改訂新版 世界大百科事典 「ムササビ」の意味・わかりやすい解説
ムササビ (鼯鼠)
white-cheeked
giant flying squirrel
Petaurista leucogenys
齧歯(げつし)目リス科の哺乳類。バンドリ,ノブスマ,ヨブスマ,モマ,モモンガなどの別名がある。前・後肢と体側との間に皮膚がのびてできた飛膜をもつ大型の滑空する樹上生のリスの一種。飛膜は,前肢とほおとの間,後肢と尾との間にもはる。飛膜は滑空時以外には体側に引き込まれて目だたず,姿はリスに似る。体色は背側が灰褐色,赤褐色あるいは黒褐色で,ほおから目の上にかけて大きな白斑がある。腹側は白色。目が大きく,手足には鋭いかぎづめをもつ。北海道を除く日本各地と朝鮮半島,中国(四川,雲南など)に分布。モモンガとしばしば混同されるが,体がはるかに大きく,体長30~49cm,尾長28~41.5cm,体重1~1.5kg。
夜行性。平地から標高1800mくらいまでの大木の茂る森林を典型的なすみ場所とするが,高さ20~30mの幹の太い高木があり,周囲に採餌場となる雑木林などがあれば,神社の境内などの比較的小規模の森にも生息する。幹の太い高木は,滑空の発進場所とされ,また,幹の洞が巣として利用される。滑空によって木から木へと移動し,ほとんど地上に降りることなく,もっぱら樹上で活動して,木の葉,果実,芽,花などの植物質を食べる。滑空距離は,発進場所の高さの2~2.5倍で,ふつう30m程度だが,100mを超えることもある。滑空コースは,とくに長距離の滑空の場合,ほぼ一定しているが,途中でUターンするなどかなりの調節能力をもつ。ただし,翼をはばたくことによる飛行はできない。単独あるいは母子の小家族群でくらし,ときに2組の母子が同一の巣に見られることもある。繁殖はふつう年1回で,4~6月に1~2子が生まれる。母子関係は緊密で,離乳後も1年近く採餌に連れだって出掛け,巣を共に過ごす。カオジロムササビP.alborufus,オオアカムササビP.petauristaなどのよく似た近縁種が台湾から東南アジアにかけて広く分布する。
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報