日本大百科全書(ニッポニカ) 「マネー・ロンダリング」の意味・わかりやすい解説
マネー・ロンダリング
まねーろんだりんぐ
money laundering
麻薬の違法取引や犯罪にからんで得た不正資金を、銀行口座などを利用することによって、その出所や流れをわからなくしてしまうこと。汚れた金を「洗濯、洗浄」するという意味で資金洗浄ともいわれる。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以降、国際社会におけるテロの脅威が高まっていることから、「マネー・ロンダリングおよびテロ資金供与対策」とひとくくりにして、国際的に関係法令等の整備が急がれ、金融機関等の特定事業者においても順次対応が進められている。
1989年7月のフランスのアルシュ・サミットの経済宣言を受けて設立された政府間機関である金融活動作業部会(FATF(ファトフ))は、1990年にマネー・ロンダリング対策として各国が取り組むべき「40の勧告」を策定した。ここではマネー・ロンダリング取締りのための国内法制の整備、金融機関等に対する顧客の本人確認および疑わしい取引の届出の義務化などを規定した。その後1996年には、マネー・ロンダリング罪の前提となる犯罪の範囲を薬物犯罪だけでなく、重大犯罪にも拡大するとともに、疑わしい取引の届出制度の対象となる犯罪も同様に拡大すべきなどの改定を行った。1998年3月には、バーミンガム・サミットで、マネー・ロンダリング情報の受理・分析・提供を行う単一の政府機関として資金情報機関(FIU:Financial Intelligence Unit)を各国に設置することが合意された。
1998年9月にパリで開かれた会合では「日本の対策は有効ではない」との厳しい審査報告が採択された。日本ではマネー・ロンダリング行為で処罰されるのは、麻薬取引で得た収益に限られ、すでに三十数か国で実施されている疑わしい取引の届出制度も形だけに終わっている点が問題視された。1999年(平成11)8月、日本ではマネー・ロンダリングなどを規制する組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法が成立し、2000年(平成12)金融監督庁(現、金融庁)には特定金融情報室(JAFIO:Japan Financial Intelligence Office。日本版FIU)が設置され本格的取組みが始まった。なお2007年、JAFIOの業務は国家公安委員会・警察庁に移管し、名称も犯罪収益移転防止対策室(JAFIC:Japan Financial Intelligence Center)となった。さらにテロ資金供与対策のため、FATFが2001年に「8の特別勧告」、2004年に1項目を追加した「9の特別勧告」を採択したことを受け、日本でも、疑わしい取引に関する情報を外国関係機関に提供するなど、マネー・ロンダリング対策およびテロ資金供与対策における国際的な連携を強化した。
しかし、2008年10月に公開されたFATFによる対日相互審査(第三次対日相互審査)報告書概要では、全49項目(マネー・ロンダリング対策に関する勧告40項目、テロ資金供与対策に関する特別勧告9項目)の勧告中、「テロ資金供与の犯罪化が不完全(テロ行為へのアジトの提供など物的支援も処罰対象とすべき)」、「金融機関、非金融機関に対し適用のあるマネー・ロンダリングおよびテロ資金供与の予防措置に関し、顧客管理の要件や義務の一部欠如」などを含む、25の項目について不備が指摘された(フォローが必要となる「一部履行」が15項目、「不履行」が10項目)。このFATFによる第三次対日相互審査に対するフォローアップ・プロセスのなかで、2011年4月には犯罪収益移転防止法を一部改正(2013年4月全面施行)したほか、2014年にはいわゆるFATF関連三法といわれる、改正テロ資金提供処罰法(2014年12月施行)、国際テロリスト財産凍結法(同法政省令とともに2015年10月施行)、改正犯罪収益移転防止法(同法政省令とともに2016年10月施行)をそれぞれ成立させた。また、2017年7月には国際組織犯罪防止条約も締結され、マネー・ロンダリングおよびテロ資金供与の予防に対する重要な改善はすでに実現している。
次のFATFによる対日相互審査(第四次対日相互審査)は2019年4月から6月ごろに開始され、2020年6月のFATF全体会合において報告書案が議論されたのちに公表される予定である。この審査に対応できる態勢強化を目ざし、金融庁では2018年3月に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表した。しかし、第三次対日相互審査では法令等の整備状況が中心的な審査項目であったが、第四次対日相互審査では「金融機関等および当局の双方がリスクベースで実効的な対策を実施しているかが審査の重点」とされていることから、金融庁では2018年8月に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」を発表した。ここでは、金融庁所管事業者の対応状況等を中心に、2018年8月時点の日本におけるマネー・ロンダリングおよびテロ資金供与対策の現状と今後の課題について取りまとめられている。
なお、海外企業誘致のため、企業に対して税制上の優遇措置を与える国(地域)をタックス・ヘイブンというが、各国ともマフィアなどによるマネー・ロンダリングを防止して、税収を確保するため、特定外国子会社の所得を親会社の所得と合算して課税する制度を導入するなど、タックス・ヘイブン利用の規制に努めている。
[前田拓生 2019年5月21日]
『神田眞人「対日金融審査について」(『ファイナンス』平成29年9月号所収・2017・財務省)』▽『金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(2018)』▽『金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」(2018)』▽『福井康人「マネロン対策・テロ資金供与対策・拡散金融対策の最近の動向」(『CISTECジャーナル』2018年9月号所収・2018・安全保障貿易情報センター)』▽『和家泰彦「金融庁ガイドライン対応 マネロン・テロ資金供与防止対策」(『マネーロンダリング・反社取引防止講座』所収・2018・銀行研修社)』▽『外務省「日本の国際テロ対策協力 テロ資金対策」(2019)』▽『犯罪収益移転防止対策室「JAFICと国際機関等の連携」(2019)』▽『法務省法務総合研究所編『犯罪白書』各年版』