二元論(読み)にげんろん(英語表記)dualism

精選版 日本国語大辞典 「二元論」の意味・読み・例文・類語

にげん‐ろん【二元論】

〘名〙 (dualism の訳語)
① 一般に、全く性質の異なる二つ原理で、事物を説明する考え方
哲学で、互いに対立する二つの原理、たとえば、精神物質、悟性と感性本体現象などを立て、宇宙やその他すべてのことを、この二つの原理で説明しようとする立場。たとえばデカルトカントなどの立場。⇔一元論。〔哲学字彙(1881)〕
宗教で、天と地、闇と光、善と悪、創造者と被造物などの対立する原理で、事物を説明する立場。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「二元論」の意味・読み・例文・類語

にげん‐ろん【二元論】

異なった二つの原理で、あらゆるものを説明しようとする考え方。
哲学で、世界を相対立する二つの原理によって説明しようとする立場。精神と物質との二実体を認めたデカルト物心二元論など。→一元論多元論
宗教で、世界を光とやみ、善と悪など、相対立する二つの原理の闘争として説明する立場。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「二元論」の意味・わかりやすい解説

二元論
にげんろん
dualism

相互に還元不可能な独立した二つの実体もしくは原理を認め、そこからいっさいの事象を説明する立場。一元論および多元論に対立する。もっとも古い形態は光と闇(やみ)、天と地、善の神と悪の神などの対立を原理とする神話的、宗教的二元論にみいだされる。形而上(けいじじょう)学においては二世界説となって現れ、プラトンのイデア界と感性界、ライプニッツの可能界と現実界、カントの叡知(えいち)界と現象界などの区別がその代表例といえる。しかし、哲学史上もっとも影響力をもったのは、デカルトによる物心二元論、すなわち思惟(しい)を本性とする精神と延長を本性とする物質との実在的区別である。これによって、精神から独立した客観的自然の存在が承認され、いっさいの自然現象は延長と運動とから機械論的に説明されることになり、他方、精神(意識)は認識主体としての独自の位置を占めることとなった。すなわち、近代哲学の基本的枠組みともいうべき主観と客観との二元論が確立されたのである。しかし、物心二元論は、精神と身体との関係をいかに説明するかという難問(心身問題)に満足すべき解決を与えることができず、現在ではさまざまな形で二元論克服の方途が模索されている。

[野家啓一]

『デカルト著、落合太郎訳『方法序説』(岩波文庫)』『大森荘蔵著『物と心』(1976・東京大学出版会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「二元論」の意味・わかりやすい解説

二元論
にげんろん
dualism

異質で相互に還元不可能な2つの原理を基礎とする宗教的世界観や哲学説などのこと。 Th.ハイドが『古代ペルシア宗教史』 Historia religionis veterum Persarum (1700) で善悪2つの至高原理をもつ古代ペルシア宗教の特色を示すのに初めてこの語を用いた。ゾロアスター教は世界を光の神アフラ・マズダと暗黒の神アーリマンの闘争とみ,やがて両者は善と悪,創造者と破壊者と考えられるにいたった。マニ教に受継がれたこの思想は,クムラン写本 (→クムラン教団 ) にみられるようにユダヤ教に,さらに遠く 12~13世紀のアルビ派異端にまで影響を及ぼした。聖と俗,彼岸と此岸などの二元性はほとんどすべての宗教にみられる。哲学では C.ウォルフが精神と物体の2つの実体に一切を還元するデカルト哲学を二元論と呼んだのが最初。この型の心身二元論はプラトン,新プラトン派,ロック,偶因論者,ライプニッツらのほか,東洋でもサーンキヤ学派,ジャイナ教などにみられる。認識論的にもこれに対応する理性と感覚,神学における啓示と人間性 (道徳的局面まで含めれば信仰と理性) の二元論などがある。ほかにエンペドクレスの愛と憎しみ,アナクサゴラスの受動的実体と能動的なヌース,プラトンのイデア界と感覚的世界,アリストテレスの形相・質料論,カントの物自体と現象,中国の陰陽などが著名な二元論である。またスピノザの一元論は思惟と延長を実体の2つの属性としており,この物心平行論は相対的二元論とみることができる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「二元論」の意味・わかりやすい解説

二元論【にげんろん】

英語dualismなどの訳。多元論の一つで,一元論に対する。世界や事象を,二つの相互に独立の根本原理によって説明する立場。神話や宗教では,光と闇,天と地,善神と悪神,神と被造物など。哲学史上では,プラトンアリストテレスの形相と質料,デカルトの精神と物質,カントの理性と感性などの対立にみられる。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典 第2版 「二元論」の意味・わかりやすい解説

にげんろん【二元論 dualism】

一般に,根本的な実在を相対立する二つのものとして説く立場をいい,多元論の一種として一元論に対立する。原語は,イギリスの東洋学者ハイドThomas Hydeが《古代ペルシア人の宗教の歴史》(1700)で,善の原理と悪の原理とが永久に対立する宗教体系をこの言葉で呼んだことに始まる。その後はもっぱら宗教に関する用語としてP.ベールの《歴史批評事典》(第2版,1702)の〈ゾロアスター〉の項目,さらにライプニッツの《弁神論》第2部(1710)に受け継がれた。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

世界大百科事典内の二元論の言及

【バイシェーシカ学派】より

…この説は〈新造説〉と呼ばれ,世界の成立ちをめぐって,転変説などと対立する。転変説などは,一元論ないし二元論と表裏一体の関係にあると考えられるが,それとの対比でいえば,新造説は多元論を意味しているといえる。 この派のもう一つの,しかも重要な特徴は,あらゆるものごとを徹底的に,基体と属性,限定されるものと限定としてとらえ,その相互の関係を緻密に規定することにある。…

※「二元論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

オスプレイ

固定翼機でありながら、垂直に離着陸できるアメリカ軍の主力輸送機V-22の愛称。主翼両端についたローターとエンジン部を、水平方向から垂直方向に動かすことで、ヘリコプターのような垂直離着陸やホバリング機能...

オスプレイの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android