ルポルタージュ(読み)るぽるたーじゅ(その他表記)reportage

翻訳|reportage

デジタル大辞泉 「ルポルタージュ」の意味・読み・例文・類語

ルポルタージュ(〈フランス〉reportage)

新聞・雑誌・放送などで、現地からの報告。ルポ。
第一次大戦後に生まれた文学の一ジャンルで、社会的な事件などを作為を加えずに客観的に叙述するもの。報告文学。→記録文学
[類語]ドキュメントドキュメンタリー紀行ノンフィクション報告論文記録実録実記記事手記雑報埋め草

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精選版 日本国語大辞典 「ルポルタージュ」の意味・読み・例文・類語

ルポルタージュ

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] reportage )
  2. 新聞・雑誌・放送などで現地からの報告。ルポ。
    1. [初出の実例]「報道は客観的な事実に関する報告でありルポルタージュである」(出典:流言蜚語(1937)〈清水幾太郎〉一)
  3. 第一次世界大戦後に生まれた文学の一ジャンル。フィクションを排除して社会的な問題となり得る現実や個人の特異な体験などを、観察者の作為を交えずにありのままに描いた文学。日本ではプロレタリア文学運動の一環として重要視され、生活綴方運動などを生み出した。記録文学。報告文学。ルポ。〔アルス新語辞典(1930)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルポルタージュ」の意味・わかりやすい解説

ルポルタージュ
るぽるたーじゅ
reportage

ルポルタージュはフランス語で報道、現地報道を表し、現場に赴いての、そこからの現地報告、現地報道を意味する。古くは「探訪」と訳された。第一次世界大戦後に、新しい文学ジャンルとしてヨーロッパで形成されたもので、日本には第二次世界大戦後に受容され、ルポルタージュ(略してルポ)作品、ルポ・ライターといった造語がつくられた。しかし、太平洋戦争時には、『文芸春秋』などの総合雑誌が、戦場からの「現地報告」の特集号、臨時増刊号を発刊しており、多くの「戦場」からの「ルポルタージュ」を掲載した。だから、ルポルタージュは実質的には戦前・戦中から日本においても書かれていたといってよい。

 日本でルポルタージュ文学が話題になったのは、岡村昭彦の『南ヴェトナム戦争従軍記』(1965)や開高健(かいこうたけし)の『ベトナム戦記』(1965)など、一連のベトナム戦争についてのルポルタージュが書かれた1960、1970年代だった。近藤紘一(1940―1986)の『サイゴンから来た妻と娘』(1978)などの「サイゴン」ものや、小倉貞男(1933―2014)のベトナム、カンボジアについての報告などがそれに続いた。

 海外紀行も一種のルポルタージュ文学といえるだろう。小田実(まこと)の『何でも見てやろう』(1961)から始まり、北杜夫(もりお)の『どくとるマンボウ航海記』(1960)、藤原新也の『全東洋街道』(1981)や、沢木耕太郎(1947― )の『深夜特急』(1986~1992)に至る、好奇心旺盛(おうせい)な、放浪といってもよい海外の旅の報告は、文化人類学者の一般向けの報告書としても書かれ、梅棹忠夫(うめさおただお)の『モゴール族探検記』(1956)、畑中幸子(ゆきこ)(1930― )の『南太平洋の環礁にて』(1967)、原ひろ子(1934―2019)の『ヘヤー・インディアンとその世界』(1989)など、多くの読者をつかんだ。

 取材方法がフェアかアンフェアかで話題となった鎌田慧(さとし)の『自動車絶望工場』(1973)は、潜入ルポといった手法を生み出し、工場、原子力発電所、ヤクザ、宗教教団、風俗営業の世界などへの潜入ルポが多く試みられるようになった。久田恵(めぐみ)(1947― )の『フィリッピーナを愛した男たち』(1989)や家田荘子(いえだしょうこ)(1958― )の『私を抱いてそしてキスして』(1990)などは、潜入ルポという言い方にはそぐわないかもしれないが、単なる取材ではない、関与取材、体験ルポといった分野を切り開いたものといってよいだろう。ドキュメンタリー(記録文学)、ルポルタージュ(報告文学)ともに、現在ではノンフィクション文学という広い範疇(はんちゅう)に包摂され、文学の世界は大きくフィクション―ノンフィクションに大別され、ルポルタージュ、ドキュメンタリーというのは、ノンフィクションの下部の分類として使用されることになるだろう。

[川村 湊]

