低気圧(読み)ていきあつ

精選版 日本国語大辞典 「低気圧」の意味・読み・例文・類語

てい‐きあつ【低気圧】

〘名〙
① 大気中で周囲より気圧の低い部分。天気図上では、風が中心に向かって、北半球では反時計回り南半球では時計回りに渦(うず)を巻いて吹きこんでいる閉じた等圧線で囲まれた部分。ふつう天候は不安定になる。熱帯低気圧温帯低気圧大別。⇔高気圧
※不如帰(1898‐99)〈徳富蘆花〉上「南支那海の低気圧(テイキアツ)は岐阜愛知に洪水を起し」
② よくない変動が起こる前の形勢不穏な状態。また、人の機嫌の悪いさまのたとえ。
※くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉二「格別際立った衝突(いざこざ)なしに何時となく家庭に低気圧が生じて来た」

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デジタル大辞泉 「低気圧」の意味・読み・例文・類語

てい‐きあつ【低気圧】

周囲よりも気圧が低いこと。また、その領域天気図上では、閉じた等圧線に囲まれた、楕円形または円形の低圧域をさす。周囲から風が吹き込み、吹き込んだ空気上昇気流となるため、一般に天気が悪い。温帯低気圧熱帯低気圧とがある。→高気圧こうきあつ
人の機嫌が悪いこと、また、穏やかでない気配が感じられることのたとえ。「このところ彼は低気圧らしい」
[類語]台風野分き熱帯低気圧ハリケーン気圧高気圧温帯低気圧移動性高気圧気圧配置気圧の尾根気圧の谷西高東低南高北低圧力

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「低気圧」の意味・わかりやすい解説

低気圧
ていきあつ

天気図上で閉じた等圧線(等高線)で囲まれた、周囲よりも気圧(高度)が相対的に低い領域。学術用語としてはcyclone, depression, lowがあてられるが、サイクロンはインド洋に発生する、発達した熱帯低気圧をさすことばでもある。一定の気圧(高度)より低いものを低気圧とよぶわけではない。前線を伴うものと伴わないものがあり、伴うものには、温帯および寒帯で発生する温帯低気圧がある。また、伴わないものには、熱帯で発生する熱帯低気圧、局所的に熱せられてできる熱的低気圧、山脈などの風下にできる地形性低気圧、竜巻(たつまき)などがある。このほか、切離低気圧とよばれる、上層の偏西風帯の中でブロッキング現象によってできる寒冷な低気圧もある。しかし、普通、低気圧というと温帯低気圧をさすことが多い。

 低気圧の強さは、中心の気圧(または中心の高度)で表す。地上天気図での中心気圧は、季節によって変わるが、中緯度の場合は、960から1020ヘクトパスカルぐらいの値をとる。

 低気圧内は、周囲より気圧が低いため、四方から空気が吹き込む。このときに空気は、地球の自転の影響でまっすぐに低気圧の中心に向かうことができずに、渦を巻いて中心に向かう。したがって、低気圧の風は、北半球では反時計回り、南半球では時計回りの循環となる。四方から吹き込んだ空気は、中心付近で上昇して対流圏上部に運ばれ、そこから外へ吹き出す。低気圧を包む空気の総重量が、周囲より相対的に少ないということは、下層で流入する空気量より多くの空気が上層で流出していることを示している。

 低気圧を気温の垂直構造から分けると、低気圧は、下層が周囲より冷たい空気からなり、上層ではますます顕著な低気圧となる寒冷低気圧と、下層が周囲より暖かい空気からなり、上層になるほど弱くなって十分な高さでは低気圧は認められなくなる温暖低気圧の二つになる。

 温帯低気圧は、偏西風帯にあって西へ進むときは、地上低気圧は上層に向かって西方へ傾いて上層の気圧の谷や低気圧と重なっている。これに対し熱帯低気圧は、通常、垂直方向にまっすぐ上層の低気圧と重なっている。また、熱的低気圧や地形性低気圧は、地上付近の現象で、上層の気圧の谷とも重なっていない。

[饒村 曜]

