一物(読み)ヒトモノ

デジタル大辞泉 「一物」の意味・読み・例文・類語

ひと‐もの【一物】

[副]いっぱい。一面に。
内供が顔にも、童の顔にも、かゆとばしりて―かかりぬ」〈宇治拾遺・二〉

いち‐もつ【一物】

一つ品物。また、ほんの少しのもの。
心中に秘めたたくらみや、わだかまり。「胸に一物がある」
金銭のこと。
男根のこと。

いち‐ぶつ【一物】

一つのもの。また、同じもの。

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精選版 日本国語大辞典 「一物」の意味・読み・例文・類語

いち‐もつ【一物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 一つのもの。一つの品物。また、ほんの少しのもの。いちぶつ。
    1. [初出の実例]「一物分題雖簟、微涼暗至豈相親」(出典:本朝無題詩(1162‐64頃)二・探一物得簟〈菅原在良〉)
    2. 「運転手も乗客も皆な身を乗出して薦の被(か)けてある一物(モツ)を見た」(出典:窮死(1907)〈国木田独歩〉)
  3. 心の中に秘められたたくらみやわだかまり。内面に隠された思慮分別
    1. [初出の実例]「何ぞいちもつなふては富貴には成がたきに」(出典:浮世草子・世間胸算用(1692)四)
  4. 金銭や陰茎などをそれとなくさしていう語。
    1. [初出の実例]「ひゃうしぬけに。あけばあげ。つかばさげ。かやうにせねばいちもつ。そこぬるものなり」(出典:評判記・秘伝書(1655頃)夜るのをしへの事)

ひとつ‐もの【一物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 同じもの。かわらないもの。同類
    1. [初出の実例]「見奉るにも涙のみとどまらぬは、ひとつものとぞ見えざりける」(出典:源氏物語(1001‐14頃)藤裏葉)
  3. 一つのもの。一つしかないもの。
    1. [初出の実例]「万代のむかしも月やひとつ物 天の戸口の秋のすゑずゑ」(出典:俳諧・望一後千句(1652)七)
  4. 女房詞フナなどの魚をまるごと料理したもの。
    1. [初出の実例]「あつきそろそろ一物にて御さか月まいり」(出典:御湯殿上日記‐文明一七年(1485)二月七日)
  5. 祭礼神霊をかたどって渡御に参加する童子。白衣白袴に山鳥羽根をつけ、馬に乗るものが多い。京都宇治市の宇治離宮明神還幸式、長野県千曲市屋代の須々岐水神社の祭など類例が多い。
    1. [初出の実例]「百番の芝田楽、百番のひとつもの」(出典:平家物語(13C前)一)

いち‐ぶつ【一物・逸物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 一つの物。また、ある物事
    1. [初出の実例]「嚢(ふくろ)に一物(イチブツ)の尊親に献ずるなし」(出典:滑稽本・古朽木(1780)一)
    2. [その他の文献]〔史記‐周本紀〕
  3. ( 逸物 ) =いちもつ(逸物)色葉字類抄(1177‐81)〕

ひと‐もの【一物】

  1. 〘 副詞 〙 その中、その場所に物がたくさんあるさまを表わす語。いっぱい。一面に。ひたもの。
    1. [初出の実例]「大きなる壺の有けるに、水を一物入れて」(出典:今昔物語集(1120頃か)二八)
    2. 「粥とばしりてひと物かかりぬ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)二)

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