人形(読み)ひとがた

精選版 日本国語大辞典 「人形」の意味・読み・例文・類語

ひと‐がた【人形】

〘名〙 (「ひとかた」とも)
① 人の形。人間のすがたかたち。
有明の別(12C後)二「そのひとかたもあらずやせおとろへ給を」
※とむらい師たち(1966)〈野坂昭如〉「ヤレ紙を人形(ヒトガタ)に切って、これを火中に投じ、水子成仏祈るんや」
② 人の姿かたちをかたどったもの。にんぎょう。
肥前風土記(732‐739頃)佐嘉「下田の村の土を取りて、人形(ひとかた)・馬形を作りて」
③ 人物像。肖像
蔭凉軒日録‐永享八年(1436)六月二一日「絵乃張伯洪所図、人形也」
④ 禊(みそぎ)祈祷のときに用いるかたしろ。紙などで作り、身体を撫でて身の災を移し、水に流してやるもの。撫物(なでもの)。《季・夏》
※順集(983頃)「思ひをも恋をもせじのみそぎするひとかたなでてはてはてはしお」
身代わりの人。代理。かたしろ。
源氏(1001‐14頃)東屋「かの人かたもとめ給人にみせたてまつらばやと」
人相。人相書。
※俳諧・二息(1693)「御尋の人形にあふ身の不運」

にん‐ぎょう ‥ギャウ【人形】

〘名〙
① 木、紙、土などで人の形に作ったもの。装飾品にし、また、これを用いて演劇なども行なう。古くは信仰対象だったが、中世以後は観賞愛玩用として発達した。でく。でくのぼう。土偶。木偶。偶人。ひとがた。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
太平記(14C後)七「芥を以て人長(ひとだけ)に人形(ギャウ)を二三十作て」
② 人の形を絵にかいたもの。ひとがた。
※改邪抄(1337頃)「帰命尽十方无碍光如来をもて真宗の御本尊とあがめましましき。いはんやその余の人形においてあにかきあがめましますべきや」
③ 体を動かさない者、または自分の意志で行動できない者をたとえていう語。
※玉塵抄(1563)五五「嬰と云童稚の人を人形にして主と云て莽が天下をはからうたぞ」
④ 人形仕立て①の仕立てをした部分。八つ口。また、その仕立て方。〔随筆守貞漫稿(1837‐53)〕
⑤ 男物の長着の袂袖(たもとそで)で、袖つけ下一〇センチメートルぐらいの部分で、女物の振りにあたる部分を縫い合わせたもの。

ひと‐かたち【人形】

〘名〙 (「ひとがたち」とも) =ひとがた(人形)〔観智院本名義抄(1241)〕
※浄瑠璃・四天王最後(1661)四「ふすまをもってひとがたちにとりつくろひ」

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デジタル大辞泉 「人形」の意味・読み・例文・類語

にん‐ぎょう〔‐ギヤウ〕【人形】

木や紙、土などで人間の形をまねて作ったもの。古くは信仰の対象であったが、中世以後は愛玩・観賞用として発達。演劇にも用いられる。
自分の意志では行動できず、他人のなすがままになっている人のたとえ。
男物の長着で、袂袖たもとそでの袖付けどまりから袖下までを縫いふさいだところ。
人の形を絵にかいたもの。ひとがた。
「見るにまばゆくなって、さながら―とは思はれず」〈浮・一代女・四〉
[類語](1縫いぐるみマネキンこけし

ひと‐がた【人形】

《「ひとかた」とも》
人の形。
形代かたしろ1」に同じ。
人の姿をかたどったもの。にんぎょう。
「かの山里のわたりに、わざと寺などはなくとも、昔覚ゆる―をも作り」〈・宿木〉
人相。人相書き。
「権八が―を返せ戻せとおっしゃるは」〈伎・吾嬬鑑〉

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百科事典マイペディア 「人形」の意味・わかりやすい解説

人形【にんぎょう】

土や木で人の形に似せて作ったもの。古くは呪術(じゅじゅつ)・宗教的意味をもつものが多く,エジプト,ギリシア等に木・粘土・骨・象牙・青銅製の人形があり,日本の土偶,埴輪(はにわ)人物像,形代(かたしろ)等もその例。中世以後装飾品,玩具(がんぐ)として発達,16世紀には貴族の間で〈人形の家〉が流行,のちフランス人形など各国特有の人形ができた。日本では,江戸時代以後信仰や年中行事と結びついて雛(ひな)人形武者人形あるいは郷土玩具が発達した。観賞用として京人形博多人形,子どもの遊戯用として姉様(あねさま)ややまと人形などがある。