『原ひろ子著『ヘヤー・インディアンとその世界』(1989・平凡社)』『日外アソシエーツ編・刊『ノンフィクション・ルポルタージュ図書目録(45/85)』(1994)』『岡村昭彦著『南ヴェトナム戦争従軍記』(ちくま文庫)』『開高健著『ベトナム戦記』(朝日文庫)』『近藤紘一著『サイゴンから来た妻と娘』(文春文庫)』『小倉貞男著『物語 ヴェトナムの歴史――一億人国家のダイナミズム』(中公新書)』『小田実著『何でも見てやろう』(講談社文庫)』『北杜夫著『どくとるマンボウ航海記』(新潮文庫)』『藤原新也著『全東洋街道』上・下(集英社文庫)』『沢木耕太郎著『深夜特急1~6』(新潮文庫)』『梅棹忠夫著『モゴール族探検記』(岩波新書)』『畑中幸子著『南太平洋の環礁にて』(岩波新書)』『鎌田慧著『自動車絶望工場――ある季節工の日記』(講談社文庫)』『久田恵著『フィリッピーナを愛した男たち』(文春文庫)』『家田荘子著『私を抱いてそしてキスして――エイズ患者と過ごした一年の壮絶記録』(文春文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ルポルタージュ」の意味・わかりやすい解説

ルポルタージュ
reportage

新聞,雑誌,放送などにおける現地からの報告で,元来はフランス語で〈探訪〉を意味する。略して〈ルポ〉ともいう。テレビ・ルポ,フォト・ルポルタージュという言葉が示すように映像的なものも含まれるが,それについては〈ドキュメンタリー映画〉〈ドキュメンタリー写真〉の項目を参照されたい。ルポルタージュの語はノンフィクションと同義的に用いられる場合もあるが,後者のほうが包括的な概念で,ルポルタージュはそれに含まれるものの,ジャーナリズムのなかに位置づけるのが妥当であろう。広義には新聞記事の大半もルポルタージュといえるが,通常は中・長編のものをさす。すぐれたルポルタージュは結果として文学となりうるが,あくまでも事実に基づいた記録,報告に重点が置かれる。

 19世紀半ばにロンドン貧民街の実態を調査,記録したH.メーヒューの仕事などもルポルタージュといえるが,ルポルタージュの発達はアメリカのJ.リードチェコのE.E.キッシュの活躍に負うところが大きい。リードはロシア十月革命での見聞を《世界をゆるがした10日間》(1919)として記録し,韋駄天(いだてん)記者と呼ばれたキッシュは第1次大戦前後のプラハとベルリンをはじめ,ヨーロッパ各地に取材したルポルタージュを残した。その後のルポルタージュの歴史ではアメリカが傑出しており,J.ガンサーの《ヨーロッパの内幕》(1936),E.P.スノーの《中国の赤い星》(1937),A.スメドレーの《中国の歌ごえ》(1943),D.ハルバースタムの《ベトナム戦争》(1965)などのルポルタージュが生まれている。日本では,志賀重昂(しげたか)や三宅雪嶺らの雑誌《日本人》に1888年に連載された高島炭鉱の鉱夫に関する〈虐風状況の報道〉がルポルタージュの先駆とされる。戦前では横山源之助の《日本之下層社会》(1899),細井和喜蔵の《女工哀史》(1925),戦後では杉浦明平の《ノリソダ騒動記》(1953),石牟礼道子の《苦海浄土》(1969)を代表作として挙げることができよう。今日ルポルタージュは隆盛期を迎えているといえるが,その背景には,日々生起する社会的事件を追うジャーナリズムが,速報性を重視するため,問題の掘下げが犠牲にされたり,官庁などの発表もののみに依存しがちであるという事情がある。すぐれたルポルタージュは事件や問題の発見,事実に基づく取材と構成,現状への批判精神といった条件を備えるものであろう。
ノンフィクション
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルポルタージュ」の意味・わかりやすい解説

ルポルタージュ
reportage

フランス語で報道,報告の意味で,社会事象を忠実に記録,叙述する文学形式あるいは報告記事をいう。ルポルタージュという形式は 19世紀以後複雑化する社会情勢のなかで新即物主義運動 (→ノイエ・ザハリヒカイト ) などに影響されながら,ジャーナリズムの発達とともに世界に広がっていった。ルポルタージュの世界的古典としては,J.リードの『世界をゆるがした十日間』 (1919) をはじめ,E.スノーの『中国の赤い星』 (37) ,G.オーウェルの『カタロニア賛歌』 (38) などがある。

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百科事典マイペディア 「ルポルタージュ」の意味・わかりやすい解説

ルポルタージュ

もともとはフランス語reportageで〈探訪〉の意。新聞,雑誌,放送などにおける現地報告の記事や映像。ふつうは,短い記事よりも中・長編のものをいう。事実に基礎をおき,記録・報告に重点をおいているが,結果としてすぐれた文学ともなりうる。J.リードの《世界をゆるがした十日間》,E.スノーの《中国の赤い星》はその典型。→ノンフィクション
→関連項目横山源之助

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