ラシャ

改訂新版 世界大百科事典 「ラシャ」の意味・わかりやすい解説

ラシャ (羅紗)

紡毛織物の一種。地が厚く純毛製と毛綿混紡製があり,織目の見えないように縮絨(しゆくじゆう),起毛,剪毛(せんもう)の加工仕上げを行ったものの総称。ほかに梳毛糸(そもうし)を使ったものもあり,織目が見えて起毛を行わないものも含む。平織,綾織繻子(しゆす)織で,色は紺,黒,緋,茶,褐色,霜降りが多い。名称はポルトガル語のラーシヤraxaに由来する。ヨーロッパでは毛皮に似せて作られたといわれ,14世紀ころすでにセルビアの古称であるラシュカRaškaで特産品として織られており,ドゥブロブニクの商人を通じてイタリア,スペイン,ポルトガル,ドイツ,ハンガリーなどヨーロッパ諸国に広まった。日本には南蛮貿易で16世紀後半にもたらされ,戦国武将の間でラシャ製の陣羽織が愛好され,とくに緋ラシャは猩々緋(しようじようひ)と呼ばれて珍重された。江戸時代になると,さらに合羽(かつぱ)や火事羽織などに広く用いられた。明治に入ってから制服や軍服にラシャの洋服が採用されると,国産化をめざすようになり,1877年,東京の千住に官営の製絨(せいじゆう)工場の設立が進み,79年には国産ラシャの製造が始まった。ラシャは地厚で保温性に富むため,冬季の洋服,コート,マントそのほか敷物など生活全般に使われてきたが,重いこともあって近年需要が減少している。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラシャ」の意味・わかりやすい解説

ラシャ

羅紗とも書く。ポルトガルの毛織物ラーシャ raxaから転訛した名称。織り上げたのち縮絨起毛加工をした厚地の毛織物で,特に紡毛織物をいう。平織綾織,繻子 (しゅす) 織 (→サテン ) ,二重織などがあり,組織が密で表面が毳 (けば) でおおわれている。色は黒,紺,各種の色無地,霜降りのほか縞物,柄物もある。種類が非常に多く,オーバー地,洋服地に用いられる。室町時代末期頃に輸入され,陣羽織,火事装束に使用されたが,明治期から需要が急増し,官営,民営の製絨所で国内生産を始めた。昭和初期に一般的となったが,近年,暖房設備の普及などにより防寒衣料の必要性も変り,重くて柔軟性の乏しい昔ながらのラシャの生産は減少の方向にある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

普及版 字通 「ラシャ」の読み・字形・画数・意味

【羅】らしや

あみ

字通「羅」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内のラシャの言及

【毛織物】より

…しかし16世紀半ば以降,南蛮船によってもたらされた羊毛の布地(毛織物)に触れた日本人は,それが羊毛だという意識をいっさいもたずに,ただ従来の衣料の素材にはない優れた質感や特性を知って,毛織物に深い憧憬の念を抱くようになった(以来,明治大正に至っても,羊の毛でつくられた毛織物という認識は一般にはまったくなかった)。初めて日本にもたらされたヨーロッパ産の毛織物は,1555年(弘治1)に来航したポルトガル政府官許の貿易船が舶載したラシャ(羅紗)であるが,その後もラシャやその中の最高級品〈猩々緋(しようじようひ)〉などが,以後日本との貿易を円滑にするために藩主たちへ献上されつづけた。たとえばゴア総督の使節は,徳川家康に金糸でししゅうした〈羅紗十端〉を献上している。…

※「ラシャ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android