ラクダ

改訂新版 世界大百科事典 「ラクダ」の意味・わかりやすい解説

ラクダ (駱駝)
camel

背にこぶがある大型の草食動物。偶蹄目ラクダ科ラクダ属Camelusの哺乳類の総称。背のこぶが二つのフタコブラクダC.bactrianusと一つのヒトコブラクダC.dromedariusの2種がある。ヒトコブラクダの野生種は生息せず,すべて家畜であり,フタコブラクダはモンゴルとゴビ砂漠に少数が野生するが,ほとんどのものは家畜である。体長2.2~3.5m,尾長約55cm,肩高1.8~2.1m,体重450~690kg。体は砂漠での生活によく適応し,脂肪が体になくこぶに集中する。これは食料不足のときのエネルギー源となり,また照りつける太陽の熱をさえぎる効果がある。四肢は長く,体を熱い地表から遠ざける。前後の足は幅が広く,裏側は厚い肉質で,柔らかな砂地を歩くのに適する。耳介の内側に毛が生え,まつげが長く,鼻孔が自由に開閉できるが,これらは砂が体内に入るのを防ぐのに役だつ。前胸や四肢のひざには角質化したたこがあり,荒れ地での休息に適する。硬い植物を食べられるじょうぶな舌と唇をもち,胃は4室に分かれ,反芻(はんすう)して食物をよく消化する。体毛はヒトコブラクダのほうが短く柔らかいが,両種とも体色は淡黄褐色で,赤色,黒色,白色などの色あいが強いものも多い。

 ヒトコブラクダはアラビアで家畜化されたとみられ,以来,〈砂漠の船〉と呼ばれて砂漠で生活する人々に利用されてきた。人間を乗せても1日に約160kmも歩けるといわれ,130~180kgの荷をつけて時速約5kmで何ヵ月も旅ができる。食物と水の欠乏によく耐え,135kgの荷をつけ,熱い砂漠を1日40kmの割りで3日間も続けて歩けるという。ヒトコブラクダは熱い日中でも体温が40℃に上がるまで汗をかかない。尿は濃く,その量も1日1lと少ない。必要な水分は人間のように血液からではなく体組織から供給されるため,体重の40%の水分を失っても生存でき,その直後でも10分間に92l以上の水を飲むことができる。フタコブラクダではこうした機構の存在は確認されていない。

 フタコブラクダの野生種は家畜種に比べこぶは小さく,四肢は長く細く,足も小さく,ひざにたこがない。体色は変異があるが,ふつう赤褐色。日中活動し,ふつう6頭,ときに単独かつがい,あるいは12~15頭でくらす。群れは一般に1頭の雄を中心に雌と子からなり,夏には標高3300mまでの山地に移動し,冬には砂漠へ戻る。塩水も飲むことができ,ほとんどあらゆる種類の植物を食べる。現在,わずか300~500頭が生息するのみとみられている。

 両種とも春に出産のピークがあり,妊娠期間は370~440日で,1産1子,まれに2子を生む。4~5歳で成熟し,寿命は50年に達する。なおラクダは荷役用だけではなく,腱や骨に至るまで,ほとんどすべてが利用されている。

 ラクダ科Camelidaeにはラクダのほか,南アメリカのアンデス地方パタゴニアなどに野生するグアナコLama guanicoe,家畜として飼われるラマL.glamaアルパカL.pacosおよび生息数がきわめて少ない野生種のビクーナVicugnavicugnaが含まれる。これらの背には脂肪のこぶは見られず,ふつうラクダとは呼ばれない。
執筆者:

ラクダは家畜の中でもっとも乾燥につよく,塩分を含む砂漠地の植物,また灌木性の小枝や葉をもよく食べ,粗食に耐えるため,極乾燥地での飼養にもっとも適応している。他方,湿潤には弱いために,牛に比べるとその飼養の分布は,より乾燥度の高い砂漠地にかたむく結果になっている。そのうえ大家畜として乗用はもちろんのこと,物資の長距離運搬によく耐えるため,乳用家畜というよりはむしろ,乾燥地における長距離交易になくてはならない搬用家畜としておおいに用いられた。ユーラシア大陸での東西交易,サハラ砂漠を南北に走るブラック・アフリカとの交易,そしてアラビア半島での遠距離通商など,もしラクダがなければこれらの交易は不可能であり,海上交易での帆船に匹敵する役割を果たし,歴史的にみて,まさに文明間の文物交流に欠かせぬ地上搬送手段であったといってよい。たしかに馬やロバも搬用家畜として,人類史に貢献したことはたしかではあっても,砂漠を越えるキャラバンには耐ええない点で,ラクダの果たした役割には及ばない。もしラクダの家畜化がなければ,内陸アジアの歴史の見取図もおそらく別様になったであろう。

