映画,演劇等をも含めた広義の文学作品のなかの中心人物。その存在様態は根本的には他の作中人物と変わらないが,全編に一貫して登場したり(ドン・キホーテ),ドラマの結節点となったり(ハムレット),みずから主題を具現したり(ボバリー夫人)して,作品の骨格を支える。環境との関係では,主人公が次々と異なる土地や社会や異性を遍歴するとピカレスク・ロマン(ラサリーリョ・デ・トルメス,世之介)となり,それらの環境が主人公の人格形成に寄与すると教養小説(ウィルヘルム・マイスター)となる。運命として機能する環境ないし権力ある他者との葛藤は悲劇を生む(ロミオとジュリエット,ブリタニキュス)。あらゆる文学作品は,脈絡のある説述,事件,行動を枠組みとした物語を含むが,その物語形式の軸をなすのが,主人公の存在である。古典的物語形式は原則として単数軸(1人もしくは1組の主人公)を想定するが,近代以降,《ゴリオ爺さん》(バルザック)のような複数軸の作品が多くなった。
英語のhéro,フランス語のhérosがともに〈英雄=主人公〉を意味するとおり元来主人公とは凡俗を超えた神話的英雄であったが,それも物語の主人公たることによって英雄となりえたのである。文学の進化とともに,平凡退屈で無能な主人公が登場し,アンチ・ヒーローなどと呼ばれたが,彼らも主人公たることによって,レールモントフの言う〈現代の英雄〉たりえている。《異邦人》(カミュ)におけるように,かりに受動性の哲学を体現しているかに見えても,主人公はつねに物語を成立させる動的要素を代表するからである。現代では,物語形式への反省意識が強まるにつれ,物語を書く行為自体が物語の内容となり,主人公も作者との距離を縮めて,書く人,物語を組織する人と一体化した作品(たとえば,P. ソレルス)が少なくない。いずれにしろ,多くの主人公には作者の主観が濃厚に投影している。
執筆者:平岡 篤頼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…ジアセチルモルヒネdiacetylmorphineの一般名。モルヒネのアセチル化によってつくられる。分子式C17H23NO5,分子量369.4,融点173℃の白色苦味結晶性粉末。鎮痛作用は,モルヒネの4~8倍強く,作用の発現もはやい。便秘,嘔吐などの作用は弱いが,陶酔作用が強いため,耐えがたい欲求を起こしやすい。すなわち,依存性がきわめて強いため,毒薬かつ麻薬として麻薬取締法によって製造,所持,使用のすべてが厳しく禁止されている。…
※「主人公」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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