世代交番ともいう。同一の生物において,二つ以上の異なる生殖法をもつ世代が一定の順序に現れる現象。この現象はシャミッソーA.von ChamissoがサルパSalpaという浮遊性の原索動物ではじめて発見した。そして,この動物では有性生殖を行って単独で生活する世代と,無性生殖を行って群体生活を営む世代が交互に現れるために,この現象をデンマークのステーンストルプJ.J.S.Steenstrup(1813-97)が〈世代交代〉と呼んだ(1841)。
日本の沿岸に多いミズクラゲも明りょうな世代交代を行う。海中に浮遊する通常のミズクラゲは有性世代で,卵と精子を生じるが,その受精卵が発達して孵化(ふか)すると,繊毛をもって海中を遊泳するプラヌラplanulaという幼生となる。この幼生はやがて海底に固着して,ポリプ型の無性世代となる。このポリプは成長して横に多くの裂け目を生じ,ちょうど鉢を何枚も重ねたような姿となる。この鉢状のものが上から順次ちぎれて泳ぎ出し,成長して再び通常のミズクラゲとなる。
動物では,有性生殖と無性生殖とが交互に出現する上記のような例のほかに,両性生殖(卵と精子の合一による生殖)と単為生殖(卵細胞が受精を経ないで新個体となる生殖)が交代する場合(アリマキ,ミジンコ),両性生殖と幼生生殖(幼生が行う単為生殖)が交代する場合(タマバエ,ジストマ)なども広い意味の世代交代に含まれる。
植物ではドイツのホフマイスターWilhelm Hofmeister(1824-77)がシダ植物とコケ植物ではじめて世代交代を発見(1851)したが,その後,他の多くの植物群でも見いだされている。植物の世代交代は同時に核相(染色体数)の交代を伴う場合が多く,その場合は,減数分裂による細胞の単相化(染色体数が2nからnになること),および受精(接合)による複相化(nから2nになること)が,それぞれの世代の起点となる。
シダ植物では世代交代が明りょうに認められる。シダ植物の本体(われわれが普通に見る植物体)は胞子をつくるので胞子体(造胞体)と呼ばれ,複相(2n)である。胞子は配偶子と異なり単独で新個体を形成するので無性生殖細胞であり,したがってそれをつくる胞子体は無性世代である。胞子体の胞子囊中で,胞子母細胞から胞子ができるときに減数分裂が行われるので,胞子は単相(n)である。胞子が発芽すると,やがて普通長径が1cmにも満たない薄いハート形の植物体をつくる。この植物体は造卵器と造精器を生じ,それぞれが卵と精子という配偶子をつくるので配偶体という(シダ植物の配偶体は特に前葉体という)。この配偶体(前葉体)は単相の胞子から発達したものだから単相であり,配偶子という有性生殖細胞をつくるので有性世代である。受精卵は配偶体内で生長し,胚を形成するが,胚はやがて大きく発達して独立した植物体(胞子体の成体)になる。以上を要約すると,シダ植物では,無性世代で複相の胞子体と有性世代で単相の配偶体(前葉体)が規則正しく交互に現れる。なお,一部のシダ植物(イワヒバ,ミズニラ,サンショウモ)では大小の区別のある2種類の胞子を生じ,大胞子から雌性の配偶体,小胞子から雄性の配偶体ができる。シダ植物では,胞子体は大きく,維管束が発達し,ごく一部のものを除いて茎,葉,根が分化しているが,配偶体は小さく,構造も単純で目だたない。
コケ植物の世代交代は基本的にはシダ植物と同じで,有性世代・単相の配偶体と無性世代・複相の胞子体が交互に現れる。しかし,シダ植物と異なり,配偶体が大きくて目だち(われわれが普通に見るコケの植物体は配偶体),胞子体は小さく,構造も比較的単純で,配偶体に寄生している。
種子植物(裸子植物と被子植物)でも同様の世代交代を行う。普通に見る植物体が胞子体(複相・無性世代)で,大小2種類の胞子をつくるが,大胞子を胚囊細胞,小胞子を花粉細胞と呼ぶ。コケ植物やシダ植物と同様に,胞子は発芽して配偶体(単相・有性世代)となる。すなわち大胞子(胚囊細胞)からは雌性配偶体(胚囊),小胞子(花粉細胞)からは雄性配偶体(花粉管)が形成される。コケ植物やシダ植物に比して,種子植物の配偶体は極端に退化している。
