人と人との日常的なつながりを指す用語。人間が社会生活を営むかぎり,当人にとって他者との関係は,自己の存在と切り離すことのできない不可分なものといわざるをえない。つまり,ある人が世に存在するということと,その当人の織り成す対人連関とは,同時的に成立し,したがってまた,そのような連関性の下でのみ当人が存在する,とみなさなくてはならない。そのことは,ある人の生誕と同時に親子関係が始まり,以後その親子であるという関係はどんなことがあっても断ち切れない,という事実からも明らかであろう。大きくなってから知り合った人との関係も,たとえそれが継続していなくても,当人の人柄の一部としてその形跡をとどめているに違いない。日本語で〈ひと〉のことを,たんに〈人〉とは書かず,しばしば〈間〉という字をつけ加えて〈人間〉と表記するのは,〈人と人との間〉という関係性を考慮に入れて〈ひと〉という存在をとらえているからである。少なくとも日本語の表現に関するかぎり,〈人間関係〉という語の〈関係〉という部分は蛇足であって,〈じんかん〉とも読みうる〈人間〉だけで,すでに人的な紐帯(ちゆうたい)の意味をもっているといえよう。
この〈人間関係〉という用語は,実は第2次大戦後,ヒューマン・リレーションズhuman relationsの翻訳語として導入されたものである。それはもともと,産業社会学の有名なホーソーン実験Hawthorne experimentで見いだされた,職場における全人格的な触れ合いの重要性を意味する概念であった。とくに第三者にはみえないようなインフォーマルな関係が生産性に大きく関与していることが明らかにされ,それ以後,企業における人間関係管理が重視されるようになった(人間関係論)。しかしこの場合,注意しなければならないことは,〈人間関係〉が操作可能な対象物だと考えられている事実である。それは,個別的な行動主体としての〈ひと〉の存在そのものと,そうした主体が生み出し主体間を連結する〈人間関係〉を,はっきり切り離して扱おうとする欧米人の理念を反映している。しかし,日本人を含む東洋人は,伝統的に〈ひと〉自体と〈ひと〉間の関係性とを分離することなく一元的なものとして理解してきた。〈間柄〉と〈人柄〉とは不可分的に結びついているのである。〈人柄〉は〈間柄〉を反映し,また〈間柄〉は〈人柄〉の重要な構成要因となる。さらに欧米人は,〈人間関係〉というものを,それぞれに自由で独立した個人が自己の利得を獲得する手段,すなわち交換メディアとして意識する傾向が大きいのに対し,日本人などでは,〈人間関係〉はそれ自体が本質的な値打ちをもつものとされ,その成立に関しても,目に見えない人的因果連関ネットワークとしての〈縁〉が作用すると考えることが多い。血縁や地縁,さらに所属する組織における〈社縁〉〈職縁〉が,日本人の〈人間関係〉の生成基盤だとされる。
執筆者:浜口 恵俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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