乳腺(読み)ニュウセン(その他表記)mammary gland
corpus mammae[ラテン]

デジタル大辞泉 「乳腺」の意味・読み・例文・類語

にゅう‐せん【乳腺】

哺乳類ほにゅうるいに特有の乳汁を分泌する腺。雄では痕跡的で、雌に発達乳房中にあり、汗腺の変化したもので、15~20の乳腺葉に分かれ、乳管によって乳頭に開口する。

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精選版 日本国語大辞典 「乳腺」の意味・読み・例文・類語

にゅう‐せん【乳腺】

  1. 〘 名詞 〙 哺乳類にみられる最大の皮膚腺で、乳汁を分泌する腺。汗腺の変化したもので、雌雄の胸腹部に数対あり、その数は産児数と関連する。雄では痕跡的。ヒトの場合、女性の第二次性徴の一つで、思春期に発育しはじめ、分娩後に分泌を開始する。乳房腺。〔医語類聚(1872)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「乳腺」の意味・わかりやすい解説

乳腺 (にゅうせん)
mammary gland
corpus mammae[ラテン]

哺乳類では,産み出された幼児はみずから食物をとるようになるまで,母親の乳milkで哺育される。この乳汁を分泌する哺乳類に特有の腺が乳腺である。皮膚腺の一種で,発生,構造とも汗腺に似ており,汗腺の変化したものとも考えられる。雄では痕跡的であるが,雌では性的成熟とともに発達し,さらに妊娠により著しく発達して乳の分泌が可能となり,新生児の哺育にあたる。最も原始的な哺乳類の単孔類のうち,カモノハシでは多数の乳腺が集合して平坦な皮膚面に直接開口し,ハリモグラでは生殖時期には開口部がややくぼみを生じ,乳囊 mammary pouchを形成する。その他の哺乳類では乳頭nippleが形成され,幼児の哺乳に適した形態となる。構造上は複合胞状腺であり,分泌様式からは分泌物が細胞質の一部とともに排出される離出分泌腺である。発生過程での乳腺の形態形成は,胎生期に表皮細胞が集まった乳腺原基に始まるが,乳腺上皮は脂肪前駆組織の作用を受けて初めて乳腺としての発生を進行することが知られている。
執筆者:

ヒトの乳腺は15~20個の腺葉からなり,それらは脂肪組織と結合組織とでできた支帯で隔てられて,乳頭を中心に放射状に配列している。各腺葉から発する各1本の導管は末端近くで紡錘形の〈乳管洞〉という拡張部を作ったのち乳頭の先に別々に開いている。乳腺自身は分岐した細い管から成り,この管系の上皮は立方状の細胞から成る。この管の先端部では,上皮の外側を,筋上皮細胞と呼ばれる特殊な平滑筋細胞が籠状に包んでいる。妊娠中の乳腺では,この管系の先端が細胞分裂して円柱状の分泌細胞となり,分娩後は乳汁の脂肪とタンパク質(カゼイン)を盛んに産生し放出する。乳児が乳頭を吸うと,そこに分布する神経が刺激され,興奮が視床下部に達し,オキシトシンというホルモンが下垂体後葉の血管中に放出される。オキシトシンは血液とともに乳腺に到来し,その筋上皮細胞を収縮させるので,乳腺の管腔内にたまっている乳汁がほとばしり出る。これを俗に〈ちばな〉が走るという。乳腺の発達は青春期になって急に進み,妊娠するに及んで内分泌的作用で分泌の準備がととのえられ分娩によって分泌を始める。乳腺の発達を促すのは卵胞ホルモンエストロゲン)という女性ホルモンである。分娩とともに脳下垂体から催乳ホルモンプロラクチン)が出て,このホルモンによって乳汁の分泌が開始される。哺乳期の終りになると,腺の分泌部は再び萎縮して,その一部は消失するが,その後も妊娠ごとに活動を起こす。しかし老年になると終末部は全部消失して,導管ばかりになる。男子の乳腺は終生おおむねこの状態にとどまるが,青春期には性ホルモンの作用で多少活動状態に入るらしく,乳腺の痛みを訴える者が少なくない。
 →乳房(ちぶさ)
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「乳腺」の意味・わかりやすい解説

乳腺
にゅうせん

脊椎(せきつい)動物の哺乳(ほにゅう)類だけにある乳汁を分泌する腺。皮膚腺の一種で、汗腺から進化したものである。雌雄にあるが、発生の初期段階で雄胎児ではその精巣が分泌する雄性ホルモンによって発達を阻止され退化してしまう。多くの哺乳類の乳腺はちょうど木の枝のように乳管が分枝しており、根元が乳頭という隆起の上に開口している。最下等の哺乳類である単孔類のカモノハシの乳腺は体の左右に1対あって乳頭はなく、哺乳するとき雌親はあおむけに寝て、子は単純な穴からにじみ出る乳をなめる。同じ単孔類に属する他の動物の乳腺はややへこんだ乳嚢(にゅうのう)の中にあり、これがさらに発達したものが有袋類の育児嚢である。乳管の発達は雌性ホルモン、成長ホルモン、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンなどによるが、終胞という乳汁を生産する末端部の発達にはさらに泌乳刺激ホルモンが必要である。妊娠すると雌性ホルモンが多量に分泌されて乳腺は著しく発育し、分娩(ぶんべん)直後には泌乳刺激ホルモンが増え、その作用で乳汁の分泌がおこる。乳汁の射出は、子の乳頭に対する吸引刺激が中枢に伝わり、神経葉(よう)ホルモンのオキシトシンが分泌され、これが終胞の周りの筋肉を収縮させることによりおこる。

