日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤモリ」の意味・わかりやすい解説
ヤモリ
やもり / 守宮
gecko
爬虫(はちゅう)綱有鱗目(ゆうりんもく)ヤモリ科に属するトカゲの総称。この科Gekkonidaeの仲間は、トカゲ亜目のなかで特殊な形態に分化した一群で、約82属650種が世界の熱帯、亜熱帯に分布し、一部は温帯地方に及び、日本にはトカゲモドキを含み10種が生息する。ほとんどが全長10センチメートル前後の小形で、最大は南アジア産オオヤモリGekko geckoなどの全長約30センチメートル、最小は西インド諸島産アンチルヒメヤモリ属Sphaerodactylusの約5センチメートルである。ヤモリの特徴は眼瞼(がんけん)が固着して動かず、目は1枚の透明な鱗(うろこ)で覆われることで、この表面は、しばしば舌を伸ばして掃除される。また四肢の各指趾(しし)は扁平(へんぺい)で、裏側のひだ状指(趾)下板には無数の微細な毛状突起が密生している。各突起は先に向かっていくつにも枝分れし、最先端がスパチュラspatulaとよばれる吸盤になっている。ヤモリがガラス窓や天井を自由に走ることができるのは、これら無数の吸盤の作用によるもので、突起の形状は種によって違っている。また指下板は、本州から南西諸島に広く分布するニホンヤモリG. japonicusや四国北東部、岡山南部に分布するタワヤモリG. tawaensisのように1列のものや、南西諸島産ホオグロヤモリHemidactylus frenatusのように二分するものがある。そして地上性のユビナガヤモリ属Cyrtodactylusやトカゲモドキ亜科Eublepharinaeでは指が細長く、指下板は吸盤状になっておらず、またトカゲモドキの上眼瞼は閉じることができる。ニホンヤモリなど多くの種は人家や周辺の林に集団ですみつき、夜間に灯火の周りに集まって、昆虫類をとらえる。とくにオオヤモリは、その英名の由来であるトッケイという大きな鳴き声を夜間に連続してたてることで知られる。森林性のものは昼間でも行動し、チッチッチッという声でナキヤモリの別名をもつホオグロヤモリのように、日没後盛んに鳴き交わすものも多い。産卵は一度に2個ずつ、幹や壁のすきまにくっつけて産む。少数が卵胎生である。
[松井孝爾]
民俗
古代中国の『博物志』などには、ヤモリを用いた呪法(じゅほう)があげてある。守宮(やもり)を器に飼い、朱沙(しゅしゃ)を食わせ、体が赤くなって重さ7斤になったものを、杵(きね)でたたいてすりつぶし、それを女性の体につけると消えないが、淫事(いんじ)を行うと消えると記す。日本では平安時代後期、これを「ゐもりのしるし」という歌語に表すが、イモリとヤモリを混同したものである。江戸時代には、イモリの黒焼きは媚薬(びやく)という伝えも広く知られた。沖縄県には、釘(くぎ)付けにされた雄のヤモリに雌が食物を運び続けたという話があり、ヤモリは雌雄の仲がよいという。ヒンドゥー教では、ヤモリはシバ神がつくったと伝える。シバ神がサトウキビを18片に砕いて投げると、各片は虫になって蕃神(ばんしん)の周囲をはい回り、さらに48匹のヤモリに化した。ヤモリはカやハエを食し、有益であるが、その力もシバ神が与えた。また、ヒンドゥー教徒は、ヤモリの行動や鳴き声で未来を占うが、これもシバ神が霊力を授けたことによると伝える。
[小島瓔]