精選版 日本国語大辞典 「上水道」の意味・読み・例文・類語
じょうすい‐どう ジャウスイダウ【上水道】
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生活用水として飲用可能な水を人々の集住する地域に管で供給する都市施設の総体。行政上は規模や給水対象により上水道(計画給水人口5001人以上)、簡易水道(同5000人以下)、専用水道(社宅などだけへの給水)、用水供給事業(水道事業体への卸売り)、営農水道ほかの区別があるが、ここでは、工業用水道や雑用水道は除外して、飲用可能な水を配るシステムを総称して上水道として扱う。
[小林三樹]
自然の清流や湧泉(ゆうせん)もしくは井戸の近くになんらかの理由で居住できない場合や、集落の人口が増えて汚染を避けられないとか水量が不足する場合に、集落の近くまで清水を導く施設を共同で設けたのが水道の起源であり、古代メソポタミア文明の都市にすでに地下水路を通して都市内の水汲(みずく)み井戸まで導水した遺構がある。古代ローマ帝国の諸都市には、数十キロメートルも離れた高地の清流河川や泉から取水して都市まで導く水道(アクエダクト)が築造されていた。
日本では灌漑(かんがい)用水路は弥生(やよい)時代からあり、きれいな用水であれば生活用にも用いていたのだが、戦国時代から江戸時代初期にかけて、城郭用水を城下町にも流したのが水道の始まりである。市街地内に細かく分配されるようになったのは、江戸時代に入って社会が安定してからで、とくに江戸では埋立地に市街地を造成する関係から良質の飲用水を人工的に導水する必要に迫られ、1590年(天正18)の神田(かんだ)上水から1654年(承応3)の玉川上水に至る間に水道の整備が鋭意進められた。諸藩の40余の城下町においても人口増に対処して生活用と防火用の水を確保するために水道が設けられた。市街地内は木管であったが、これらの水道は明治末から大正期に近代水道が敷設されるまで使用され続けた。古代ローマ水道とこれら日本の近世都市の水道との共通点は、遠くの泉や川から清水を導水してそのまま無処理で供給していたこと、遠くの水源から流末まですべてが自然の勾配(こうばい)に沿って導かれたことである。したがって市街地内の管も一般に無圧であり、桝(ます)(上水井戸とよび、人々はここから汲みあげて使った)を通じて常時流れっぱなしであり、余水は川に落とされていた。古代ローマでは余水を浴場や噴水池にあふれさせた。
18世紀に入り産業革命を経て人口の急増したヨーロッパの都市では、コレラ、腸チフス、赤痢など消化器系伝染病の蔓延(まんえん)に悩まされていた。安全な井戸水が得られず、川の水を配っていた地域でも、河川水を砂濾過(ろか)して給水していた地域に患者の発生の少ないことが経験的に知られ、19世紀後半には砂濾過池がつくられるようになった。コッホらが病原菌を発見するより数十年も以前のことであった。また濾過された水は汚染されないように鉄管により配られるようになった。同じころにポンプやバルブや鉄管も実用化され、濾過水が途中で汚染されないように有圧で配る新しい型の水道が徐々に普及していった。
日本では開国直後からコレラや赤痢が開港場を中心に毎年流行し、年に数万から十数万人もの死者を出していた。西洋流の新しい水道が必要と知られながらも資金難からなかなか着工に至れず、1887年(明治20)以降になってようやく小規模ながら横浜、函館(はこだて)、長崎、大阪、広島などに河川水を砂濾過して有圧の鉄管で配る「近代水道」が整備されるに至った。当初は鉄管もバルブもすべての資材をイギリスから購入した。明治年間に24都市、大正年間にさらに39都市に近代水道が設けられた。日本で主要都市の中心部に水道が行き渡ったのは1935年(昭和10)ごろであり、水道普及率は1952年(昭和27)に25%であったものが、経済成長を受けて1960~1970年代に急速に整備され、2000年(平成12)には96.4%まで達した。水道のない地域に住む国民は約457万人である。
[小林三樹]
水道は、必要な水を集め取り入れる施設(水源施設、取水施設)、需要地までまとめて運ぶ施設(導水施設、送水施設)、水質を改良し飲めるように処理する施設(浄水施設)、必要な水圧と水量とを伴って市街地内を輸送し需要者の地先まで配る施設(配水施設)、需要者の敷地内や建物内を蛇口まで配管する施設(給水装置)、これら全体を水量水圧面と水質面で監視し運用する機能(中央管理機能)からなる。上水道で重要な二つの要素は、水量の継続性(いつでも蛇口から十分な水量を取り出せること)と水質の良好さ(健康を損なう成分や色、濁り、異臭味を含まないこと)にある。いつでも良質な水が潤沢に出る水道は理想であるが、先進国でもさまざまな困難な課題を抱えている。なお水道は巨額の設備投資を必要とする施設なので各都市の公営企業体が建設して運営している。しかし施設運転や保守、料金徴収業務などに市町村営がかならずしも有効とはいえない面もあり、世界的には一部民営化や委託の方向にある。どの場合でもその費用は水道利用者の負担する料金によってまかなわれている。