[守 隆夫]

ヒトにおける乳腺

ヒトの場合、乳汁を分泌する皮膚腺の一種で、成熟女性に発達する。乳腺は、緻密(ちみつ)な結合組織と豊富な脂肪組織に包まれた乳腺葉の集合体である。乳腺葉は1個の乳房に15~20個あり、1個の乳腺葉からは1本の乳管が出ている。この乳管の太さは2~4ミリメートルで、各乳管は、紡錘状に広がった乳管洞を経て乳頭(乳首(ちくび))に開口する。乳管洞の直径は5~8ミリメートルである。乳腺葉はさらに乳腺小葉に分けられるが、乳腺小葉は複合胞状腺構造をもつ腺房から構成されている。腺房は腺房細胞の集合体である。この腺房は、未婚女性では腺房細胞が充満しているだけで小さく、腺腔(せんくう)も存在しないが、妊娠すると腺房細胞が大きくなり、腺房自体も肥大して腺房の中心に腺腔が広がる。妊娠7~8か月になると、腺房細胞体内に分泌顆粒(かりゅう)、脂肪小滴などがみられる。

 分娩(ぶんべん)直後の乳汁、つまり初乳は帯黄白色でタンパク質(ラクトプロテイン)に富み、多量の免疫グロブリンを含んでいる。また、妊娠末期には腺腔内にリンパ球、形質細胞などがみられ、その細胞体内には脂肪小球などが含まれている。これらを初乳小体とよぶ。しかし、産後数日たつと初乳小体も減り、脂質に富んだ乳の分泌となる。産後1か月後には乳汁の組成も一定となり、純白または淡青白色となる。腺房細胞はタンパク質と脂肪を分泌するが、乳汁の色とその成分も腺房細胞によって血液中の物質を基にして生産されたものである。乳腺の休止期には腺房は萎縮(いしゅく)し、乳腺小葉の間質結合組織が多くなる。老年期になると腺房は萎縮、消失し、結合組織にかわる。

[嶋井和世]


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百科事典マイペディア 「乳腺」の意味・わかりやすい解説

乳腺【にゅうせん】

哺乳(ほにゅう)類に特有の皮膚腺の一種で乳を分泌する。汗腺が変形したもの。カモノハシやハリモグラなどの原始的な哺乳類以外は,乳頭が形成され,そこから乳が分泌され,幼児の哺乳に適した形になる。ヒトでは乳房内に多数の乳腺葉があり,各葉の導管(乳管)は下で乳管洞をつくり,乳頭上に開口する。性的成熟とともに発達し,特に妊娠によって著しく発達して分泌を行う。男性では痕跡(こんせき)的。
→関連項目オキシトシン乳癌乳腺炎乳腺症魔乳

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乳腺」の意味・わかりやすい解説

乳腺
にゅうせん
mammary gland

乳汁を分泌する器官。 15~20の乳腺葉に分けられ,各腺葉から1本の乳管が乳頭に開口している。乳腺とこれに付属する乳頭,乳輪,表面の皮膚,乳腺周辺の脂肪や結合組織を一括して,乳房と呼ぶ。女性では思春期になると急速に乳房が発達する。妊娠すると2ヵ月頃から乳房全体がさらに発達し,乳輪は暗褐色となり,分娩後一定期間,乳腺から乳汁分泌がある。乳腺は人間の場合,通常1対であるが,腋窩から鼠径部にいたる線上に1~5対の副乳腺,副乳頭をみることもある。

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栄養・生化学辞典 「乳腺」の解説

乳腺

 乳汁を分泌する哺乳動物の腺.

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世界大百科事典(旧版)内の乳腺の言及

【乳房】より

…一般に未経産婦では乳房は円錐形に近く,乳頭が乳房の中央のあたりにあるが,経産婦では乳房が垂れ下がる傾向がある。
[乳腺mammary gland]
 乳房の主体をなす乳腺は,汗腺や脂腺のような皮膚腺の特殊化したものであって,皮下組織より深部には広がらない。乳房をつかんで動かしてみると,下層の胸の壁(大胸筋や肋骨)から離れて自由に動くのはこのためで,この滑動性が妨げられていれば乳癌の発生を疑わねばならない。…

【乳房】より

…哺乳類の乳腺を覆う膨らんだ部分で,その先端に乳頭papilla mammalがある。乳房はウシ,ヤギ,ヒツジなどの家畜では顕著であるが,野生の哺乳類では授乳期においてもあまり明らかでなく,乳頭によってその存在がわかる程度のものが多い。…

【皮膚】より

…真皮も膠原繊維束がさまざまな方向に交錯して走る厚くてじょうぶな層として発達し,その下には多量の脂肪を含む皮下組織が存在し,神経や血管の通路となっている。また,哺乳類では小汗腺,大汗腺,皮脂腺乳腺の四つの皮膚腺が出現する。小汗腺は全身に分布し,水分の多い分泌物を出して,毛とともに体温調節に重要な働きをする。…

※「乳腺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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