日本大百科全書(ニッポニカ) 「メリ」の意味・わかりやすい解説
メリ
めり
Veijo Väinö Valvo Meri
(1928― )
フィンランドの小説家、詩人、劇作家。カレリア地方(現ロシア連邦領)ビープリ(ビボルグ)市生まれ。大学で歴史を学び、その後、出版業などに携わるかたわら作品を発表する。1954年のデビュー以来、前衛的な戦争小説を書き続けている。ソビエト・フィンランド戦争などを目撃したことが、「戦争を書かないではいられない」という下地となり、彼の史観を特異なものにした。彼の視点は、つねに戦時下の一隅にいる一平凡人の一点に向けられ、戦争を遠景に、人間の平凡な試みさえもが無に帰していく過程を、冷酷、精密に追う。彼による提示は、ただ、無へ向かう旅人のパントマイム、解答なき答えだけである。そこに漂っている苦いユーモアと悲劇性から作品は戦争のパロディーともいえる。技法的には、夏目漱石(そうせき)、大岡昇平を通して知った現代日本の小説構成や、チェーホフの創作態度の影響もみせて、独自の「新小説(ヌーボー・ロマン)」の世界を構築している。代表作として、道端で拾ったロープを体に巻き付け、前線から引き上げる特異な兵士の心境を物語った小説『マニラ麻のロープ』(1957)がある。狂気からの解放を求める人間の深層心理を、小話を絡めた独特の文体で表現し、フィンランドの散文のモダニズムを代表する作家となる。1971年には、北欧評議会の文学賞(北欧文学賞)を受賞するなど国際的に高い評価を受け、多くの言語に翻訳されている。そのほかに、『1918年の出来事』(1960)、『鏡に描かれた女』(1963)、『墓地』(1964)、北欧文学賞を受けた『軍曹の息子』(1971)、『アイスホッケー選手の夏』(1980)などの小説や、詩集『朝のような春』(1987)を著している。
[高橋静男・末延 淳]