すべての学問と同様,位置天文学も天文学の他分野との間に明確な境界や定義があるわけではない。学問の進歩に伴い内容や対象も流動的に変化し,この用語も便宜上天文学のある分野を指すに過ぎない。もっとも広くいえば,天体(地球,人工衛星を含む)の位置・運動を研究する天文学の一分野ということになる。これでは漠然としすぎるので,現在どのような方面を研究するか,おもなものを述べる。
(1)基本座標系の確立 天体の位置・運動の記述の基本となる宇宙に固定した座標系の軸方向を定めること。赤道座標系がこのため用いられるが,その具体的表現のため恒星位置や固有運動系を確立すること,さらに多くの銀河をもとに基準方向を定める方法などを研究。
(2)地球の運動 地球はわれわれの住む天体であり,天文観測の立脚地である。ゆえに自転(極運動,自転速度の変動),公転,歳差・章動の研究がある。これらは天体位置・運動の研究に不可欠な情報である。これらは逆に天体位置・運動から明らかにされる。とくに歳差の研究は前述(1)と関連し,赤道座標系を基本座標系として用いるとき重要である。また時刻系の問題も研究される。地球運動研究は地球物理学・測地学とも密接に関連する。
(3)天体暦の計算 引力則と力学の法則に基づき,月,惑星の位置・運動を計算する。単なる計算技術ではなく天体力学による計算理論,計算の基礎となる天文定数,惑星などの質量の決定などの研究が重要課題となる。さらに重要な問題として,計算結果と観測とを比較してニュートン力学や引力則の当否や限界,相対論の当否などを考察することなどが含まれる。
(4)恒星の位置(視差を含む)と固有運動の決定 (1)(2)においてすでにそれぞれの問題との関連にふれた。これらはさらに天体物理学の研究や銀河系の構造・力学・進化などの研究の基本資料となる。
以上,いくつかの代表的研究分野について述べた。みられるように互いに有機的に連係し,位置天文学は総合的な大体系を作り,天文学他分野とも密接に関連する。いうまでもなく位置天文学用の観測装置・方法の研究も重要な項目で,また球面天文学は位置天文学の基礎学問として含まれる。なお,惑星,すい星などの軌道決定論も位置天文学の一分野で,さらに初めに述べた広い意味からみると天体力学(自然天体のみならず人工天体も含めて)も位置天文学の巨大な基礎分野とみることができる。応用面として測地学,測量学,航海天文学への寄与が大きい。
執筆者:大脇 直明
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