精選版 日本国語大辞典 「以て」の意味・読み・例文・類語
もっ‐て【以て】
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)八「善を以て衆生を化し、正法をもちて国を治め」
② 原因・理由を示す。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一「時に仏の威力を以て、其の室忽然に広博厳浄になりぬ」
③ 動作の行なわれる時を示す。
④ 単なる強めとして用いる。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇「水を以て其の身に灑ぐ」
※咄本・鹿の巻筆(1686)二「障子屋が子砂糖売、いかにももって似合わしき」
⑤ 動作・作用の行なわれる際の状態を示す。
※青年(1910‐11)〈森鴎外〉五「優等の成績を以(モッ)て卒業しながら」
[二] 接続助詞的用法。ながら。
※虎明本狂言・川上(室町末‐近世初)「男は、はいもってにげ入、かくのことくもいたし候」
[語誌](1)中古の和文資料では「以て」の用例は乏しく、「心もて」の形をとるものがほとんどであり、他に「言ひもて行く」のような例が見出せる程度である。ただし、格助詞「を」を欠いており、漢文訓読における「以て」とは異なると見られる。
(2)この語は漢文訓読から生じた語法を中心とし、多くが「をもって」の形の助詞的用法であるが、変体漢文の語法に影響したと見られるものもある。例えば、「ヲ以テ…シム(ス・サス)」は「以…令…」と関係し、副詞の下に「以」を置く「甚以神妙」〔御堂関白記‐長保六年(一〇〇四)二月五日裏書〕のような例は、変体漢文において極めて顕著な「以」の用法である。
(3)「以て」と書かれたもののよみは「もちて」「もって」「もて」いずれとも決しがたいので、ここで扱った。
(2)この語は漢文訓読から生じた語法を中心とし、多くが「をもって」の形の助詞的用法であるが、変体漢文の語法に影響したと見られるものもある。例えば、「ヲ以テ…シム(ス・サス)」は「以…令…」と関係し、副詞の下に「以」を置く「甚以神妙」〔御堂関白記‐長保六年(一〇〇四)二月五日裏書〕のような例は、変体漢文において極めて顕著な「以」の用法である。
(3)「以て」と書かれたもののよみは「もちて」「もって」「もて」いずれとも決しがたいので、ここで扱った。
も‐て【以て】
[1] 〘連語〙 (「もちて(以━)」の変化したもの) 動詞「持つ」の本来の意味が薄れて、助詞のように用いられる。
[一] 格助詞的用法。「をもて」の形でも用いられる。
① 手段・方法・材料などを示す。
② 単なる強めとして用いる。
※平家(13C前)四「南京・北京ともにもて如来の弟子たり」
[二] 接続助詞的用法。動詞の連用形をうけて、下の動詞に続く。下の動詞は「ゆく」の類に限られる。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「この御子のおよずけもておはする御かたち、心ばへ、ありがたく珍しきまで見え給ふを」
※平家(13C前)三「風は中御門京極よりおこって、〈略〉四五町十町吹きもてゆき」
[2] 〘接続〙 (「もって」の促音の無表記から) =もって(以━)(二)
※大唐西域記長寛元年点(1163)一「遂に伽藍を建て式(モ)て美迹を旌(あら)はし」
[3] 〘接頭〙 動詞の上に付いて微妙なニュアンスを与え、または意味を強める。「もてさわぐ」「もてつどう」「もてはなる」など。
※源氏(1001‐14頃)若紫「なべてならずもてひがみたる事、好み給ふ御心なれば」
[補注]「以て」と表記されたもののよみは「もちて」「もって」「もて」のいずれとも決めがたいので、便宜上「もって(以━)」の項で扱った。
もち‐て【以て】
〘連語〙 (動詞「もつ(持)」の連用形に接続助詞「て」の付いたもの) 動詞本来の意味が次第に薄れて、格助詞的に用いる。「をもちて」の形で用いられることが多い。
① 手段・方法・材料などを表わす。…で(もって)。…によって。→補注(1)。
※続日本紀‐天平元年(729)八月二四日・宣命「浄き明き心を持氐(もちテ)波波刀比(ははとひ)供へ奉るを」
② 原因・理由を表わす。→補注(2)。
※竹取(9C末‐10C初)「何をもちてとかく申すべき」
③ 単なる強めとして用いられる。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六「世尊是の経王の威神力を以(モチ)ての故に、是の時に隣の敵に更に異し怨有りて而も来て侵擾せしむ」
[補注](1)①の例は動詞として訳すこともできる点で、未だ完全に助詞化しているとはいいにくいが、格助詞「で」とほとんど等価値である。
(2)②の例は、①の意としても理解できるが、抽象化が一層進んでいると思われる。
(2)②の例は、①の意としても理解できるが、抽象化が一層進んでいると思われる。
もう‐て【以て】
〘連語〙 (「もって」の変化したもの) =もって(以━)(一)(二)
※虎寛本狂言・縄綯(室町末‐近世初)「私は持病の脚気が御ざって、こなたへさへ能々(やうやう)とはいもうて参りまして御ざる」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報