玄武岩マグマの順にアルカリの含量が多くなる.一般に,(Na2O + K2O)/SiO2比をパラメーターにとって区別される.玄武岩マグマの温度は1200 ℃ と推定され,酸性になるにつれ(SiO2の量が多くなることを意味する)マグマの温度は低下し,水蒸気圧が大きくなると考えられている.地下深部のマグマは多量の水を溶解しているが,マグマの上昇によって圧力が下がると,水は急激にマグマより放出され,脱ガス作用によって火山の噴火が起こるとされている.とくに安山岩質マグマの噴出ではこれが大きな噴火の要因とされる.

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百科事典マイペディア 「マグマ」の意味・わかりやすい解説

マグマ

岩漿(がんしょう)とも。地下深所で岩石が溶融してできる高温のケイ酸塩溶融体。地殻上層または地表にのぼって固結すれば火成岩となる。マグマの種類は火成岩の種類(化学的にみた)だけあるわけだが,もともとは玄武岩質マグマしかなく,他はその分化でできるとする説が長く支配した。流紋岩質マグマも初生的にできるとする議論もあり,マグマの多様性の起源は岩石学の大きな問題となっている。
→関連項目火山性地震結晶分化作用正マグマ鉱床ソレイアイトマグマオーシャンレアアース

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知恵蔵 「マグマ」の解説

マグマ

地下の岩石が融解して生じる高温の液体。それが地表から噴出するのが噴火。マグマが液体状態のまま火口から噴出したものが溶岩。マグマの大部分はケイ酸塩溶融物で、主な構成元素は、酸素、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム、カリウム。ケイ素の量は、マグマの流動性や、噴火のタイプを左右する。ケイ素が少なく流動性の高いものが玄武岩質マグマで、主に溶岩流として噴出する。以下、含有量が増えるにつれ、安山岩質マグマ、デイサイト質マグマ、流紋岩質マグマと呼称が変わり、流動性が悪くなり、爆発性が高まる。火口からの噴出温度は、玄武岩質が1200℃前後、流紋岩質が900℃前後。マグマの起源は、上部マントルの深さ100km付近かそれ以浅にあり、マントル物質の上昇流の中で、減圧融解により岩石が部分的に溶け、形成されるとみられる。形成直後のマグマはおそらく玄武岩質で、それが上昇する過程で、条件によって鉱物結晶が析出し(結晶分化作用)、また地殻物質と反応して、ケイ素の量が増えていく。

(井田喜明 東京大学名誉教授 / 2007年)

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世界大百科事典 第2版 「マグマ」の意味・わかりやすい解説

マグマ【magma】

地下深部で発生する高温の溶融物質で,冷却し固結すると火成岩を生じる。岩漿(がんしよう)とも呼ばれるが,最近はこの語はあまり使われない。マグマは本来液体のみを意味するが,実際には結晶や分離したガスなどを少量含んでいるものもマグマと呼んでいる。マグマが地表に流出したもの,およびそれが固結したものを溶岩という。
[マグマの性質]
 マグマの大部分はケイ酸塩溶融物で,主成分元素はO,Si,Al,Mg,Fe,Ca,Na,K,Tiなどで,揮発性成分として,H2O,CO2,S,Fなどを含んでいる。

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デジタル大辞泉プラス 「マグマ」の解説

マグマ

東宝特撮映画『妖星ゴラス』(1962)に登場する怪獣。南極大陸の氷の下にいたセイウチに似た巨大怪獣。全長50メートル。

マグマ

2007~2009年に横浜、大阪、名古屋などで開催されていたロック・イベント。

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岩石学辞典 「マグマ」の解説

マグマ

岩漿

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世界大百科事典内のマグマの言及

【温泉】より

…草津3万4240l/min,別府2万2200l/min,箱根1万8474l/min,熱海1万6290l/min,蔵王1万5000l/min,登別1万0390l/minなどが日本の湧出量の大きい温泉地である。プレート生産地帯ではマグマの生産量がプレート沈み込み地帯の数倍に達しているので,降水量や地質条件に恵まれていると大きな温泉湧出量を示すことになる。その好例がアイスランドである。…

【火成岩】より

…火成岩とは地下深部で発生するマグマが地表に噴出したり,あるいは地殻中に貫入し,冷却・固結して生じた岩石の総称である。マグマが地表に噴出して生じた火成岩を噴出岩または火山岩と呼ぶ。…

【火成作用】より

…マグマの発生からその上昇,冷却・固結にいたる間に,マグマによってひきおこされる現象の総称。火成作用は火山作用volcanismと深成作用plutonismに大別される。…

【結晶分化作用】より

…晶出分化作用ともいう。化学組成の均一なマグマから化学組成の異なる種々の火成岩が生ずることをマグマの分化と呼ぶ。特に,結晶作用によって,もとのマグマとは異なる化学組成の岩石が生ずることを結晶分化作用という。…

※「マグマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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