ミサ(その他表記)mass
missa[ラテン]

改訂新版 世界大百科事典 「ミサ」の意味・わかりやすい解説

ミサ
mass
missa[ラテン]

キリスト教の儀礼である典礼の中心をなす礼拝集会。西方教会,特にカトリック教会で最も一般化した名称で,その由来は派遣のことばイテ・ミサ・エストIte,missa est〉(〈行け,汝らは去らしめられる〉の意)から出たものといわれているが定かでない。ミサは,キリストの生涯のできごとの一つを福音書を中心に聖書朗読によって記念する〈ことばの典礼〉から始まるが,その生涯の救いの業(わざ)の中心である十字架上の死による完全な奉献を〈最後の晩餐〉の遺言に従って記念する〈感謝の典礼〉が続き,主の晩餐にあずかってキリストとの出会いを通して相互の一致のうちに神との交わりを深める〈交わりの儀〉によって頂点に達する。次に,《ミサ典礼書》によって,ミサの式次第の詳細を述べる。

Ⅰ.開祭ritus initiales

1.入祭の歌:礼拝集会の場とその日祝う秘儀にふさわしい雰囲気を作る会衆の歌。2.入会のあいさつ:聖書のことばによる司式司祭と,会衆とが交わすあいさつ(対話句)。3.回心:神のことばを受け入れ,すすんで奉献できるために必要な悔い改めとゆるし。4.あわれみの賛歌:罪のゆるしを与えようとする主のいつくしみをたたえる会衆の歌。5.栄光の賛歌:神に栄光を帰して感謝し,キリストのいつくしみを願う散文詩の歌。6.集会祈願:司式司祭が一同を代表し,会衆の祈りを一つにしてささげる公式祈願。

Ⅱ.ことばの典礼liturgia verbi

7.第1朗読:福音のできごとを前もってかたどった予型にあたるできごとを旧約聖書から朗読。復活節には《使徒行伝》から朗読。8.答唱詩篇:旧約の朗読個所に合う詩篇を聴きながら,答唱句を歌って答える詩篇の歌。9.第2朗読:使徒の時代にキリストの福音をいかに生きるかを述べた使徒書の朗読。10.アレルヤ唱:福音を述べるキリストを歓迎する福音の序曲。四旬節には詠唱を用いる。11.福音朗読:その日記念するキリストのできごとを典礼朗読によって現在化する。12.説教:その日の福音を生活に生かすための手引として行われる典礼行為。13.信仰宣言:神のことばに答えて,教会を通して受けた信仰を告白し,宣言する。14.共同祈願:神の招きに答えて,奉献するために必要な恵みを共同体のために祈る信者の祈り。

Ⅲ.感謝の典礼liturgia eucharistica

15.奉納の歌:祭壇に供物を準備する間に歌われる行動参加のための会衆の歌。16.奉納祈願:祭壇の供物が神に受け入れられるものとなるように祈る公式祈願。17.叙唱:司式司祭と会衆の間の対話句に始まり,司祭によって述べられる奉献文の序曲。18.感謝の賛歌:感謝の典礼への行動参加のために叙唱と奉献文の間に置かれた会衆の歌。19.奉献文:パンとブドウ酒の奉献によるキリストの受難と死と復活の記念(アナムネシス)。その中心に聖別定句が置かれ,その前後に聖霊の働きと一致を祈る(エピクレシス)。20.栄唱:キリストによって聖霊の交わりの中で父である神に栄光と賛美を帰する結び。

Ⅳ.交わりの儀ritus communionis

21.主の祈り:マタイによる〈主の祈り〉(《マタイによる福音書》6:9~13)によって〈神の国〉の実現を祈る。22.副文:神の支配による平和が現代世界に具体化されるよう祈る。23.教会に平和を願う祈り:キリストの平和を教会全体の上に祈る。24.平和のあいさつ:その時,その場に集まったキリスト者が相互に〈主の平和〉を祈る。25.平和の賛歌:救い主キリストを歓迎する拝領前の会衆の歌。26.拝領の歌:聖別されたパンを受けて一同が一つになることを表す行動参加の歌。27.拝領祈願:受けた秘跡の交わりの中で感謝の心を一つにして祈る公式祈願。