[小林三樹]
人体が飲食物を通じて摂取する水量は1人1日約3リットルであるが、調理、洗濯、入浴、洗面、清掃ほかの生活用水もあわせて1人1日の生活に100~200リットルの水が使われる。この値は同居人数、入浴や洗濯や外食の頻度などにより異なる。都市全体では病院、ホテル、飲食店、交通機関、学校などの使用量が加わるので、全給水量を給水人口(住民登録人口)で割ると、市民1人1日当り200~400リットルに相当する。この値は都市の規模や性格によって異なり、都市機能の集積した中枢都市ほど一般に大きな値を示す。また地震災害などでの緊急避難時に数日なら1人当り3リットル程度ですんでも、数日を経ると洗濯も入浴も必要になるので数十リットルは必要になる。
[小林三樹]
日本では地下水を水源としている水道の水量合計は全体の30%でしかなく、大都市を中心に水道原水の70%を表流水(河川や湖沼の水)に依存している。水質と水量が安定していることでは地下水が優れているが、地盤沈下などの弊害を生ぜずに揚水可能な水量を超えて水道の需要水量が増すと、表流水に依存せざるをえなくなる。河川の自流は古くから農業などに利用されている場合が多いので、新規に取水するには上流にダムを設けて大雨を調節して利用するしかない。何十年ぶりというような少雨年でも水量を確保するには、経年備蓄できるような大きな貯水池を必要とするが、日本の地形では農山村集落の移転や環境への影響なしに大ダムはつくりえず、おのずと限界がある。一方、大河川の下流から取水するほど大水量を取水しうるが、それは農業排水や下水が集まるからで、高度の浄水処理を必要とし、かならずしもおいしい水にはなりにくい。このように水源の水質と水量とが両立しがたいところに、大都市域の水道は大きな問題を抱えている。
[小林三樹]
水源から取水した水(原水)を安心して飲める水質にまで加工することを浄水処理または浄水といい、それを行う施設が浄水場である。浄水処理の過程は、原水中の飲用不適な成分(濁りや色、病原微生物や汚染成分、重金属、異臭味など)を除去することと、殺菌のための塩素添加からなる。したがって清澄な原水を確保できるほど簡単な処理ですむこととなり、良好な地下水を取水できる場合に限り塩素殺菌のみで給水されている。表流水の場合でも、水源の集水域が森林で覆われているなど総合的にみて危険が少ないならば、濁りの除去と殺菌のみで飲用上の安全は確保される。しかし上流にゴルフ場などのレジャー施設、湖沼、鉱山、農地、都市集落、工場、廃棄物処分場などがある場合には、濁りの除去に加えて、さらに下水性有機物、微生物、重金属、農薬、異臭味成分などの徹底した除去を必要とすることが多い。
浄水技術を歴史的にみると、都市給水のため広大な面積の砂層を設けて河川水を緩やかに浸透させ、地下水に類似した水を得ようとする試みは1820年代のロンドンに始まった。砂層では水中の懸濁物が物理的に抑留されるにとどまらず、砂層表面に繁殖する藻類プランクトンや原生動物の群落からなるバイオフィルム(濾過膜)によって細菌、鉄、マンガン、異臭味、アンモニアなどが包括的に除去されることから、優れた浄水方式として広まり「緩速濾過方式」として定着した。日本はこの方式をイギリスから学び、1887年(明治20)の横浜市を初めとして各都市に建設された近代水道の浄水場は、昭和10年代に至るまで(例外的な数か所を除き)すべてこの緩速濾過方式によって浄水処理するものであった。しかし砂層を緩慢な速度で通水させるため広大な敷地面積(人口10万人に給水する1日3万立方メートルの水を漉(こ)すのに、1万平方メートルの濾過池と、さらにほぼ同じ大きさの沈殿池)を必要とすること、洪水時の濁った原水を入れると砂層が詰まってしまい通水量が減少することなどから、20世紀後半の日本の大都市には不向きとなった。東京都庁など高層ビルの建つ西新宿は淀橋(よどばし)浄水場の広大な砂濾過池の跡地である。現在では次に述べる「急速濾過方式」が、狭い用地ですむこと、高濁度やある程度の汚染に対処しうること、労働力が少なくてすむこと、などから主流になっている。
急速濾過方式は、原水中の粘土や有機物のコロイドや細菌などマイクロメートル単位の大きさしかない物質を、プラス荷電をもつ凝集剤(アルミニウムが広く用いられている)を加えて不安定化してフロックfloc(水酸化アルミニウムなど)に吸合捕捉(ほそく)する凝集操作によって、ミリメートル単位の物質まで成長させてから、沈殿ならびに砂濾過による懸濁物分離を能率よく行うことが特徴である。緩速濾過方式に比べて敷地面積当りの効率は30~50倍になるが、細菌除去が不完全なので塩素殺菌で補完する。しかし殺菌用塩素に抵抗力をもつ微生物や原虫卵に対しては、凝集と濾過の段階で粒子状物質を徹底して除去することが肝要である。また溶存汚染物については吸着作用などで副次的に若干の除去が期待されるだけなので、その除去をとくに必要とする場合には個別の処理を別途に付加しなければ浄化が徹底されない。それを特殊処理とよび、酸化処理(オゾンや塩素を酸化剤として有機物の分解や低分子化、マンガンの酸化除去、アンモニアの分解など)、吸着処理(異臭味や毒物を活性炭により吸着除去)、生物酸化処理(微生物の生化学反応を利用したアンモニアの硝化や異臭味、鉄、マンガンの除去)などが一部で実施されている。
