乳母(読み)ちおも

精選版 日本国語大辞典 「乳母」の意味・読み・例文・類語

ち‐おも【乳母】

〘名〙 うば。めのと。ちも。にゅうぼ。ちおや。
書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「彦火火出見尊婦人(おむな)を取りて乳母(チオモ)湯母、及び、飯嚼(かみ)、湯(ゆゑ)坐としたまふ」

にゅう‐ぼ【乳母】

〘名〙 生みの親に代わって乳(ちち)を与え世話をする人。うば。めのと。にゅうも。
地蔵菩薩霊験記(16C後)四「彼娘の乳母(ニウホ)」 〔荀子‐礼論〕

まま【乳母】

〘名〙 うば。めのと。
※枕(10C終)三一四「僧都御乳母(めのと)のままなど、御匣(みくしげ)殿の御局にゐたれば」

にゅう‐も【乳母】

〘名〙 (「も」は「母」の呉音) =にゅうぼ(乳母)

ち‐も【乳母】

〘名〙 母親にかわって乳幼児に乳をのませて、養育をする女。ちうば。うば。ちおも。

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デジタル大辞泉 「乳母」の意味・読み・例文・類語

め‐の‐と【乳母/×傅】

(乳母)母親の代わりに子供に乳を飲ませて育てる女。うば。
「もの言はぬちごの泣き入りて、乳も飲まず、―の抱くにもやまで久しき」〈・一五〇〉
(傅)貴人の子を守り育てる役目の男。もりやく。
「―の兼遠を召して宣ひけるは」〈平家・六〉

ち‐おも【乳母】

うば。めのと。ちも。
婦人をみなを取りて―湯母ゆおも及び飯嚼いひかみ湯坐ゆゑひととし給ふ」〈神代紀・下〉

まま【乳母】

うば。めのと。
御前にまゐりて―の啓すれば」〈・三一四〉

うば【乳母】

母親に代わって乳児に乳を飲ませたりして、養育する女。おんば。めのと。

おんば【乳母】

《「おうば」の音変化》うば。めのと。

にゅう‐ぼ【乳母】

うば。めのと。

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百科事典マイペディア 「乳母」の意味・わかりやすい解説

乳母【めのと】

実母に代わって乳児に授乳し養育する女性。古代貴族豪族の間ではふつうに見られた。乳母と被扶養者の関係は非常に親密で,近親に近い扱いをうけた。平安中期以降,貴族を中心に乳母が養育に重点を置くようになると,乳母の夫(乳母夫)も役割が同じことから〈めのと〉とよばれ,さらに貴人の子弟養育にあたった男性一般も〈傅〉の字をあてて,〈めのと〉とよんだ。平安後期以降は武家の間にも広まり,親族,従者・郎等格の者のうち,父母の信頼を受けた者があたった。被養育者の成人後に政治的発言力を得る例も多かった。江戸時代の将軍家,諸大名もこれにならい,乳母の権力はかなり大きかった。徳川家光に対する春日局(かすがのつぼね)がその好例。民間では一般に,母乳不足や富裕な商家の場合に見られたにとどまる。
→関連項目一条能保乳親

乳母【うば】

乳母(めのと)

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普及版 字通 「乳母」の読み・字形・画数・意味

【乳母】にゆうぼ

うば。〔史記、滑稽伝、少孫論〕武少(わか)き時、東武侯の母、常にふ。壯なりし時、之れを號して大母と曰ふ。

字通「乳」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乳母」の意味・わかりやすい解説

乳母
うば

母親の代りに乳児に授乳し養育する女性。古来宮廷貴族の間では乳人 (めのと) といって,生児のために母親のほかに授乳する女をおくのが常であった。『日本書紀』神代の巻にも乳母の話があり,乳人のことは平安時代以降近世まで,『栄花物語』をはじめ諸記録にみえている。江戸時代には将軍家,諸大名をはじめ民間にもこの慣習が行われ,乳母の権力は大きかった。乳母の容貌や性質は生児に移るといわれ,その選定にはきびしく吟味が加えられた。また庶民の産育習俗にも,生児に最初の乳を与えるのは生母でなく,ほかの婦人があたる慣習があった。これを乳付けといって,チアワセ,チワタシ,アイチチなどと称した。これらは母乳のまだ充分に出ない時期に他人とこのような関係を結んで,その人の力を生児に付与しようとする一種の儀礼である。生児と同じくらいの子をもっている人に頼み,男児の場合は女児をもっている人,女児の場合は男児をもっている人を頼んだ。これを乳付親あるいは乳親 (ちおや) という。乳付親や乳母はともに,生児の成長のあとまで親子の義理をもつ例が多い。

