精選版 日本国語大辞典 「不確定性原理」の意味・読み・例文・類語
ふかくていせい‐げんり【不確定性原理】
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原子や素粒子などの微視的世界の粒子の位置と運動量を測定すると、粒子の状態が同じであってもこれらの物理量の測定値は一般にばらつく。この場合、ばらつきの大きさの間には定まった関係がある。この関係を原理のようにみなしたとき、この関係を不確定性原理という。ドイツのハイゼンベルクが1927年にみいだしたものである。
[田中 一]
の(1)のように野球のボールをたたくとボールは飛んでいく。ボールは飛行中つねに確定した位置と確定した速さあるいは速度を有していて、 の(2)のようにボールの運動状態を1個の点の描く曲線として示すことができる。しかし、微視的世界の粒子の運動では事情がまったく異なる。 の(1)は水素原子内電子の位置x座標を測定した結果であり、軸の方向は任意である。位置のy座標やz座標についても同様な結果となる。水素原子内電子は太陽系内の惑星のように軌道を描いて陽子の周りを運動しているのではなく、波のような運動状態にある。この状態にある電子の位置の測定値は、運動状態が同一であっても測定ごとに測定値がばらついているが、多数回測定したときに得られる個々の測定値の頻度は測定値ごとに定まっている。 の(1)は電子の位置の測定値の頻度分布を確率で示す。図BのΔxは測定値のばらつきの大きさである。
である。ここでħはプランク定数hを2πで割ったものである。これら二つのばらつきの大きさを乗じた結果は(2/3)=0.816…となって1/2ħより大きい。この関係すなわちΔxΔp≧ħ/2を不確定性関係といい、水素原子内電子の運動の場合のみならず粒子の運動一般の位置と運動量の間に成り立つ。そればかりではなく、もっと広く正準共役(きょうやく)な力学変数の間でもつねに成り立つ。この関係は、微視的世界の粒子の運動状態の特徴の核心を示したものであって、共役な物理量の間の関係を不確定性関係という。この関係を用いると量子的現象の多くの特徴を理解することができる。とくにこの点に注目したとき不確定性関係を不確定性原理とよぶ。
[田中 一・加藤幾芳]
の(1)と(2)とを後に示す方法で一つの図にまとめたものが であって、水素原子内電子の状態を有限な広がりをもつ雲のような点の分布で示す。このような分布で表される微視的世界の粒子の状態と の(2)の1点で表される古典的世界の粒子の運動状態とを比べてみれば、微視的世界の力学すなわち量子力学が古典力学といかに異なっているかを知ることができよう。
粒子の量子力学的運動状態のなかには、粒子の位置がほぼ定まっていてΔxがゼロに近い場合がある。しかし、この場合には不確定性関係から、運動量のばらつきΔpがħ/(2Δx)よりつねに大きいことを考えると、Δx→0となるにしたがいΔpは→∞となって運動量のばらつきはきわめて大きくなってしまう。運動量のばらつきが小さくなっても同じである。
不確定性関係は位置xと運動量pの間の特別の関係すなわち交換関係xp-px=iħから理論的に導くことができる。したがって、不確定性関係は微視的状態すなわち量子的状態の特徴を示すものであって、主観的なものでなく、客観的なものである。時間とエネルギーとの間にも、不確定性関係と同様な関係ΔtΔE≧ħ/2が成り立つ。エネルギーの高い状態にある粒子は、時間がたつにしたがって急速にエネルギーの低い状態に移っていく。このときの時間間隔Δtとエネルギー間隔ΔEの間に不確定性関係と同様の関係が成り立つことを示すことができる。この結果、短い時間の間であれば粒子は高いエネルギー状態をとることができることがわかる。
の(1)と(2)から の画面の図を作成するには、まず図Cの画面を等間隔の縦と横の何本かの直線で多数の正方形の小区画dに分ける。次にこの小区画dに対応する位置x'と運動量p'の値に対する図B(1)と図B(2)の確率Px'とPp'を求め、両確率の積Px'・Pp'に比例する濃度で小区画dを塗りつぶす。塗りつぶすかわりに、この確率の積に比例する数の点をランダムに打ってもよい。この処理を小区画全体にわたって行う。図Cは40×40に分けたときのものである。