人形【ひとがた】

形代

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世界大百科事典 第2版 「人形」の意味・わかりやすい解説

にんぎょう【人形】

人形は,人間の生活する地域には必ずといってよいほど存在し,その表現法や材料に相違があって巧拙さまざまではあるが,人間の姿・形を作り出そうとしなかった民族はいない。また人形が作られる目的も今日のようにもっぱら児童の愛玩用や玩具として作られたのではなく,むしろその大多数は呪術宗教的な目的や習俗に関連して作られたもので,人形の起源もこれに由来すると考えられている。その呪術宗教的な目的も,形代(かたしろ)としての人形,逃げた霊魂を捕らえる捕霊のための人形,悪霊を防いだり豊作や幸運を招くための人形,神体や呪力をもつ人形,のろいや出産,葬式などの儀礼や祭礼に用いられる人形など一様ではない。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人形」の意味・わかりやすい解説

人形
にんぎょう
doll

人をかたどった宗教,儀礼,遊楽などの目的をもつ道具。もとは宗教的な意味をもち,旧石器時代から各地で作られた。目的としては,悪霊を防ぐ,死者の魂をとどめておく,人身供犠の代用など,各種の祈願の願望を付託して作られた。のちに遊戯具,観賞具としての側面が強まって表現も高度となり,形式も写実的なもの,表現性の強いものなど各様の発展をみせた。日本でも本来は生活に根ざした呪術信仰的なものとして用いられたが,現在,玩具または観賞品となっている。用材は粘土,木,紙,陶磁,金属,織物,天然植物に加えて,近年は化学合成材料も使われている。

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デジタル大辞泉プラス 「人形」の解説

人形

《Lalka》ポーランドの作家、ボレスワフ・プルス(本名:アレクサンデル・グウォヴァツキ)による小説。19世紀半ばのワルシャワを舞台に、没落しつつある貴族の令嬢に恋をした商人の姿を描く。1887年から1989年にかけて新聞連載されたのち、1890年に刊行。日本では関口時正による邦訳版が株式会社未知谷刊「ポーランド文学古典叢書」の第7巻として2017年に刊行され、第69回読売文学賞の研究・翻訳賞、第4回日本翻訳大賞を受賞している。

人形(おもちゃ)

日本のポピュラー音楽。歌は女性演歌歌手、香西(こうざい)かおり。1997年発売。作詞:荒木とよひさ、作曲:浜圭介。

人形(ギニョル)

佐藤ラギによる小説。2002年、第3回ホラーサスペンス大賞にて大賞受賞。2003年刊行。SMをテーマとする。

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普及版 字通 「人形」の読み・字形・画数・意味

【人形】じんけい

でく。

字通「人」の項目を見る

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世界大百科事典内の人形の言及

【形代】より

…人,器財,動物などを模してそれに代わるべきものを作り,種々の呪術を行う道具。人形,馬・牛・鳥・鶏・犬形,刀・剣・鉾・鏃形,車・輿・舟形,男茎形など多種にわたり,素材も紙,布,木,鉄,スズ,銀,金,土製と多様である。飛鳥時代中国から伝わり藤原宮期に確立し,奈良・平安時代に盛行し後代につづく。…

【玩具】より


【玩具の起源】
 現世人類がこの地球上に現れたころに,はたして玩具として位置づけられるものがあったかどうかは予測しがたいが,玩具に発展しうるものがすでに存在していたことははっきりしている。現存する最古の玩具は,古代エジプト時代の墳墓から出土しているものが多いが,その中には,人形,動物のミニチュア,舟のミニチュア,ボール,こま,がらがらなどがある。また,現代になっても,近代文明のいきわたっていない民族の間で親しまれている玩具を探ってみると,アメリカ・インディアンの鹿皮のボール,紀元前1500年ぐらいから続いているといわれるメキシカン・ボール,ニューギニアの木の葉を利用して作った帆舟,北アメリカのホピ・インディアンが儀式が終わると子どもに与えるという人形,アフリカのコーサ族のトウモロコシの穂軸で作られた人形などがある。…