 家畜化されたラクダは,ヒトコブラクダとフタコブラクダに分けられ,ヒトコブラクダは北アフリカのサハラの砂漠地帯からアラビア半島,そして北はカスピ海南岸から西北インド,オーストラリアの地域にわたって飼養されている。フタコブラクダはゴビ砂漠から南ロシアそしてモンゴルの地を主たる分布域とし,南はイラン,アフガニスタン,バルーチスターンにまで及んでいる。

 ラクダの家畜化の年代および起源地はまだ明確になっていないが,他の家畜に比べれば家畜化はおそく,早くみつもっても前3000年ころ以上にはさかのぼらないとされている。そしてフタコブラクダはたぶん北イランからトルキスタンにかけての地域,ヒトコブラクダはたぶんアラビア半島で馴化(じゆんか)されたろうと考えられている。

 古代においてラクダをおおいに乗用に用いた例として,バビロニア帝国を建てたセム系の人々がいる。同じセム系のイスラエルの民もラクダをもっていたことが,旧約聖書の記述から知られる。ヒッタイト人が乗用として馬をもたらしたあとも,アラビアでは軍用獣として,ラクダの利用は盛んで,ペルシア帝国の拡大のさい,ダレイオスやクセルクセス1世は,ラクダを操るアラビア兵をおおいに用いたといわれる。ローマ時代に入るとともに北西アフリカでラクダの使用は一般化し,犂(すき)をひくラクダも現れ,北アフリカからスーダンやニジェールにむけての交易も,ラクダ・キャラバンによってひらけている。中央アジアの絹の道もまた,ラクダの隊商によっておおいに促進された。

 現在,このような長距離交易のためのラクダの使用は,自動車によってとってかわられ,東アフリカの一部,アラビア半島,北アフリカ・サハラ砂漠でのラクダ遊牧民を除くと,その飼養は,中近東や中央アジアの遊牧民の下での,移動時の搬用家畜として,数頭ずつ飼われるというかたちで,その飼養が存続しているにすぎない。
牧畜文化
執筆者:

世界の遊牧文化の諸相の中で,アラブのそれを特徴づけているのは,ラクダが家畜の主体をなし,文化の基層と深く関連していることである。ラクダの呼称としては,ジャマルjamal(総称,雄),ナーカnāqa(雌),バイールba`īr(単数総称),イビルibil(複数総称)がある。非アラブ世界には英語のcamelの語源となったことによりjamalがもっとも知られるが,アラブにとっては使用頻度および概念的にも後3者のほうが圧倒的に多い。バイールは雌雄の別なく1頭のラクダの意味で用いられる。

 家畜化した(前3000年ころ)のもこの地域が最初だし,その後荷駄用,また乗用として広く利用したうえ,さらに戦闘用にまで訓育したのはアラブのみであった。これは他のラクダ遊牧民と比較して特筆すべきことである。アラブの大征服の歴史も,イスラム化の歴史も,ラクダの存在を抜きにしては語れない。アラブのラクダはヒトコブ(一瘤)であり,寒さと荒れ地に慣らされたフタコブラクダと異なり,暑く乾燥した気候に耐える体質をもっている。このため,広大な砂漠を渡る〈砂漠の船〉とすることができた。また長く豊かなまつげ,開閉自在な鼻,平たく大きな足裏は,砂塵,砂地に対して強く,がんじょうな歯・歯茎,それに反芻胃は粗食に耐えうる力を与えている。人間にとっては乳と肉は食用に,毛と皮は衣と住にそれぞれ有用で,ラクダ遊牧民にとって生活必需品の中でラクダからは得られないのは,穀類と金属類だけである。砂漠的環境において尚武の精神をもつラクダ遊牧民の自立的世界は,都市中心の王朝世界と競合していた。ラクダが,財貨としてはザカートや血の代償額を,またラクダ荷として重量を,ラクダ日として距離行程を測る基準単位に用いられたことも,それがアラブの生活の中に占めていた地位を示している。
執筆者:

