日本大百科全書(ニッポニカ) 「リンドウ」の意味・わかりやすい解説
リンドウ
りんどう / 竜胆
[学] Gentiana scabra Bunge var. buergeri (Miq.) Maxim.
リンドウ科(APG分類:リンドウ科)の多年草。茎は高さ20~60センチメートル。葉は対生し、披針(ひしん)形で顕著な3脈があり、柄はない。9~11月、日がさすと、茎頂や上部の葉腋(ようえき)に青紫色または紅紫色の花を上向きに開く。花冠は筒状の鐘形で、先は5裂する。ススキ草原や崖(がけ)の縁、疎林の中などに生え、本州から九州に分布する。葉の細い一型をホソバリンドウといい、湿地に生える。基本種チョウセンリンドウ(トウリンドウ)はシベリア、朝鮮半島、中国に分布し、葉は卵形で、縁(へり)と裏面の中央脈上がざらつく。名は、中国名の竜胆を音読みしたリュウタンが、なまってリンドウになったという。
リンドウ属は花冠は5裂し、裂片と裂片の間に副片(付属片)があり、蜜腺(みつせん)は子房の基部につく。柱頭は2個で、蒴果(さくか)は2片に裂ける。おもに高山に生え、分布の狭い種類が多い。ホソバリンドウは茎はやや叢生(そうせい)して低く、葉は線状披針形。キリシマリンドウは茎は地をはい、上方は短く斜上する。オヤマリンドウは本州と四国の亜高山帯に生え、花は上部の葉腋につき、花弁はあまり開かない。ヤクシマリンドウは屋久(やく)島の山地に生え、花は茎頂に一輪咲きとなり、花冠は6~8裂する。アフリカを除く世界に約360種、日本に13種分布する。
[高橋秀男 2021年5月21日]
また最近は鉢植え、切り花用ともに、優秀な園芸品種が作出されている。茎は直立し、高さは約6センチメートルのものから、切り花用の園芸種で1メートルを超すものまである。開花期は早い種類のもので5月、遅い種類のものは11月。花は紫色が主で、白、赤、黄色などもある。アサマリンドウは花弁の内側に緑色の斑点(はんてん)がある。近年リンドウと称して出回っているものは、1955年(昭和30)ころ、北海道産のエゾリンドウの山掘り苗が大量に長野、福島、岩手県などに入り、それぞれ地元のリンドウと交配、作出されたものである。栽培は寒・高冷地では容易であるが、暖地では株の維持がやや困難である。
[魚躬詔一 2021年5月21日]
薬用
漢方では根を竜胆(りゅうたん)といい、苦味性健胃剤として用いる。これは、根に苦味配糖体ゲンチオピクリン、アルカロイドのゲンチアニンなどが含有されることから味が非常に苦く、唾液(だえき)と胃液の分泌や腸の蠕動(ぜんどう)を高め、食欲を盛んにする作用があるためである。このほか、漢方では、竜胆には肝胆の熱を除く作用があるとして、目が赤く腫(は)れ、耳が聞こえなくなったり、ひきつけたりといった症状のほか、黄疸(おうだん)の治療に用いる。欧米では、南部および中部ヨーロッパと小アジアの山地に分布するゲンチアナ・ルテアG. lutea L.の太い根をゲンチアナgentianと称して竜胆と同様に用いる。
[長沢元夫 2021年5月21日]
文化史
『和名抄(わみょうしょう)』(931~938ころ)は竜胆の和名として衣夜美久佐(えやみくさ)や爾加奈(にかな)をあげる。全草は苦く、それを中国では竜の胆に例え、日本では笑止草(えやみぐさ)、苦菜(にがな)と名づけた。竜胆は『出雲国風土記(いずものくにふどき)』(733)に初見するが、『万葉集』では歌われていない。リンドウは竜胆の音読みで、『枕草子(まくらのそうし)』に「竜胆(りんだう)は枝さしなどもむつかしげなれど、こと花はみな霜枯れはてたるに、いと花やかなる色合ひにてさし出(い)でたる、いとをかし」と描写される。
[湯浅浩史 2021年5月21日]