新しい不斉中心を生成させる反応において,一方の光学活性体をより多く生成させる反応.たとえば,ピルビン酸CH3COCOOHのエチルエステルにグリニャール試薬C6H5MgBrを作用させ,その生成物を加水分解すると,1個の不斉炭素原子(C*)をもつ化合物CH3C*(OH)(C6H5)COOHが得られるが,これはラセミ体である.しかし,(-)-ボルネオールのピルビン酸エステルを用いて同様の反応を行わせると,最終生成物CH3C*(OH)(C6H5)COOHは(+)-体よりも(-)-体のほうが多く生成する.もっとも普通に行われる不斉合成はこの例のように,分子のなかにすでにキラルな構造が存在する光学活性体について,そのキラル中心の近くに新しい不斉中心を導入するものである.このような場合には,2種類のジアステレオマーの生成比が異なり,いわゆる不斉合成が行われる.このような不斉合成反応をジアステレオ区別反応とよぶ.D-アラビノースにシアン化水素を作用させてから加水分解すると,互いにエピマーの関係にある2種類の生成物D-マンノン酸とD-グルコン酸とが得られるが,両者の生成比は3:1である.これもジアステレオ区別反応を利用する不斉合成である.
反応に直接関与する化合物にはキラルな構造は存在しないが,キラルな構造をもつ光学活性な物質が一種の触媒または溶媒として共存することによって不斉合成が行われる場合もある.これは,エナンチオ区別反応とよばれる.たとえば,ベンズアルデヒドとシアン化水素の反応を(+)-キニジンの存在下に行うと,(-)-マンデロニトリルが(+)-異性体よりも多く生成する.また,本来アキラルな分子がキラルな空間群の結晶を形成する場合,結晶状態での光反応により光学活性体が生成することがある.この場合をとくに絶対不斉合成とよぶ.[別用語参照]BINAP(バイナップ)
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
歴史的には、不斉な分子に新しく不斉原子を導入する合成反応において、2種のジアステレオマーが異なる収率で生ずる場合をいったが、現在では不斉原子をもつ化合物の対掌体の一方を高い収率で選択的に合成することをいう。後者のことを絶対不斉合成ともいう。
前者では、すでに存在する不斉中心がジアステレオマー生成反応速度に影響を与え、その結果として収率に差が現れる。後者では、一般に不斉でない化合物から不斉な化合物を合成すれば、対掌体の対が同収率で生じてラセミ体を得るが、偏光照射下あるいは不斉な触媒を利用することによって、一方をより高い収率で得ることができる。地球上の生命体を構成するアミノ酸や糖は、一方の対掌体系列に属する絶対配置をとるので、絶対不斉合成は生命科学、薬学、食品科学における重要な研究課題となっている。
[岩本振武]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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