乳化重合(読み)にゅうかじゅうごう(英語表記)emulsion polymerization

日本大百科全書(ニッポニカ) 「乳化重合」の意味・わかりやすい解説

乳化重合
にゅうかじゅうごう
emulsion polymerization

重合法の一種。多量の水中にビニルモノマーとかジエンモノマーのような水に難溶性のモノマー(単量体)を乳化剤の存在で分散させ、水溶性の重合開始剤を用いて行う重合法である。モノマーは油滴状になり、その周囲を活性剤、主としてアニオン性または非イオン性活性剤が取り囲み、安定な乳化状態になっている。重合は水溶性のラジカル重合開始剤によって水中のミセルから開始していく。反応条件も比較的穏和である。その特徴は、多量の水が存在するために系の粘度が低く、重合による発熱除去が容易であり、粒子径が小さく0.05ないし0.2マイクロメートル程度で、活性剤で保護されてラテックスになっているために相互に粘着することがない。ラテックスのまま塗料、繊維処理剤として使用できるし、また凝固させて通常のポリマー重合体)をつくることも可能である。欠点として活性剤や開始剤、凝固剤破片など無機系の不純物を含み、プラスチックとしての電気的性質や熱安定性、透明性を損なうといわれている。

垣内 弘]

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化学辞典 第2版 「乳化重合」の解説

乳化重合
ニュウカジュウゴウ
emulsion polymerization

主として水を溶媒として難溶性または不溶性の単量体を分散乳化させ,水溶性開始剤を加えて行う重合方法.天然のラテックスが,生体内で常温・常圧のごく穏やかな条件下で生成する事実に着目して発明された重合方法.乳化剤としては,アニオン活性剤や非イオン活性剤が使用され,エマルションの安定剤としてポリ(ビニルアルコール)が併用されることもある.乳化重合の特徴としては,
(1)系の粘度が低く重合による発熱の除去が容易である,
(2)粒子が細かく保護されているために相互に粘着することなく,ゴム状または粘着性ポリマーの製造に好都合である,
(3)ラテックスのまま塗料,皮膜剤,繊維処理剤として使用でき,また凝固させて通常の粉末状ポリマーをつくることも可能である,
(4)重合速度が速いわりに重合度が高い,
などである.一方,
(1)種々の不純物を含有し,また微粉状になるため,乾燥,その他の取り扱いが不便である,
(2)不純物のため製品の熱安定性,透明性,電気的性質などが劣る,
という欠点もある.

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世界大百科事典 第2版 「乳化重合」の意味・わかりやすい解説

にゅうかじゅうごう【乳化重合 emulsion polymerization】

付加重合反応による高分子の製造の実際的方法の一つ。付加重合反応のモノマー(単量体)であるビニル化合物は一般に水に溶けないが,これに界面活性剤(乳化剤)を加えて強くかきまぜると,乳化剤はその内部にモノマーをとり込んだミセルを形成して乳化する。この系に,水に溶けモノマーには溶けない重合開始剤を加え,加熱して重合させる。重合反応はミセルの内部で進み,生成したポリマー(重合体)はそのまま乳濁液(エマルジョン)となっている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乳化重合」の意味・わかりやすい解説

乳化重合
にゅうかじゅうごう
emulsion polymerization

重合方法の一種。反応温度を調節して重合を進行させるために媒体として水を使い,水に難溶性のモノマーと乳化剤 (石鹸) を加えて水中で安定なミセルとして分散させ,重合触媒は水に溶かして用いる。重合はモノマーのミセル中で進行するため,重合温度の調節が容易で,重合が速く,重合体の分子量は大きい。反応後も生成物はエマルジョンになっているため,重合体の分離が困難であるが,水を媒体として使用するので工業的に広く利用されている。生成物はまたエマルジョンのまま,塗料,接着剤として用いられる。

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百科事典マイペディア 「乳化重合」の意味・わかりやすい解説

乳化重合【にゅうかじゅうごう】

乳化剤を分散させた水中に単量体を乳化分散させ,水溶性触媒によって重合させる方法。重合熱除去が容易であるが,得られる重合物の純度は低い。重合物は乳濁液状なので塗料,接着剤などの製造に利用。
→関連項目ラテックス

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世界大百科事典内の乳化重合の言及

【重合】より


[付加重合の実際的方法]
 実用的な高分子の製造において行われている付加重合反応の多くは,ラジカル重合である。ラジカル重合の実際的方法としては,塊状重合溶液重合懸濁重合および乳化重合がある。塊状重合はモノマーに開始剤を加え,加熱,重合させる方法で,有機ガラスとして知られるポリメタクリル酸メチルの製造で行われている。…

※「乳化重合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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