量子力学では、座標と運動量のそれぞれの分布を表す二つの図(図Bの(1)、(2))ではなく、一つの図(図C)で表すことができる。
[田中 一・加藤幾芳]
古典力学によるならば、水素原子内の電子は円軌道運動という加速度運動を行っているため絶えず電磁波を放出し、その結果、1000億分の1秒で崩壊してしまうことになる。つまり、古典力学では水素原子の安定性を導き出すことができないことを意味する。電子が力学的に運動しながらその運動範囲を縮めていくとΔxもまた小さくなり、不確定性関係からΔpが大きくならざるをえなくなる。このとき運動エネルギーが増大する。電子はエネルギーが大きいこのような状態をとらない。いいかえれば電子の運動範囲はある限度以下に小さくなることができない。このように不確定性関係は水素原子の安定性の根拠を端的に示すことができる。
不確定性原理の提唱後、これを広く事象一般に適用するとともに因果律を否定する見解が現れて思想と哲学にも大きな影響を与えた。とくにハイゼンベルクが最初、不確定性関係を導くのに用いた方法は、実際の実験ではなく、思考上の実験として粒子の位置を引き続いて測定したときに生じる対象の乱れに注目したものであった。このため、これは主観が客観に関与する格好の例として、また世界の非因果性を示す具体例としてもたびたび取り上げられた。しかしながら、先に述べたように、不確定性関係は量子力学的に簡単に導くことができるもので、量子力学的に運動する粒子の状態をあいまいさなく表現したものである。したがって量子力学の不完全さや自然が非因果的であることを示すものとは考えられていない。
小澤正直(1950― )はハイゼンベルクの不確定原理の導出に不十分な点があることをみつけ、その点を改善して疑義のない導出を与えた。2003年(平成15)に提唱し、「小澤の不等式」とよばれている。
[田中 一・加藤幾芳]
『並木美喜雄著『不確定性原理』(1982・共立出版)』▽『大森英樹著『数学のなかの物理学――幾何学的量子論へむかって』(2004・東京大学出版会)』▽『原康夫著『量子の不思議――不確定性原理の世界』(中公新書)』▽『都筑卓司著『不確定性原理――運命への挑戦』新装版(講談社・ブルーバックス)』
量子力学の出現によって,微視的世界の観測には,ある程度の不確定さが観測上の限界として存在することをW. Heisenbergが発見した.これをハイゼンベルクの不確定性原理という.いま,動いている電子の位置と運動量を測定するために,図のような顕微鏡を考える.すると,x方向の距離の測定精度は使用する光の波長λによって制限され,図のような配置で,その誤差はおおよそ次式で表される.
それゆえ,波長λを短くすれば誤差はいくらでも小さくできると考えられる.ところが,波長を短くすると,それに伴って光照射によるコンプトン効果によって電子の運動量が増加することになる.それによる運動量の観測誤差はコンプトン効果の計算結果から,次式のように得られる.
すなわち,運動している電子の位置とその方向の運動量の観測誤差の積は,次式で表される.
Δ pxΔx~h
x方向は任意の方向にとれるから,どちらの方向でもこの関係は成立する.同様な式は時間tとエネルギーEの間でも成立することが上式の不確定性関係から導くことができる.
ΔtΔE~h
(証明:E = px2/2mなので,ΔE = (px/m)Δ px = vxΔ px.一方,Δt = Δx/vx~h/(vxΔ px)なので,ΔtΔE~hが得られる).これらの不確定性関係は,量子力学の展開から見いだされたものではあるが,むしろ,量子力学がこの原理のうえに成立しているとみるべきである.不確定性関係は,シュレーディンガーの波動力学やハイゼンベルクの行列力学を組み立てていく過程で自動的に組み込まれていくようになっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)
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