ラクダについてもっとも一般的な印象は従順なことである。人が近づけば首を低くし,ひざをついて,どんな重い荷物でも背に乗せる。したがってキリスト教では,ラクダは人類の罪を背負ったキリストになぞらえられるほか,水を飲む姿が〈倹約〉の,砂漠に立つ姿が〈忍耐〉の象徴とされた。たとえばノートル・ダムやアミアンなどの大聖堂では,ラクダを描いた寓意装飾を見ることができる。バプテスマヨハネはラクダの毛皮を着けていたので,この獣を持物(じぶつ)とする。

 しかし古代から中世に流布した古い動物学では,ラクダを獣類のうちもっとも高い体温をもつ種類とみなした。毛を取り除くと体全体がやせこけて見えるのも,その熱でいつも衰弱しているためだという。またアリストテレスは《動物誌》で,ラクダは一日中交尾しつづけると述べ,ここからこの獣を好色の代名詞とする通念が生まれた。中世の人々は,キリン(ジラフ)は好色なラクダがヒョウと交わって生んだ動物とし,カメレオパルドcameleopardと呼んだ。なお,《マタイによる福音書》19章24節には,〈富んでいる者が神の国にはいるよりは,ラクダが針の穴を通るほうがもっとやさしい〉という有名なイエスのことばがあり,難事のたとえにしばしば引用される。
執筆者:



らくだ

落語。明治中期に3代柳家小さんが上方の《らくだの葬礼》を東京へ移入したもの。〈らくだの馬〉と異名をとる乱暴者がフグにあたって死んだ。仲間のやくざ者半次が,通りかかったくず屋の久六をおどして,通夜に酒と煮しめを届けるように大家に掛けあわせ,断られると嫌がらせに大家のところへ行き,死骸にカンカンノウ(看々踊)を踊らせる。おどろいた大家が届けた酒を,半次と久六が飲みはじめるが,酔いがまわるにつれて,はじめおとなしかったくず屋の久六が,逆に半次をしかりつけておどかす。ふたりで空樽(あきだる)に死骸を入れてかつぎ出すが,途中で底がぬけて死骸を落とす。火屋(ひや)(焼き場)に着いてから気がついて引き返し,酔って道に寝ていた願人(がんにん)坊主をまちがえてかついで来る。目覚めた坊主がどこだと聞くと,〈ここは火屋だ〉〈なに,ひやだ。ひやでもいいからもう一ぱいくれ〉。変化に富む長編で,芝居や映画にも脚色された。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラクダ」の意味・わかりやすい解説

ラクダ
らくだ / 駱駝
camel

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目ラクダ科ラクダ属に含まれる動物の総称。この属Camelusには、ヒトコブラクダC. dromedariusとフタコブラクダC. bactrianusの2種が含まれる。ヒトコブラクダの原産地は北アフリカとアラビア半島と思われるが、野生種は絶滅し、家畜化したものがインド、北アフリカ、ヨーロッパ南部、カナリア諸島などに分布している。フタコブラクダの原産地はイランから中央アジア、中国北部であるが、現在ではアルタイ山脈の麓(ふもと)のゴビ砂漠などに若干の野生種が残存するのみで、国際的に保護され、2002年には国際自然保護連合により絶滅危惧(きぐ)種に指定されている。家畜種は中央アジアに分布する。

中川志郎

形態

ヒトコブラクダは、体長2.5~3メートル、体高1.8~2.1メートル、尾長50~70センチメートル、体重450~700キログラムで、背中の中央に大きなこぶが隆起している。指は2本で、ひづめは小さいが、足が地面につく面積は大きく弾力に富む。鼻は自由に開閉でき、内側にも毛が密生している。また、まつげや耳の周りの毛も長く、耳介の内部にも毛が密生していて、砂漠の砂嵐(すなあらし)などに適応している。体色は淡黄褐色で、体毛は、夏期は短く綿毛をもたないが、冬期は長毛で綿毛が密生している。胃は反芻(はんすう)胃であるが、四つのうち第3胃と第4胃の境があまりはっきりしないため、肉眼的には三つに分かれる。第1胃には小さな憩室があり、この中に水分の多い内容を入れるため、胃壁外面は多数のこぶ状にみえる。背中にあるこぶは、内容としては白色の光沢ある脂肪を含み、その重量は50キログラム前後に達する。

