精選版 日本国語大辞典 「伝奇」の意味・読み・例文・類語
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文芸用語としての伝奇は、中国唐代の小説の呼称として用いられたのがその初めである。
唐代の小説も、その前半期のものには、志怪(しかい)とよばれる六朝(りくちょう)小説の筋書きに多少手を加えたようなものが多かったが、安禄山(あんろくざん)の乱を経て中唐の時期に至ると、急速に成長して、六朝志怪と異なる唐独自の小説のタイプを形成した。
伝奇ということばは、普通、唐代小説の総称として用いられるが、その中心は、中唐期の士人の創作である。その作法も初めのうちこそ六朝志怪の筋や枠組みを借りながら、独自の創意工夫によってモチーフを表出してゆくものが多かったが、しだいに六朝志怪の怪異の世界を離れ、現実的な人間の社会に根ざした小説が著されるようになってくる。陳玄祐(ちんげんゆう)の『離魂記(りこんき)』、沈既済(しんきせい)の『枕中記(ちんちゅうき)』『任氏伝(じんしでん)』、白行簡(はくこうかん)の『李娃伝(りあでん)』、陳鴻(ちんこう)の『長恨歌伝(ちょうごんかでん)』、元稹(げんしん)の『鶯鶯伝(おうおうでん)』などはその代表作である。伝奇は宋(そう)代以降にも引き継がれたが、唐の文人的に洗練された作風は廃れて、市民階層の勃興(ぼっこう)とともにしだいに盛んになってきた通俗小説や演劇など、白話体(話しことばのスタイル)で著される文芸作品が、志怪や伝奇のような文言(文語体)小説にとってかわって、文芸の中心と目されるようになる。そうした中国文学界内部の力関係の変化と相まって、通俗小説や戯曲のなかには、唐代伝奇に素材を得てそれを当世風に焼き直す作品が多くみられるようにもなってくる。そのような風潮のなかにあって、伝奇という呼称の使用範囲にも変化が現れ、中国南方におこり明(みん)代に盛んになる戯文(げぶん)とよばれる戯曲の別称ともなった。それに対して、唐代伝奇のような小説を伝奇小説とよんで区別することもある。小説の呼称としての伝奇は、非現実的な幻想的あるいは空想的内容をもつ点は西欧のロマンに似て、それよりも短編である。
日本で伝奇の世界を描いた小説は、近世の読本(よみほん)である。曲亭馬琴(きょくていばきん)の『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』や『南総里見八犬伝』が代表作である。
[高橋 稔]
『前野直彬訳『中国古典文学全集6 六朝・唐・宋小説集』(1959・平凡社)』▽『前野直彬編・訳『六朝・唐・宋小説選』(1968・平凡社)』▽『前野直彬編・訳『唐代伝奇集1・2』(平凡社・東洋文庫)』
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… この流れは,次の唐代になると,人間や人生の多様性や,そこから示唆される屈折した問題意識へと収斂(しゆうれん)してゆき,それぞれの作家が独自の趣向と文体を駆使した作品を作りだした。これらは〈伝奇〉と呼ばれ,中国の小説史に新しいページを拓いたが,その〈奇〉とは異次元の事がらではなくて,現実の世界から発掘された意外な要素,平穏な常識では律しきれぬ事がらをいう。また一方で唐の中ごろから,都市の盛り場で語り物が口演され始めた。…
…ただし,その分け方は明確さを欠き,いくつかの解釈が可能であるが,〈小説〉〈説経〉〈講史書〉の3家は,どの解釈によっても共通する。 小説は一名〈銀字児〉ともいい,市井のさまざまな物語を語る短編の話で,内容によって,さらに煙粉(恋愛物),霊怪,伝奇,公案(裁判物),鉄騎児(軍記物)などに細分される。宋・元代の小説の種本とおぼしい《酔翁談録》には,当時の小説の題目107種が列挙されており,また明代の《清平山堂話本》や《三言》は,宋・元代の小説の話本をもとに改作したものである。…
…後者は貴族たちの逸話を集め,短い記述の中で人物の個性を浮き彫りにする。どちらも歴史の文学から派生したものであったが,やがて前者が虚構の文学の主流となり,次の時代の〈伝奇〉へとつながる。
[四六文と文学理論の発展]
《史記》や《漢書》は純粋の散文で書かれたが,辞賦の発展に伴って対句の技巧はますますひろがり,魏・晋以後,対句だけで組み立てた文体が一般化する。…
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