乏しい(読み)トボシイ

デジタル大辞泉 「乏しい」の意味・読み・例文・類語

とぼし・い【乏しい】

[形][文]とぼ・し[シク]《「ともしい」の音変化》
十分でない。足りない。「人材が―・い」「―・い経験
経済的に貧しい。「―・い生活
[派生]とぼしげ[形動]とぼしさ[名]
[類語](1お寒い貧弱貧相みすぼらしいちゃちぼろい劣悪劣等粗末お粗末粗悪低劣不出来不良出来損ない役立たず/(2貧しい貧乏極貧赤貧清貧じり貧貧寒貧する

ともし・い【乏しい/羨しい】

[形][文]とも・し[シク]
とぼしい1」に同じ。
旅費が―・いから」〈宙外独行
とぼしい2」に同じ。「―・い生活を送る」
心がひき込まれるようである。珍しくておもしろい。
「―・しき君は明日さへもがも」〈・三五二三〉
うらやましい。自分もそうなりたい。
「身の盛り人―・しきろかも」〈・下・歌謡

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精選版 日本国語大辞典 「乏しい」の意味・読み・例文・類語

ともし・い【乏・羨】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]とも〘 形容詞シク活用 〙
  2. 物事が不足している。不十分である。少ない。とぼしい。
    1. [初出の実例]「思ほしき ことも語らひ 慰むる 心はあらむを 何しかも 秋にあらねば 言問の 等毛之伎(トモシキ)子ら」(出典万葉集(8C後)一八・四一二五)
    2. 「馬にはわづかに草の糜(かゆ)ともしき程に与へて」(出典:仮名草子浮世物語(1665頃)一)
  3. 財物が少ない。貧しい。貧乏である。とぼしい。
    1. [初出の実例]「乏(トモシキ)(ひと)の訴は水をもて石に投ぐるに似たり」(出典:日本書紀(720)推古一二年四月(図書寮本訓))
  4. 珍しくて心がひかれる。めったに見られないくらい、すばらしい。まれなので、新鮮な感じがする。
    1. [初出の実例]「見まく欲り来(こ)しくも著(し)るく吉野川音のさやけさ見るに友敷(ともしく)」(出典:万葉集(8C後)九・一七二四)
  5. 自分にはないものを持っている人などをうらやましく思う。
    1. [初出の実例]「日下江の 入江の蓮 花蓮 身の盛り人 登母志岐(トモシキ)ろかも」(出典:古事記(712)下・歌謡)
    2. 「主人は大分の祿をくだし給はれば何か金銀の小柄なればとて乏(トモ)しくは存ぜざる所なり」(出典:浮世草子・新可笑記(1688)五)

乏しいの補助注記

オソル(恐)とオソロシとの関係と同じく、トム(求)から派生した語であろう。

乏しいの派生語

ともし‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

乏しいの派生語

ともし‐さ
  1. 〘 名詞 〙

とぼし・い【乏】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]とぼ〘 形容詞シク活用 〙
  2. 足りない。十分でない。ともしい。
    1. [初出の実例]「よろづに、とぼしき物、つゆなし」(出典:古本説話集(1130頃か)六二)
    2. 「東風君の様な経験の乏しい青年諸君は」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一一)
  3. まずしい。ともしい。
    1. [初出の実例]「最(いと)痛く貧(トホシキ)者は誠に返す事を得じと唱ふべきを」(出典:私聚百因縁集(1257)八)

乏しいの語誌

( 1 )トモシの子音交替形。中世ではトモシ・トボシ両形が用いられているが、近世に入るとトボシに落ちついた。
( 2 )上代ではトモシの形で、心ひかれる、うらやましい等の意味にも用いられたが、トボシの形では、少ない、乏しい、貧しいの意味でのみ用いられている。

乏しいの派生語

とぼし‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

乏しいの派生語

とぼし‐さ
  1. 〘 名詞 〙

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