温帯低気圧と天気

低気圧の中心付近の上昇気流は、雲をつくり、雨を降らせるので、低気圧内では一般に天気が悪く、風雨が強い。また一般に、低気圧を取り巻く等圧線(等高線)の間隔が小さいときほど、すなわち気圧の傾きが急なときほど、吹き込む風は強いということができる。

 温帯低気圧は、一般に、進行する前方に温暖前線、後方に寒冷前線をもっているので、低気圧の接近に伴って温暖前線による上層の薄い雲が出て、しだいに近づくにつれ中層雲、さらに下層雲と雲量を増し、一様な降り方の雨が降りだす。中心付近を通過するときは、風雨がもっとも強くなる。低気圧の中心が東に去るにつれて寒冷前線の影響を受け、積雲系の雲によるにわか雨や雷雨がおこるが、寒冷前線の通過後は天気は急速に回復し、気温が下がる。

 東シナ海方面から西日本や東日本の太平洋側を北東に進む低気圧のコースは、日本付近でもっとも頻度の高いコースで、日本の比較的広い範囲で雨が降る。1、2月にこのコースをとる低気圧は、しばしば太平洋沿岸部で雪を降らせて交通障害をもたらす。また、春一番を吹かせる低気圧のように、日本海を発達した低気圧が北東へ進むときには、日本付近は南風が強くなり、日本海側の地方ではフェーン現象がおこり、大火災が発生しやすくなる。

 低気圧の速度は季節によって異なるが、日本付近では冬と春、秋は時速40キロメートル、夏は30キロメートルくらいが普通であるが、なかには100キロメートルくらいのものもある。

 温帯低気圧の雨は主として前線面に沿って空気が上昇するためにおこるので、暖気のはい上がる速度が大きいほど、暖気に含まれる水蒸気量が多いほど雨量が多くなる。したがって、低気圧に伴う大雨は暖候期に多い。

[饒村 曜]

低気圧モデル

1922年にノルウェーの気象学者J・A・B・ビャークネスらのノルウェー学派は、典型的な温帯低気圧は、寒暖両気団の境である前線上に発生し、重い寒気が下方に、軽い暖気が上方に移動する際に開放される位置エネルギーを運動エネルギーに変えながら発達して、最後には寒気の渦巻になるということをモデル化した。このモデルは後年、高層観測ができるようになって若干の修正がなされたが、現在でも天気図解析の基本となっている。

[饒村 曜]

温帯低気圧の一生

前線上に発生した温帯低気圧は、条件がそろえば、発達して最盛期に達し、ついで衰弱・消滅する。その流れは、次の(1)~(4)のとおりである。

(1)温帯低気圧は、寒気と暖気の境目である前線上の小さな擾乱(じょうらん)として現れる。このような低気圧はしだいに振幅が増大する。

(2)低気圧が発達しながら東進するにつれ、寒冷前線は温暖前線より速く進むため、暖域がしだいに扇形状に変わってゆく。温帯低気圧は、寒気が暖気の下に潜り込もうとする位置エネルギーが運動エネルギーに変わることによって発達するため、前線面における寒気と暖気の温度差が大きいほど発達する。

(3)寒冷前線が温暖前線に追い付くと、寒冷前線と温暖前線の交点は低気圧の中心と分離する。この状態の低気圧を閉塞(へいそく)した低気圧といい、閉塞の結果、寒冷前線と温暖前線が一つになった前線を閉塞前線という。また、寒冷、温暖、閉塞の三つの前線が交わる点を閉塞点という。

(4)低気圧は衰弱期に向かうが、閉塞点に新しい低気圧が発生し、また閉塞するという経過をたどることがある。閉塞した低気圧はしだいに強さを減じ、それに伴って風雨も弱まり、ついには弱い渦となって消滅する。