Ⅴ.閉祭ritus conclusionis

28.お知らせ:派遣される社会における福音の需要と教会活動の報告。29.派遣の祝福:神のことばと秘跡に強められたキリスト者が父と子と聖霊に派遣される。30.閉祭のあいさつ:教会から社会への派遣とキリストの平和の保証。
執筆者:

東方正教会では典礼liturgia,leitourgiaということばがミサの意味で用いられる。カトリック教会の場合と基本的な形式と意味は同じだが,細部には出入りがある。一般に東方正教会のほうが古い形式を伝えている。ミサには典礼文の違いによって3種類のものが行われる。通常用いられるのは〈聖ヨアンネス・クリュソストモスの典礼〉である。そのほか,年10回,〈聖大バシレイオスの典礼〉が行われ,また大斎中の月曜,水曜,受難週間の最初の3日間には,〈先備聖体の典礼〉(または〈聖グレゴリオスの典礼〉と呼ぶ)といって,ミサの主要部ともいうべき聖体の形質変化の儀式を欠いた典礼が用いられる。〈先備聖体の典礼〉はカトリック教会ではもはや行われない。

 ミサが〈ことばの祭儀〉と〈聖体の祭儀〉から成ることはいうまでもないが,正教会では前者を〈洗礼志願者のミサ〉,後者を〈信者のミサ〉と呼ぶ。これは,信者以外の秘儀への参加を禁じた古代教会の慣行を伝えるものである。また,〈ことばの祭儀〉の前に会衆の目に触れない至聖所で司祭が輔祭とともに聖体の準備を行うが,この部分を〈奉献礼儀〉と呼び,ミサの一部を成す。奉献礼儀はカトリック教会では簡略化されてミサの最中に行われる。そのほか,東方正教会では典文をすべて歌うこと(カトリック教会のいわゆる〈歌ミサ〉),聖堂内のイコノスタシスの扉を司祭が出入りしながらミサを進行させること,信者がパンとブドウ酒の両形色で聖体拝領を行うことなど,カトリック教会のミサとは異なる点がある。なお,典礼書にはさまざまの種類のものがある。
典礼 →ミサ曲
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミサ」の意味・わかりやすい解説

ミサ
みさ
missa

カトリック教会で行われる祭儀のなかでもっとも重要な祭儀。感謝の聖体祭儀といわれる。日曜日に教会に信徒が集まって祝う祭りである。その起源はイエス・キリストの制定による。キリストが十字架にかけられる前夜、弟子たちと最後の晩餐(ばんさん)をともにしたとき、パンをとり、「これはあなたがたのために渡される私の体である」といい、ぶどう酒の入った杯をとり、「これは私の血の杯、あなたがたのために流される新しい契約の血である」といって、「これを私の記念として行え」と弟子たちに命令した。この命令に基づいて、弟子たちは夕方集まって、「パンを裂く」(使徒行録)ことを行い始めた。それが「主の日」である日曜日の朝に移され、ユダヤ教の祭式に倣って聖書朗読や説教が加えられ、時代とともにいろいろな形のミサが行われるようになった。ローマ典礼、ビザンティン典礼、コプト式典礼など多彩であった。トリエント公会議の決定に基づいて、ローマ式典礼が定められ(1570)、これがローマ・カトリック教会全体のミサ式文となった。これはラテン語であったので、世界のどこでもまったく同じミサがたてられ、教会の一致と統一のシンボルともなった。しかし、一般信徒はラテン語を解せず、ミサの深い意味も理解することなく、形式的にミサにあずかることともなったので、バチカン第二公会議(1962~65)によって、各国別の国語が使用されるようになったのである。

 ミサの意義は、第一に主なるキリストの十字架と復活を想起し、その神秘に参与することである。単なる儀式ではなく、パンとぶどう酒のしるしのもとに、キリストの贖罪(しょくざい)の働きが実現されるのである。この意味でミサはサクラメント(秘蹟(ひせき))の一つである。キリストの十字架の犠牲と復活の栄光がミサのうちに現在化する。信徒は日曜日にミサにあずかり、キリストとともに自分の身を捧(ささ)げ、その1週間キリストに倣う生活ができる活力と恵みを祈るのである。ミサは第二に「感謝の祭儀」ともいわれるように神に感謝を捧げることである。初代教会はミサを「主の晩餐」とよび、信徒が主イエスを中心としてともに食事をし、神に感謝を捧げた。そこから、神の子供たちが集まってなす家族的食事であり、ともに父なる神に感謝する祭り(神道(しんとう)的にいえば「なおらい」)である。