藻類の世代交代には多くの型があるが,代表的な例を以下に述べる。緑藻植物のアオサでは,減数分裂を経て遊走子(鞭毛をもち,水中を泳ぐ胞子)をつくる複相の胞子体(無性世代)と,配偶子をつくる単相の配偶体(有性世代)が交代するが,両世代は同形同大である。褐藻植物のコンブの本体は複相の胞子体(無性世代)で,減数分裂を経て遊走子をつくる。遊走子は発芽して単相の配偶体(有性世代)となる。この配偶体はごく小さく顕微鏡的な大きさであるが,それに卵と精子が生じ,両者が合体して発達し,再びコンブの本体となる。紅藻植物のテングサでは,減数分裂によって四分胞子をつくる四分胞子体(複相・無性世代)と,配偶子(造果器と精子)をつくる配偶体(単相・有性世代)は互いに同形同大であるが,このほかに,配偶体に寄生して果胞子をつくる果胞子体(複相・無性世代)があり,この3者の間で世代交代が行われる。
執筆者:北川 尚史
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一つの生物種が生殖法の異なる世代を周期的ないし不規則的に繰り返す現象をいう。世代交番ともよぶ。ドイツの生物学者シャミッソーが1819年に原索動物のサルパの生殖を研究するうち、単独生活する個体と鎖状につながったチェーンサルパ(連鎖個体)とが交互に生ずることからこの概念を考えた。このように有性生殖によって増殖する有性世代と、無性生殖によって増える無性世代とが交互に繰り返す場合を世代交代というのに対し、細胞内の核相が単相(n)世代と複相(2n)世代を交互に繰り返す場合を核相交代とよんでいる。
[町田武生]
生殖様式にさまざまの分化がみられるのに対応して、世代交代の形式も多様であるが、大別すると、配偶子生殖と無配偶子生殖が繰り返す一次世代交代と、配偶子生殖の世代が二次的な無性世代と交代する二次世代交代とがある。前者はさらに、核相が両世代を通じて単相か複相かのいずれか一方だけの同相世代交代と、世代ごとに核相の異なる異相世代交代とに分けられる。
同相世代交代の例としては原生動物のステファノスファエラStephanosphaeraがあげられる。この動物は世代交代の全過程が単相世代の生物で、無配偶子で増殖を続けるが、ある条件下で配偶子を生じ接合すると、接合子はただちに減数分裂して単相となる。異相世代交代では複相の無性世代が単相の有性世代と交代する。原生動物の有孔虫にこの例がみられる。
二次世代交代もさらにいくつかの様式に分けられる。すでに述べたサルパの例のように、配偶子生殖と無性生殖とが交互に繰り返されるもっとも典型的な世代交代は、真正世代交代(メタゲネシスmetagenesis)とよばれる。ミズクラゲでは、有性生殖により生じた受精卵が発生し、プラヌラ幼生となる。これはやがて定着生活をし、ストロビラとなり、無性的に横分裂してエフィラ幼生を生じ、これがクラゲになる。アブラムシ、ブドウノコブムシなどの昆虫類、ワムシ類、蛙肺(かえるはい)線虫などでは、両性生殖と単為生殖とが交代して現れ、周期性単性生殖(ヘテロゴニーheterogony)といわれる。両性生殖と幼生生殖を交代するのは混合生殖(アロイオゲネシスalloiogenesis)とよばれ、肝蛭(かんてつ)やタマバエなど寄生生活をする動物にみられる。
[町田武生]
種子植物には明らかな形としての世代交代はみられないが、シダ植物以下の下等植物ではほとんどすべてについて明瞭(めいりょう)な世代交代がみられる。
