会社外の独立した会計専門家の立場から、株式会社の計算書類とその附属明細書等について会計監査を行う存在。会社法(平成17年法律第86号)上、「役員」ではないが(会社法396条1項。以下の条文番号は、とくに補足のない限りすべて会社法をさす)、「役員等」に含まれる(423条1項)。一般に「機関」と解するかどうか見解が分かれる。監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社において設置が義務づけられる(327条5項)。また、大会社では設置が強制され(328条1項・2項)、中小会社では、規模にかかわらず、定款の定めにより任意に設置できる(326条2項)。会計監査人設置会社では、一定の場合、計算書類等を取締役会で確定することができ(439条)、剰余金の配当等を取締役会で決定する旨を定款で定めることができる(459条1項4号)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならない(337条1項)。会計監査人に選任された監査法人は、その社員のなかから会計監査人の職務を行うべき者を選定し(後掲の欠格事由がある者は選定できない)、これを株式会社に通知しなければならない(同条2項)。
次に掲げる者は、会計監査人となることができない(欠格事由)。すなわち、(1)公認会計士法の規定により、計算書類について監査をすることができない者、(2)株式会社の子会社もしくはその取締役、会計参与、監査役もしくは執行役から公認会計士もしくは監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者またはその配偶者、(3)監査法人でその社員の半数以上が(2)に掲げる者であるものは、法定の欠格者である(同条3項)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会計監査人は、株主総会の決議によって選任される(329条1項)。員数に規制はない。任期は1年であるが、別段の決議がなければ再任されたものとみなされる(338条1項・2項)。監査役設置会社では、株主総会に提出する会計監査人の選任・解任・不再任に関する議案の内容は、監査役(監査役会)が「決定」する(344条。指名委員会等設置会社では監査委員会が、監査等委員会設置会社では監査等委員会が決定する。404条2項2号、399条の2第3項2号)。会計監査人についても、会社法制定時から、登記事項とされている(911条3項19号)。
会計監査人と会社との関係は委任の規定に従うので(330条)、会計監査人はいつでも辞任することができ、死亡・破産・成年被後見が終任事由となり、その他、任期満了・解任・資格喪失・会社の解散によっても終任となる。株主総会は、普通決議によって、いつでも会計監査人を解任することができ(339条1項)、監査役(監査役会、監査等委員会、監査委員会)は、一定の場合に会計監査人を解任することができる(340条)。また、会計監査人の報酬の決定には、監査役等の同意が必要である(399条)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会計監査人は、会社の計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を監査し(396条1項前段)、計算書類等の監査について、法務省令で定めるところにより、会計監査報告を作成しなければならない(396条1項後段、会社法施行規則110条、会社計算規則126条)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会計監査人は、いつでも、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧および謄写をし、取締役(指名委員会等設置会社では執行役・取締役)・会計参与・支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる(396条2項)。また、その職務を行うため必要があるときは、子会社に対して会計に関する報告を求め、また、会社またはその子会社の業務および財産の状況の調査をすることができる(同条3項。ただし、その子会社は、正当な理由があるときは、報告または調査を拒むことができる=同条4項)。
なお、会計監査人は、その職務を行うにあたっては、欠格事由のある者を使用することはできない(同条5項)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会計監査人は職務を行うについて会社に対して善管注意義務を負い(330条、民法644条)、会社法上、以下の義務を負う。
第一は、不正行為の報告義務である。会計監査人は、その職務を行うに際して取締役の職務の執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく、これを監査役(監査役会設置会社では監査役会)に報告しなければならない(397条1項・3項、金融商品取引法193条の3。なお、監査等委員会設置会社では監査等委員会あてに、指名委員会等設置会社では執行役・取締役の職務執行について監査委員会あてに報告する=397条4項・5項)。