[饒村 曜]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「低気圧」の意味・わかりやすい解説

低気圧
ていきあつ
cyclone

周囲より気圧が低く,閉じた等圧線で囲まれたところ。低気圧内にはまわりから風が吹き込む。この風は地球自転の影響で,北半球では反時計方向に回りながら内側に向かって吹き込み,南半球では時計回りとなる。低気圧内部に吹き込んだ風は中心付近に集まり,上昇気流となる。上昇気流は断熱冷却によって雲をつくり,雨や雪を降らせる。低気圧は等圧線によって示され,楕円形または円形の幾本かの等圧線に囲まれており,中心に近いほど気圧が低い。この気圧の最も低いところを低気圧の中心と呼ぶ。一般に,低気圧に吹き込む風は気圧傾度が大きいほど,すなわち等圧線の間隔が小さいほど強くなる。低気圧には主として温帯低気圧熱帯低気圧がある。温帯低気圧は寒帯前線帯に発生するもので,通常は単に低気圧と呼ばれることが多い。寒帯前線上に発生した低気圧は,東に移動しながら発達期,最盛期,消滅という過程をたどる。熱帯低気圧は,主として熱帯の海上に発生する。北西太平洋の台風,メキシコ湾のハリケーン,インド洋のサイクロンなどはいずれも熱帯低気圧である。(→高気圧

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知恵蔵 「低気圧」の解説

低気圧

天気図上で気圧が周囲より低く、閉じた等圧線で囲まれた領域。低気圧圏内では上昇気流があるため、雲ができ雨や雪が降りやすい。閉じなくても周囲より気圧が低い気圧の谷は、似た性質。低気圧には、熱帯や低緯度地方で発生する熱帯低気圧、中緯度・高緯度で発生する温帯低気圧がある。単に低気圧といえば温帯低気圧を指す。東シナ海低気圧は、東シナ海で発生し本州南岸を発達しながら北東に進んで(南岸低気圧)、太平洋側に春の大雪などをもたらす。日本海で発達する日本海低気圧は、春一番のような強い南寄りの風を吹かせる。台風並みに発達する低気圧で中心気圧が24時間に約24hPa(ヘクトパスカル)以上下降するものを、爆弾低気圧と呼ぶ。特に、5月頃、日本近海で異常に発達する低気圧をメイストームと呼ぶ。二つ玉低気圧は、本州を南北に挟んで日本海と太平洋沿岸を2つの低気圧が並んで通り、強い風雨をもたらす。寒冷低気圧は、前線がなく上空に寒気があり、局地的に雷や突風、強雨などをもたらす。

(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)

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パラグライダー用語辞典 「低気圧」の解説

低気圧

英語ではlow pressureと表し、気圧の低い所をいう。気圧が低い為に、地上の周りから、空気(体気)を吸い込んでいる。コリオリの力が働き、渦巻状になる為、北半球では左に、南半球では右に回転しながら吸い込んでいる。高気圧と高気圧の間に気圧の谷として発生する事もあれば、低気圧どうしがまとまり一つになり、ハリケーンや台風として現れる事もある。そのメカニズムは私達がサーマルと呼んでいるものと良く似ており、サーマルの巨大なものと考えてよい。しかし、発生範囲がサーマルと比べ、大きすぎかつ広過ぎる為、パラグライダーが掴む事が出来る上昇気流ではない。下から上に気流が有る為に雲や雨を発生させ、天気を悪くして我々フライヤーにとって有りがたくない存在である。関連用語  高気圧

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百科事典マイペディア 「低気圧」の意味・わかりやすい解説

低気圧【ていきあつ】

周囲より気圧の低い領域。相対的な表現なので何hPa以下という基準値はない。北半球では反時計回り,南半球では時計回りに周囲から吹き込む風系。吹き込んでくる空気は上昇気流となるので低気圧圏内では一般に天気が悪い。上空には下層における周囲からの空気の集積量を上回る空気の発散があり,それにより空気量の欠損が地表面の気圧の降下を導く。温帯低気圧熱帯低気圧のほかに,昼間陸地が暖められるためにできる地形性の低気圧などがある。

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世界大百科事典 第2版 「低気圧」の意味・わかりやすい解説

ていきあつ【低気圧 cyclone】

低気圧の単純な定義は気圧分布にもとづくもので,周囲に比べて最も気圧の低いところを中心にして,ほぼ楕円形の等圧線でかこまれた領域をさしている。発達した低気圧ほど,この楕円形の等圧線の数が多い。低気圧は一般的にはあらしの現象をさすもので,人々はあらしの際の風向きの変化,雲や雨の現れ方,気温の変化,気圧の大きな低下などを知った。こうした要素的な事柄は天気図によって総合され,特徴的な三次元構造をもつ数千kmにおよぶ一つの組織として低気圧の概念ができている。

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