 ミサの種類は歌ミサMissa cantataと読誦(どくしょう)ミサMissa lectaに大別される。数人の助祭を伴ってなされる歌ミサを荘厳ミサMissa sollemnisという。司教や高位聖職者の歌ミサを高座ミサMissa pontificalisとよぶ。ミサの式次第は、開祭の儀、ことばの典礼、感謝の典礼、交わりの儀、閉祭の儀の五部からなっている。ミサの中心は感謝の典礼にある。パンとぶどう酒の奉献のあとに叙唱と感謝賛歌が歌われたのち、中心部分である奉献文に続く。奉献文は現在4種類あり、司式者がそのときに応じてそのなかから選べる。閉祭の儀では派遣の祝福と閉祭の挨拶(あいさつ)があるが、昔はラテン語で「イテ・ミサ・エスト」Ite, missa est(行きなさい、祭儀は終わりました)といわれたことから、ミサの名称が生まれた。

[門脇佳吉]

『土屋吉正著『ミサ――その意味と歴史』(1977・あかし書房)』

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百科事典マイペディア 「ミサ」の意味・わかりやすい解説

ミサ

キリスト教の儀礼たる典礼の中枢をなす礼拝集会。missaはラテン語で,英語ではmass。カトリック教会における式次第は以下の通り。I.開祭,II.ことばの典礼,III.感謝の典礼,IV.交わりの儀,V.閉祭。東方正教会でも行われ,典礼文などに古色をとどめている。→ミサ曲
→関連項目聖体論争荘厳ミサ曲ベネディクトゥスレクイエム

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミサ」の意味・わかりやすい解説

ミサ
Missa; Holy Mass

エウカリスチア (感謝の祭儀) のローマ・カトリック教会における呼称。元来ラテン語で「終了」の意で他の教会行事にも用いられていたが,のちエウカリスチアに限定されるようになった。聖書の一部の朗唱と説教から成る第1部と,キリストの最後の晩餐を記念する第2部とから成立している。構成上,不変部のミサ通常文と,個々のミサの時節や性格によって変るミサ固有文とに分れている。また古代においては信経の朗唱後信者でない者の退去を求めたところから,そこまでのミサの部分を志願者のミサ,以後を信者のミサという。なお通常文につけられた曲を一般にミサ曲という。

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世界大百科事典(旧版)内のミサの言及

【ミサ曲】より

…カトリック教会のミサの式文から〈キリエ〉(あわれみの賛歌),〈グロリア〉(栄光の賛歌),〈クレド〉(信仰宣言),〈サンクトゥス〉(感謝の賛歌),〈アニュス・デイ〉(平和の賛歌)の5曲一組で作曲したものをいう。以上のような通常式文のほかに,ミサの挙式日や目的などによって定められた固有式文を併せて作曲したものもある。特殊なものに,死者のためのミサで歌われるレクイエムがある。プロテスタントでも,英国国教会ではカトリックのミサ曲がそのまま歌われることもあり,ルター派では〈キリエ〉と〈グロリア〉のみの〈短いミサKurzemesse(ドイツ語)〉の音楽が作られた。…

【クリスマス】より

…イエス・キリストの降誕記念日。クリスマスは英語でキリストChristのミサmassの意味。〈Xmas〉と書く場合のXは,ギリシア語のキリスト(クリストス)ΧΡΙΣΤΟΣの第1字を用いた書き方である。…

【典礼】より

…典礼の原語はギリシア語leitourgiaであり,15世紀にラテン語をはじめ西欧の諸言語に入ったもので,語源から見て会衆の共同の業(わざ)であることが示されている。なお東方正教会では,leitourgiaはもっぱらミサの意で用いられる。日本語の〈典礼〉は,中国語からきたもので,漢和辞典には普通〈典法礼儀の略〉とされ,共同体の意味は乏しい。…

※「ミサ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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