ローマ神話(読み)ローマしんわ

精選版 日本国語大辞典 「ローマ神話」の意味・読み・例文・類語

ローマ‐しんわ【ローマ神話】

〘名〙 ローマ人がギリシア神話を範として古伝承をもとに構成した神話。登場する神々も、ほとんどギリシア神話中の神に対応し、同一視された。
朝霧(1950)〈永井龍男〉「これはきっと、羅馬(ローマ)神話の中の人物だ」

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デジタル大辞泉 「ローマ神話」の意味・読み・例文・類語

ローマ‐しんわ【ローマ神話】

古代ローマ人がみずからの神々を、その性格に基づいてギリシャの神々と同一視して構成した神話。ゼウスユピテルポセイドンネプトゥーヌスなどの同一化がみられる。→ギリシャ神話

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ローマ神話」の意味・わかりやすい解説

ローマ神話
ろーましんわ

ローマの神々は、古くからギリシアの神々と同一視されていた。紀元前3世紀には、すでにユピテル=ゼウス、ユノ=ヘラ、ミネルウァアテネ、マルス=アレスウェヌスアフロディテメルクリウスヘルメスディアナアルテミスなどの神々の融合が行われていた。これらローマの神々のギリシア化を促した原因の一つは、ギリシア文化を盛んに取り入れていたエトルリアの影響を早くからローマが受けていたことによる。したがってエトルリアの神々も、ティニア=ゼウス、ウニ=ヘラ、トゥラン=アフロディテ、トゥルムス=ヘルメスなどのようにギリシアの神々と同一化されていた。初期のローマ人はこの宗教的事実を背景として、おもに歴史的事件や祭儀の起源を説明するためにギリシア神話を受け入れた。やがてローマに文芸が発達すると、作家たちは競って神話をもとに叙事詩や劇を書き、とくに歴史を主題としたナエウィウスエンニウスの作品では、トロヤを追われたウェヌス女神の子アエネアスが、ロムルスを始めとするローマ建国の英雄たちの祖先になるという、独自な神話解釈を発展させた。こうしてローマに定着したギリシア神話は、しかしすべての物語が受け継がれたわけではなく、たとえば、ゼウスに反抗したプロメテウスや肉親殺しのオイディプス、オレステスの話などは、道徳を重んじるローマ人には好まれなかった。

 またギリシア神話の受容以前には、ローマ固有の神話が存在したと想像されるが、そのほとんどがローマ文学古典期以前に忘れ去られ、今日ではわずかにアンナ・ペレンナ祭の起源譚(たん)が残っているにすぎない。その失われた神話を求めて、現在神話学者たちはローマの祭儀に注目している。たとえば、曙(あけぼの)の女神マテル・マトゥタの祭であるマトゥラリアでは、婦人たちが奴隷女を鞭(むち)打って神殿から追い出し、姉妹の子供をかわいがるしぐさをするという奇妙な儀式を行うが、これはインド神話における曙の女神が、闇(やみ)を払い、姉妹の夜の女神が産んだ太陽を育てるという神話と一致している。したがって、マテル・マトゥタをめぐって、インド・ヨーロッパ語族共通の神話にさかのぼる古い話がローマに存在したと考えられる。同様の比較神話の方法により、ディウァ・アンゲロナ、フォルトゥナ・プリミゲニア、ルア・マテルなどの土着の神々の性格と神話も明らかにされている。なお『祭暦(フアステイ)』において、ローマ文学古典期の詩人オウィディウスは、おもにギリシア神話を用いてさまざまなローマの祭儀を解釈しているが、そのつくられた起源譚のなかにもしばしば古いローマ神話の要素がみいだされる。

[小川正広]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ローマ神話」の意味・わかりやすい解説

ローマ神話
ローマしんわ
Roman mythology

古代ローマ人がもっていた神話。ローマには当然固有の神話があったが,ギリシア文化の影響を強く受けた歴史時代のローマ人たちは,ローマの神々の大部分に「ギリシア的解釈」を施し,ギリシア神と完全に同一視するようになっていたため,現存するラテン文学中に見出される神話は,ほとんどすべてがギリシア神話を神名までラテン語名に変えて再説したものであり,ローマに固有の神話は,ほんのわずかの例外を除き,ほぼ完全に失われてしまった。しかしロムルスやヌマ・ポンピリウスなどの最初の王たちや,ホラチウス・コクレスとムキウス・スカエウォラなど,王制から共和制への過渡期に活躍したとされる英雄たちを主人公とする歴史伝説には,神話的色彩がきわめて強い。フランスの比較神話学者デュメジルは,これらをインドやゲルマン,ケルトなど,他のインド=ヨーロッパ語族の神話と比較することにより,失われたローマ神話の遺構がそれら歴史伝説中に多く保存されていることを明らかにした。

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世界大百科事典 第2版 「ローマ神話」の意味・わかりやすい解説

ローマしんわ【ローマ神話】

古代ギリシア人はまことに多彩な神話を繰り広げてみせたが,何事につけ彼らと並び称されるローマ人は,神話を〈宇宙の生成と神々についての物語〉と狭く定義するならば,固有の神話といえるものをほとんど残していない。
[ローマの古神格]
 しかし,キケロの有名な言葉に〈われわれは諸芸術についてはギリシア人に所詮かなわない。しかし宗教性の点や,万物は神々による支配に服しているという洞察まで達した唯一の叡知を有する点では,すべての民族にまさる〉とあるように,ローマにも早くより独自の神崇拝が存在した。

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