シダ植物では、普通にみる植物体は胞子形成を行い(無性生殖)、胞子が発芽して成長すると前葉体をつくる。前葉体は直径1センチメートル以下の小形であるが、この上に造卵器、造精器の生殖器官をつくり、有性生殖が行われる。有性生殖の結果つくられる胚(はい)が成長して、普通にみられるシダ植物となる。無性生殖をする植物体を胞子体(無性世代)とよび、前葉体を配偶体(有性世代)とよんでいる。コケ植物では普通にみられる植物体が配偶体であり、この上に雌雄の生殖器官がつくられる。胞子体は配偶体の体の上に半寄生状態でつくられ、普通にはあまり発達しない。
有性世代、無性世代の体制の発達程度およびおのおのの世代における核相の状態などから、植物にみられる世代交代は次の四型に分けられる。(1)ヒトエグサ型 配偶体は大きく、これに雌雄の配偶子ができて接合する。接合子(2n相)はのちに減数分裂を行い、多数の遊走子をつくる。この遊走子から配偶体が成長する。無性世代は単細胞の接合子だけで代表される。緑藻類のヒトエグサにみられる型。(2)ムチモ型 配偶体が胞子体よりも発達するもので、コケ植物や褐藻類のムチモなどにみられる。(3)アミジグサ型 胞子体と配偶体が形態的にまったく同じで、おのおのの核相と生殖器官のみが異なる。褐藻類のアミジグサ、緑藻類のアオノリ、アオサ、紅藻類のテングサなどに代表的な例がみられる。(4)コンブ型 胞子体がよく発達するが、配偶体は発達せず小形で肉眼的に識別がむずかしい。褐藻類のコンブに代表される型で、シダ植物の場合もこの型である。種子植物もコンブ型の極端な型と考えられ、配偶体は花粉管および胚嚢(はいのう)で代表されると考えられている。
[井上 浩]
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…蘚類,苔類,ツノゴケ類に三大別され,世界に約2万種,日本に約2000種ある(図1)。
[生活史]
明瞭な世代交代を行う。すなわち,配偶子(卵細胞と精子)をつくる有性世代の植物体(配偶体)と胞子をつくる無性世代の植物体(胞子体)とが交互に繰り返される(図2)。…
…一般にシダ類といわれるものは真正シダ類fernで,シダ植物にはほかにマツバラン類psilotum,石松(せきしよう)類lycopod,トクサ類(有節類)horsetail(これらをひっくるめてfernalliesという)が含まれる。
[生活環]
種子をつくらない維管束植物はすべて,生活史のうちに,独立の生活を営む胞子体の世代(ふつうにみられるシダの体)と配偶体の世代(前葉体)をもち,それらが交互に現れる規則正しい世代交代を行っている。胞子が発芽すると配偶体になるが,シダ植物のうちの多くのものでは,心臓形をしてせいぜいmm単位の大きさの前葉体と呼ばれる構造をもっている。…
…
【植物の生活史】
植物には核相が単相の細胞でつくられる配偶体の世代と,複相の細胞でつくられる胞子体の世代があり,配偶体につくられる生殖細胞の配偶子は合体して接合子となり,胞子体では減数分裂の結果核相が単相の胞子をつくる。このため,配偶体の世代と胞子体の世代が交互に現れる世代交代がみられる。後生動物では生活環は単純で,成体に卵と精子がつくられ,受精が行われると胚発生を経て成体となる。…
…次いで,成熟した造卵器の頸部が開かれ,精子はそこを通って卵まで到達する。 コケ植物,シダ植物とも胞子が発芽して造胞体になる無性世代と配偶体のつくられる有性世代の両方が存在し,これを世代交代と呼ぶ。種子植物にも無性世代と有性世代があるが,配偶体は小さくなって,造胞体にあたかも寄生するような形態をとっている。…
…最も複雑な形態は(6)に見られ,褐藻ホンダワラ属の体は藻類の中で最高度に分化して,根,茎,葉の区別が外見上明りょうであり,陸上植物の体を思わせる。
[世代交代]
藻類の世代交代には大別して三つの様式がある。第1は外見上同形の配偶体と胞子体の間で世代交代をする。…
※「世代交代」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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