 フタコブラクダは、外見上ヒトコブラクダに類似するが、背中には2個のこぶ状隆起がある。体長2.5メートル前後、体高1.8メートル、尾長55センチメートル、体重400~600キログラムで、体毛は褐色、頸(くび)やのど、およびこぶの上には濃い長毛が生えている。飼育下の野生種は、中国の北京(ペキン)動物園や甘粛(かんしゅく)省絶滅危機動物研究センターなどで飼育されているが、家畜種に比べ四肢および頸が細長く、こぶが小さく、全体的に引き締まった体つきをしている。

[中川志郎]

生態

両種とも、「砂漠の舟」と呼称されるように、厳しい砂漠地帯の気象に適応した形態と生理をもつ。背中のこぶは、脂肪の貯蔵所で、食物が不足するときの予備エネルギーとして機能するとともに、強烈な直射日光に対して断熱的効果をもっている。また、脂肪がこぶに集中し皮下に貯蔵されないため、放熱を容易にし炎暑に対応しやすくなっている。体温は、通常36℃前後であるが、外温の高低によって変動し、1日の体温の幅は34~40℃に及ぶ。このことは、水分の消費、エネルギーの消耗を調節するのに役だっている。また、尿量はほかの動物に比べ、日量1リットルほどと極端に少なく、一度に大量の水を飲むこともでき、水の少ない砂漠生活のなかで、水分の採取、放出を巧みに調節している。性成熟は3~5年で、フタコブラクダがやや遅い。交尾期は春、1~3月で、この時期になると、雄では後頭部の分泌腺(せん)からタール状の分泌液を出し、性質は荒くなり、しばしば頻尿となる。妊娠期間は13か月前後で、1産1子。離乳は8か月から1年に及ぶ。両種の間には雑種ができ、こぶも1個半となることが多いが、二代雑種はできないといわれている。

[中川志郎]

用途

家畜種は、砂漠地帯では重要な財産で、荷役としては、170~270キログラムの荷を、時速4キロメートルの速さで、1日47キロメートルも運ぶことができるといわれる。また、毛、肉、乳なども利用され、糞(ふん)も乾燥して燃料として用いられている。寿命は20~25年である。

[中川志郎]

歴史

ラクダがいつごろ家畜化されたかは明らかでないが、ヒトコブラクダは紀元前3000年ごろにはアラビア地方で飼養されていたといわれる。ヒトコブラクダはおもに乗用で、アラビア遊牧民はこれを軍事用に重用した。ムハンマドの西遷にもラクダが用いられている。フタコブラクダは、中央アジア地方などでおも運搬用に使われた。シルク・ロードの砂漠を往来する隊商が用いたのはこのラクダである。このほか、ラクダは農耕などにも使われている。

 ラクダが初めて日本にきたのは599年(推古天皇7)9月のことで、『日本書紀』に「百済(くだら)、駱駝(らくだ)一匹(ひとつ)、驢(うさぎうま)一匹、羊二頭(ふたつ)、白雉(しろきぎす)一隻(ひとつ)を貢(たてまつ)れり」とみえる。その後も高句麗(こうくり)や百済などからラクダがもたらされている。江戸時代には、1821年(文政4)、百児斉(はるしや)国(ペルシア)産の牡牝(おすめす)2頭の単峰駱駝(ひとこぶらくだ)がオランダ人によって輸入され、香具師(やし)により日本各地を回って見世物とされた。のち北国の興行に引いて行かれたが、寒気に触れて倒れたという。

[渡辺公三]

民俗

サウジアラビアのベドウィン、ソマリアおよびケニアのソマリ、サハラ砂漠のトゥアレグなど、砂漠地方の遊牧民にとってラクダは貴重な財であり、交通・運搬手段であり、社会生活の中心ともなっている。ソマリにおいては、スーダンの牧牛民におけるウシと同様、ラクダは結婚の際の女性への代償、殺人に対する賠償とされ、また男の一生はラクダ100頭、女性は50頭といった言い方がある。ベドウィンは、良質の乳を出す純血の雌ラクダをだいじにし、有名な血統は10代ほど前まで母系によってたどられる。ラクダは、おりおり創作され歌われる詩のテーマとなり、一頭一頭に固有名が与えられる。アラブには、「死はすべての家の戸口の前に膝(ひざ)を折る黒いラクダ」という諺(ことわざ)があるという。キリスト教の図像学においては、フランス、アミアンのカテドラルの浮彫りにみられるように、ラクダは従順さ、謙譲の美徳の象徴とされる。しかし、逆にラクダは、頑迷さ、愚鈍さ、高慢さの象徴とされる場合もある。