【郷土玩具】より

…日本全国それぞれの土地で古くから自給自足的につくられ,主として子どもたちの遊び道具として親しまれてきた伝承的な人形玩具類。そのほとんどが江戸時代から明治期にかけて生まれたもので,いずれもその土地の生活風俗などに結びついている。…

【人形劇】より

…人形を操って演じる劇。人形芝居ともいう。…

【福助】より

…縁起人形の一種。童顔の大頭で裃をつけて座った人形。…

【民間療法】より

…いぼの民間療法は多く,いぼとなにか他のものとの間に箸を1本渡し,〈いぼいぼこの橋渡れ〉というと,いぼは橋を渡って他に移るので治るなどという呪法もある。これは病気にかからぬまじないとして紙の人形(にんぎよう∥ひとがた)で身をなで,これを川に流す厄払いと同じく病気を穢れ(けがれ)の一種とみて,これを他に移動させて自分の病を治そうとする接触療法の一つである。この系統の考えは現在まで,風邪をひいたとき他人にうつせば全快するなどという思考法として尾をひいている。…

【贖物】より

…6月,12月の晦日に行われる恒例の大祓(おおはらえ)の儀には,〈御贖(みあがもの)〉として〈鉄人像,金装横刀,五色薄絁,糸,安芸木綿,凡木綿,麻,庸布,御衣,袴,被,鍬,米,酒,鰒,堅魚,腊,海藻,塩,水盆,坩坏,匏,柏,小竹〉を使用したことが《延喜式》に見えている。一条兼良の《公事根源》(応永年間撰)は〈あが物は身のわざはひをあがふ物をいふ心なり,人形を作て,身の代とする事おなじ心なるにや〉と述べ,罪穢を移して河海に流しやる人形(ひとがた)と贖物との関係を指摘している。なお,刑罰の科料としての贖物は刑部省に収められた。…

【形代】より

…人,器財,動物などを模してそれに代わるべきものを作り,種々の呪術を行う道具。人形,馬・牛・鳥・鶏・犬形,刀・剣・鉾・鏃形,車・輿・舟形,男茎形など多種にわたり,素材も紙,布,木,鉄,スズ,銀,金,土製と多様である。飛鳥時代中国から伝わり藤原宮期に確立し,奈良・平安時代に盛行し後代につづく。…

【流しびな(流し雛)】より

…3月3日に雛人形を川に流し送る行事。雛祭の人形は,それで身をなでて穢れをはらったあと流し去る人形(ひとがた)(形代(かたしろ))という呪具の系統をひくものとされるが,現在の各地に残る流し雛はそのような古い心意を伝える行事と思われる。…

【人形】より

…人形は,人間の生活する地域には必ずといってよいほど存在し,その表現法や材料に相違があって巧拙さまざまではあるが,人間の姿・形を作り出そうとしなかった民族はいない。また人形が作られる目的も今日のようにもっぱら児童の愛玩用や玩具として作られたのではなく,むしろその大多数は呪術宗教的な目的や習俗に関連して作られたもので,人形の起源もこれに由来すると考えられている。…

【雛祭】より

…3月3日の(三月節供)の行事。この日の行事は雛人形を飾り祭るものと,山遊び磯遊びとに大別できる。雛人形を飾り祭るのは,中国伝来の3月上巳(じようし)の行事と日本に古くからある人形(ひとがた)によって身をはらおうとする考え,および貴族の幼女の人形遊びとが結合して,室町時代ごろに一応の形を整えたといわれる。…

【船霊】より

…船霊は多くの場合船大工が管掌し,新造した船の船下しの直前に船にこめるのが普通である。船霊の神体とされるものは,男女一対の人形,銭12文,さいころ,あるいは女の毛髪であることが多く,これに化粧品,櫛,かんざし,はさみなどの女の持物や五穀を加えることもある。また神社や寺のお札をはりつけるだけのところもある。…

【民間療法】より

…いぼの民間療法は多く,いぼとなにか他のものとの間に箸を1本渡し,〈いぼいぼこの橋渡れ〉というと,いぼは橋を渡って他に移るので治るなどという呪法もある。これは病気にかからぬまじないとして紙の人形(にんぎよう∥ひとがた)で身をなで,これを川に流す厄払いと同じく病気を穢れ(けがれ)の一種とみて,これを他に移動させて自分の病を治そうとする接触療法の一つである。この系統の考えは現在まで,風邪をひいたとき他人にうつせば全快するなどという思考法として尾をひいている。…

※「人形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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