なお浄水処理を行うと原水中から除去された粘土物質を主とする汚染物が汚泥(スラッジsludge)として残るので、外部環境を汚染しない方法で始末しなければならない。一般には濃縮、脱水、乾燥などの処理を施して固体化し、埋立て土もしくは農地の土壌改良材、セメント製造など窯業の原料、運動場造成表土などとして利用もしくは処分される。その過程で濃縮脱水しにくいスラッジの改質に凍結融解法、アルミニウム回収法、高分子凝集法などが、また脱水には天日乾燥法が一般的だが、十分な広さの敷地を得にくい都市域では加温や電気浸透や高圧圧搾脱水法などが開発され使用されている。
[小林三樹]
浄水場で浄化された水が住宅地の細街路まで配られる過程(公共部分)を配水という。需要者が蛇口を開いたときや火災で消火栓が開かれたときに瞬時に必要な水量が出るためには、適切な水圧、水量の蓄え、水の疎通能力が必要である。配水施設は配水池、配水ポンプと配水管、水圧と水量のコントロール機能からなり、これらの施設が適切に配置され運用されることによってその機能を果たしている。まず給水区域に近い小高い場所に1日使用水量の3~5割の水量を蓄えうる配水池を設け、浄水場から直送される水を受け入れる。配水池の役割は朝夕に集中する給水需要の時間変動の調整にあり、需要の少ない夜間に蓄えた水をピーク時間帯に送り出す。住宅地では洗濯の集中する晴れた日の午前中の供給に、また小都市では火災時の供給にも対処している。配水能力が不足していると、ピーク時間帯に水の出の悪い地域が生ずる。配水池以降は公道下に埋設された配水管を経て各街区に達する。給水区域内には配水池水位からの水圧でそのまま給水される。また市街地の高低差が大きい場合には給水区域を地盤高によって分割し、高区にはさらに高所に配水池を設けるとか増圧ポンプを介して供給し、低区には水圧が過大にならないよう逆に減圧して供給している。さらに水道の配水管は、水圧を平均化するため市街地内に環状もしくは網目状に配置して、樹枝状や行き止まりの配置をなるべく避けている。これは火災時の消火水量確保や災害事故時の給水確保にとくに重要である。なお使用水量の多い時間帯には配水管内の摩擦抵抗のため蛇口での水圧が下がり、逆に夜間には水圧が高くなりすぎるなど使用水量による水圧の時間変動を緩和するために、水道本管の水圧はポンプやバルブで常時調節されている。
[小林三樹]
公道下の配水管から分岐して需要者の蛇口に至る部分を給水装置という。私有建物内の給水装置はメーター(料金賦課用の量水器)を除き私有物であるが、上水道システムに直接連結して使用している配管には、水質汚染事故の生じないよう、その形状や材質について水道局が規格を定めている。使用水量は、メーター内の羽根車の回転積算数として目視または電気信号に変換して読み取られ、水道料金算定の基礎となる。水は蛇口から放水して用いるのが原則であるが、水洗便器は水圧が必要なことから、汚水が水道管内に絶対に逆流しないような特殊な弁を付けることを条件に、水道管への直結使用が例外的に認められている。ほかに給湯機、冷水水飲み器、屋根にのせる太陽熱温水器、皿洗い機、洗濯機なども同様である。
水道管の水圧は、2階建て程度の一般住宅で直接使用できるよう運用されている。高層や大形の建物などでこの水圧では不足する場合には、1階に受水槽を設けて水道水をいったん受水したのち、屋上などに設けた高置(こうち)水槽にポンプで揚水し、その水槽から建物内部にあらためて配管して給水するタンク式給水方式が義務づけられてきた。しかし中高層住宅が増え、建物側での水質管理が徹底せず、ビル内で水質が悪化する例が後を絶たないため、10階程度までは水道管から直接給水できるように、水道管の配水圧力を高くする施設改良が大都市で順次行われている。
このように使用時点での水質は、水源地域の保全、浄水場、配水施設の維持管理の良否に左右されるのみならず、建物内配管設備の管理不良によっても簡単に損なわれるものである。信頼できる健全な上水道は市民の財産であり都市生活上不可欠であるからこそ、それが水量的、水質的に安定して機能しうるよう大切に守っていく必要がある。
[小林三樹]
『丹保憲仁著『新体系土木工学 第88巻 上水道』(1980・技報堂出版)』
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