改訂新版 世界大百科事典 「ヨード水銀酸塩」の意味・わかりやすい解説
ヨード水銀酸塩 (ヨードすいぎんさんえん)
iodomercurate salt
化学式で[HgⅡI3]⁻または[HgⅡI4]2⁻の塩とみなされる塩の総称。ただし固相においてつねにこの化学単位が存在するとは限らない。HgⅠについては対応する化合物は存在しない。Hg2⁺イオンは水溶液中で安定なヨード錯陰イオンを生成するので,通常ヨウ化水銀(Ⅱ)のヨウ化アルカリ水溶液から合成される。
(1)テトラヨード水銀酸カリウム 化学式K2[HgI4]・2H2O。淡黄色柱状結晶。水,エチルアルコールによく溶ける。水酸化カリウムを加えた水溶液は次の反応により極微量アンモニアの検出に使われ,ネスラー試薬と呼ばれる。
2[HgI4]2⁻+NH3+3OH⁻─→[HgNI(OH2)]+7I⁻+2H2O
(2)テトラヨード水銀(Ⅱ)酸銀 化学式Ag2[HgI4]。結晶形が2種ある。α高温形は橙赤色,ひずんだセン亜鉛鉱型立方晶。a=6.383Å。Hg-I原子間距離2.74Å。転移点50.7℃でβ低温形に変わる。β低温形は黄色結晶。正方晶系。a=6.317Å,c=12.633Å。Hg原子にはI原子が四面体形に4配位,またI原子には2個のAg原子と1個のHg原子が配位している(図参照)。熱変色性がきわめて明確なので,感温性塗料としてジャーナル軸受などの過熱検出に利用される。また転移点において電気伝導度も著しく変化する。すなわち,α高温形では7.9×10⁻4/Ω・cm(50.8℃),β低温形では9.8×10⁻6/Ω・cm(49.9℃)になる。
(3)テトラヨード水銀(Ⅱ)酸銅(Ⅰ) 化学式Cu2[HgI4]。結晶形が2種ある。α高温形は濃褐色立方晶。a=6.103Å。α-Ag2[HgI4]と同形。β低温形は鮮赤色正方晶。a=6.092Å,c=12.242Å。Hg-I原子間距離2.64Å。転移点は70℃。熱変色性によって軸受の過熱検出に利用される。
(4)トリメチルスルホニウム塩 化学式[Me3S][HgI3](Meはメチル基)。[HgI3]⁻は平面三角形を示し,Hg-I原子間距離2.70Å。このほか[Me3S]2[HgI4]も知られており,同じくイオン性結晶である。
(5)テトラメチルアンモニウム塩 化学式[Me4N][HgI3]。[Me4N][HgBr3]と同じく単斜晶。Hgは4個のIにより四面体形に配位されているが,そのうち1原子は遠くに存在し,ピラミッド状ともみなされる。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報