第二は、監査役等からの報告徴収への対応義務である。監査役は、その職務を行うため必要があるときは、会計監査人に対し、その監査に関する報告を求めることができ(同条2項)、会計監査人はこれに対応しなければならない(報告徴収権限は、監査等委員会設置会社では、監査等委員会が選定した監査等委員にあり、指名委員会等設置会社では、監査委員会が選定した監査委員会の委員にある=同条4項・5項)。
第三は、総会での意見陳述義務である。監査する計算書類等が法令または定款に適合するかどうかにつき、監査役(監査役会設置会社では監査役会または監査役、監査等委員会設置会社では監査等委員会または監査等委員、指名委員会等設置会社では監査委員会またはその委員)と意見を異にするときは、会計監査人(監査法人では職務を行うべき社員)は、定時株主総会に出席して意見を述べることができ(398条1項)、定時株主総会において出席を求める決議があったときは、会計監査人は、定時株主総会に出席して意見を述べなければならない(同条2項)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会計監査人は、会社外の独立した存在であるが、会社法上、「役員等」に含まれ(423条1項)、会社に対する責任を負う(423条)とともに、第三者に対する責任(429条)を負うことが規定されている。会社に対する責任については、株主代表訴訟の対象となり(847条)、責任の一部免除・軽減の制度(社外取締役と同様。425~427条)の適用がある。その他、金融商品取引法(24条の4、22条1項、21条1項3号)や民法に基づき、不法行為責任・債務不履行責任を追及される余地がある。これまで会計監査人(監査法人・公認会計士)に損害賠償責任が認められた事例も少なくなく、企業不祥事の発生における公認会計士等の責任追及が社会的関心を集めている。
[福原紀彦 2017年12月12日]
『鳥山恭一・福原紀彦・甘利公人・山本爲三郎・布井千博著『会社法』第2次改訂版(2015・学陽書房)』▽『江頭憲治郎著『株式会社法』第6版(2015・有斐閣)』▽『神田秀樹著『法律学講座双書 会社法』第19版(2017・弘文堂)』▽『福原紀彦著『企業法要綱3 企業組織法――会社法等』(2017・文眞堂)』
一定規模以上の株式会社において,経理の正確さを調査しそれについての意見を公表する任務を持つ,会計の専門家。1974年の商法改正によって制度化された。それ以前にも,証券取引法の適用を受ける会社は,貸借対照表などの財務諸表について,公認会計士による監査を受けることが要求されていた。しかし,それは有価証券報告書など大蔵大臣に提出する書類に含まれる財務諸表についてであり,定時株主総会で承認した後のものを公認会計士が監査していた。定時総会に提出する貸借対照表などの計算書類については,監査役が監査するだけであった。1965年に大型倒産が続発して社会問題となり,監査制度を強化する必要に迫られた。その対策は74年にようやく実現し,同年の商法改正の一環として制定された〈株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律〉(商法特例法,1974公布)が,資本金5億円以上の株式会社の計算書類につき,定時総会提出前に会計監査人の監査を要求することになった。同法は一部の会社につきこの要件を暫定的に免除していたが,81年改正によりその暫定措置を廃止するとともに,負債総額200億円以上の株式会社にも適用することにした(商法特例法2条)。会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならない。監査法人は合名会社に似た組織であり,5名以上必要なその社員はすべて公認会計士である(公認会計士法34条の4)。会計監査人を選任・解任するのは株主総会であるが,その議案の提出については監査役会の同意が必要である(商法特例法3,6条)。任期は1年だが自動更新されうる。会計監査人の監査報告書には主として,計算書類が適法に作成されているか否かについての意見を記載する(13条)。監査報告書に虚偽の記載をした会計監査人は,民事責任を問われ,罰則の適用を受ける(9,10条,30条5号)。
→会計監査
執筆者:龍田 節
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報
…取締役の業務執行についてのコントロールは,合議体の取締役会が業務執行を決定する過程で自律的に行うべきものとされたのである(自己監査制度)。ところが,取締役会の自己監査制度は日本には十分に根づかず,74年には監査役が業務監査機関として復活し,さらに一定規模以上の大会社については,新たに会計監査人による会計の監査を必要とするものとされた(〈株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律〉)。この特例法によって,実質的には,株式会社は監査等の面で大会社と小会社とに分化されたことになる。…
※「会計監査人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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