日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ミヒャエル・コールハース
みひゃえるこーるはーす
Michael Kohlhaas
ドイツの劇作家・小説家クライストの小説。1810年刊。モデルは年代記に登場する16世紀の人物。馬喰(ばくろう)コールハースはザクセンの土地貴族(ユンカー)の無法な行為に抗議して、「正義」の戦いを挑む。合法的訴訟を妨害されると、一徹な正義の念から自力による報復を企て、この実直で敬虔(けいけん)な人間はやがて恐るべき暴徒の長になる。ルターやブランデンブルク選帝侯の調停を得て不本意な不法行為を中止した彼は、自分の要求がかなえられたのをみて、死罪に服する。一馬喰の戦いの物語は、また悪い権力者の没落の物語でもある。作者は記録的手法や客観的叙述によってこの特異な主人公を造形する反面、浪漫(ろうまん)的モチーフも導入して権力者の破滅を戯画的に描出している。
[中村志朗]
『吉田次郎訳『ミヒャエル・コールハースの運命』(岩波文庫)』