[渡辺公三]



らくだ

落語。上方(かみがた)落語の「らくだの葬礼」を明治中期に3代目柳家小さんが東京へ移したもの。らくだの馬とあだ名されている乱暴者のところへ兄弟分が訪ねてくると、らくだは前夜に食べたフグにあたって死んでいた。そこへ通りかかった屑屋(くずや)を脅して手伝わせ、通夜に入用だからと大家(おおや)に酒と煮しめを持ってくるようにかけ合わせる。大家に断られると、屑屋に死骸(しがい)を背負わせて「カンカンノウ」を踊らせる。驚いた大家が届けた酒を2人で飲むが、屑屋は酔うほどに強くなり、兄弟分を逆に脅す。酔っぱらった2人はらくだを四斗樽(だる)に詰めて火屋(ひや)(焼き場)へ担いで行くが、途中で樽の底が抜けたのを知らずに火屋まで行き、あわてて拾いに戻る。酔って道に寝ていた願人(がんにん)坊主をかわりに詰めて火屋へくる。願人坊主が目を覚まして「ここはどこだ」「火屋だ」「ひや(冷酒)でもいいからもう一杯」。江戸時代の風俗を活写し、変化に富む。東京の現行演出は3代目小さん型だが、大阪型もおもしろい。

[関山和夫]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ラクダ」の解説

ラクダ

ヒトコブ・ラクダ(dromedary)とフタコブ・ラクダ(Bactrian camel)の区別がある。前者はアラビア半島南東部,後者はイラン北東部かトルキスタン南西部あたりで,いずれも前3千年紀前半に家畜化された。前者は前2千年紀末に駄獣(だじゅう)として利用されるようになり,以降,砂漠越えの隊商交易が盛んになった。後者も内陸アジアのシルクロードで活躍したが,ティグリス,ユーフラテス川流域で前2世紀後半頃に両者の交配から生まれたヒトコブ半ラクダがより優秀であったため,アナトリアからイラン,アフガニスタンにかけての地域ではやがて姿を消した。アラビアでは前2世紀頃より,ラクダ鞍の改良など新技術を導入してラクダ遊牧民(ベドウィン)の戦闘能力が向上した。

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百科事典マイペディア 「ラクダ」の意味・わかりやすい解説

ラクダ

偶蹄(ぐうてい)目ラクダ科ラクダ属2種の哺乳(ほにゅう)類の総称。四肢は長大で,足先は平爪状の二つの蹄(ひづめ)と表面が角質化した蹠球(しょきゅう)からなり,まぶたは二重で砂塵を防ぎ,鼻孔も自由に開閉できるなど砂漠生活に適した形態をもつ。反芻(はんすう)するが,胃は3室。背のこぶは脂肪の貯蔵所で,食物をとらないとこぶは縮小する。数日間水を飲まずに過ごすことができ,とげのある植物も食べる。古くから家畜化され,乗用や役用のほか,乳,肉,毛なども利用される。こぶが1個のヒトコブラクダは肩高2mほどで野生種はなく,北アフリカ,北西アジアなどで飼われる。こぶが2個あるフタコブラクダは肩高1.9〜2.3mほど。前種より体毛が長く,モンゴル原産。アフガニスタン〜中国に飼われる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラクダ」の意味・わかりやすい解説

ラクダ
Camelus; camel

偶蹄目ラクダ科ラクダ属に属する大型草食獣の総称で,ヒトコブラクダフタコブラクダの2種から成る。四肢ともそれぞれ指は2本で,蹠球が大きく,接地面積が広くなっていて砂地の歩行に適している。また鼻を閉じることができ,耳のまわりの毛も長く,砂ぼこりを防いでいる。長時間水を飲まずに生活することができる。なお,背中の瘤は脂肪のたまったものであって,貯水袋ではない。

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デジタル大辞泉プラス 「ラクダ」の解説

らくだ〔落語〕

古典落語の演目のひとつ。上方ばなし「らくだの葬礼(そうれん)」を、三代目柳家小さんが東京へ移したもの。八代目三笑亭可楽が得意とした。オチは考えオチ。主な登場人物は、町人。