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世界大百科事典 第2版 「乳母」の意味・わかりやすい解説

めのと【乳母】

実母に代わって子女の養育に当たる女性の称。乳母をおく風習は古代の貴族・豪族の間では一般的なことであった。《日本書紀》神代巻には〈ちおも〉とあり,また〈ちぬし〉と称することもあった。律令によれば親王およびその子には乳母が給されることになっていた。乳母と被扶養者との関係は非常に親密で,近親に近い扱いをうけた。9世紀の初めころまでは,例えば,阿倍内親王(のち孝謙天皇)と阿倍朝臣石井のように,親王の名に乳母の氏族名を付けることもごくふつうに行われた。

うば【乳母】

擬制的親族のうち,哺乳にもとづくものに乳母がある。古代オリエント,古代ギリシア,ローマ,中世ヨーロッパ,カフカス,西アジア,インド,中国,朝鮮,日本,マレー,ポリネシア,古代インカに分布していた。この分布からみて古代文明とその周囲に特徴的な制度である。しかも乳母は王族や支配者,貴族のところで行われるのがふつうで,たとえばイギリスでは,王族や上流階級ではビクトリア時代にいたるまで,子どもを哺育させるのが習慣だった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「乳母」の解説

乳母
めのと

実母にかわって子どもの養育にあたる女性。本来の役割は嬰児に授乳することだが,平安中期~鎌倉時代は養育に重点がおかれた。平安末期以降,乳母の夫も「めのと」(乳父)とよばれるようになり,被養育者の家政をとりしきる執事的存在として,また被養育者の後見人として重要な立場に位置づけられた。上皇・天皇の乳母・乳父や乳母子(めのとご)は,特別な待遇をうけ,破格の昇進をとげることが多かった。

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世界大百科事典内の乳母の言及

【乳】より

牛乳人工栄養【沢田 啓司】
【文化史】
 日本にはかつて,出産直後の母乳である初乳を〈新乳(あらちち)〉といって捨て,かわりに他の乳児の母親から乳をもらう〈乳合せ〉という風習があったが,感染の機会にもなるので,〈乳合せ〉には通過儀礼としての社会的意義はあるとしても,医学的には有害無益である。J.J.ルソーは乳母(うば)にゆだねずに子を母乳で育ててこそ,親子と夫婦のきずなが固くなり,家庭生活が魅力あるものになると強調した。乳母はヨーロッパにも日本にも古くからいたが,乳の出が悪い場合には,もらい乳をしなければならない場合もあるので,乳母に託することを一概に悪いとはいえない。…

【親族名称】より

…宗族は秩序の体系を持っており,人々はその中で一定の地位を占め,そのことから身分関係や国家の法との関係を規制され,各人は親族名称,すなわち〈名〉に応じた行動規準を持たねばならない。全体は図4を参考に供するとして,たとえば〈はは〉についてみると,生みの母を〈親母〉,めかけの子は父の正妻を呼んで〈嫡母〉,前妻の子は後妻を呼んで〈継母〉,めかけの子がその生みの母を失い,他のめかけが養育するとそのめかけを〈慈母〉,養子は養い親の妻を〈養母〉,離婚された親母を〈出母〉,寡婦たる親母で他人に嫁いだものを〈嫁母〉,父のめかけで子あるものを他の子は〈庶母〉,父のめかけで己に乳を与えたものを〈乳母〉という。親母を除いてこれらを〈八母〉というが,それぞれに礼制上,服喪の期間などが細かく段階的に定められていることはもちろん,律の上でも一定の扱いがある。…

【乳母】より

…擬制的親族のうち,哺乳にもとづくものに乳母がある。古代オリエント,古代ギリシア,ローマ,中世ヨーロッパ,カフカス,西アジア,インド,中国,朝鮮,日本,マレー,ポリネシア,古代インカに分布していた。…

※「乳母」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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