日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミドリムシ」の意味・わかりやすい解説
ミドリムシ
みどりむし / 緑虫
[学] Euglena
ミドリムシ植物の1属の総称。ユーグレナともいう。体内に葉緑体をもち、光合成を行うという点からは植物といえるが、体を包む細胞壁がなく、鞭毛(べんもう)で遊泳するという点では動物ともいえる。このため、現在でも植物として扱われたり、原生動物鞭毛虫類の一員として扱われたりしている。なお、ミドリムシはタンパク質性の外皮をもつが、これは細胞膜の内側にあるため細胞壁とはいいがたい。体は単細胞で、多くは細長い紡錘形である。体の先端に貯胞とよばれる大きな穴があり、その底から長くて太い1本の鞭毛が出ているが、電子顕微鏡による観察では、さらにもう1本の短い鞭毛のあることが確かめられている。貯胞は収縮胞からの排水場で、物を食べる口ではない。また、ミドリムシは鞭毛や収縮胞以外に、眼点、葉緑体、核などの細胞器官と貯蔵物質のパラミロンをもっている。
世界で約150種ほどが知られているが、分類は、おもに葉緑体やパラミロンの形を基準にして行われている。体も大形なため、一見、分類は容易のように思えるが、体が伸縮するほか、葉緑体の形も見分けにくいため、日本で生育する種類もまだよく調べられていないのが実情である。湖沼、池、水たまりなどの淡水域に広く分布するが、多くの種は、清水よりも有機物を含む汚れた水に生育する。とくに夏季に大発生したとき、いわゆる「水の華(はな)」といわれる状態となる。種類によっては培養しやすいため、研究用、教材として多用されてきた。とりわけ、鞭毛運動の観察、走光性の実験などではなじみの深い生物である。なお、ミドリムシの走光性とは、眼点で光を感じ取り、光のくる方向に泳ぐ性質のことである。
[小林 弘]