らくだ〔生活用品〕

ポピー製紙が販売するちり紙の商品名。古紙を使用。ソフトタイプ、1200枚入り。

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世界大百科事典(旧版)内のラクダの言及

【キャメル】より

…英語camelhair(ラクダの毛)の略。またはラクダの毛,もしくはラクダの毛にモヘア,牛毛などを混ぜて織った紡毛織物。…

【共生栄養】より

…木材を食べるシロアリは,その腸管内に共生する原生動物(鞭毛虫類)や細菌がセルロースを分解して嫌気的につくりだす脂肪酸を利用しており,もし人為的に原生動物を除くとシロアリは死ぬ。ウシ,シカ,キリン,ラクダなどの反芻(はんすう)動物には3~4室にわかれた大きな反芻胃があり,その第1番目のもっとも大きいルーメン(瘤胃(こぶい))と網胃はそこに存在する細菌や原生動物(繊毛虫類)の働きによってセルロースを分解する一種の発酵槽になっている。共生微生物の一部は葉胃・皺胃(しゆうい)に送られて消化され,宿主の栄養となる。…

【砂漠】より

…かつて東アジアとヨーロッパを結んだシルクロードは,天山山脈南麓,崑崙(こんろん)山脈北麓の山麓性オアシス集落を結んで発達したものである。世界最大の砂漠であるサハラも泉性オアシスの存在とラクダの導入により古くから横断が可能となり,北の地中海沿岸と〈黒いアフリカ〉スーダンとの間で交易が盛んであった。ラクダは1週間以上,水を飲まなくても歩くことができるため,オアシスを結んで大規模な隊商が移動した。…

【サハラ砂漠】より

…アルジェリア山地のカビール,モロッコの山地のシュレウ,アルジェリアのオアシスのムザブなどは,現在まで古い文化を守っている集団である。ベルベルの中には,コムギやナツメヤシを栽培する農耕民や,トゥアレグ族のようなラクダの遊牧民もいる。(2)アラブは,7世紀に新しい宗教イスラムをもってエジプトからモロッコまで侵入したものと,11世紀以後大挙して移住したベドウィンに分かれる。…

【トルコ族】より

… アナトリアのトルコ系遊牧民は多数の羊,ヤギを飼育し,それによって得られる乳製品,羊毛,毛皮,食肉などを都市に供給し,彼らが中央アジアからもちきたった技術を駆使したじゅうたん,キリム(平織の敷物),フェルト,毛織物は,13世紀以降アナトリアの重要な輸出品であった。また,トルクメンは,前2世紀のパルティア王国時代以来の交配技術を取り入れて,アラブのヒトコブラクダと中央アジアのフタコブラクダとの交配種であるヒトコブ半のラクダ(トルコでは,〈トゥルtulu〉ないしは〈トルクメンのラクダ〉とよばれ,夏の暑さにも冬の寒さにも耐久力をもつ)を飼養するなどして,交易・輸送に活躍した。つまり,遊牧民はその機動力によって,都市と農村を結ぶ潤滑油の役割を果たした。…

【遊牧】より

…それはたんなる草地の劣化という物質的条件への配慮からだけでなく,キャンプ地への好悪,そして長期居住による不衛生といった牧畜民のより主観的判断によってなされることもある。また乾燥した砂漠などでのラクダ遊牧民や東アフリカのサバンナでの牛遊牧民の場合,不規則な降雨によって急に緑地が出現したときなど,急きょそれを求めて移動することもある。季節的大移動に加えて,この種の不規則かつ小規模な移動を含むために,一所不定住,まさに遊牧的生活者という形容が生まれるゆえんがある。…

【輸送】より

…資本をもたず,雇われただけの商人は,ふつう利益の4分の1を自分のものとし,残りを出資者に渡すことをつねとしていた。駄獣としておもに使われるのは,ラクダとラバであった。ラクダは旅が長期間にわたってもわずかの水ですむ耐久力をもち,個々のラクダによって違うが,130~270kgもの重い荷物を運べる能力をもっていた。…

【柳屋小さん】より

…浅薄な滑稽噺に人情噺の人物描写の技法を導入し,落語を高度な芸術にした近代の名人で,第1次〈落語研究会〉の中心をなした。《らくだ》《碁泥(ごどろ)》《にらみ返し》などの上方落語を東京に移植して,近代東京落語の発展に貢献した。得意は《らくだ》《うどんや》など。…

※「ラクダ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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