生活の本拠のこと(民法21条)。私法上では債務の履行場所,裁判管轄の基準となるとともに,公法上の選挙のための選挙人名簿の登録,所得税等の税金の納税地の基準ともなる。人は生活して行くうえで一定の場所と密接なつながりを持っている。一定の住宅に居住し,そこで日常生活を営み,また,仕事をしたり,仕事に出かけたりする。そのような場所が生活の本拠たる住所である。あらたに市町村区域内に住所を定めたとき,または同一市町村区域内で住所を変更したときには,14日以内にそのことを市町村長に届け出て,住民票を作成し,または住民票の住所の変更を届け出なければならない。これを怠ると5万円以下の過料に処せられる(住民基本台帳法22条,23条,44条)。
したがって,多くの場合には,住民票に記載されている住所と生活の本拠たる住所とが一致しているといえよう。しかし,ときとして住民票上の住所と生活の本拠たる住所とがくい違う場合もある。たとえば,単身赴任のサラリーマン,別居中の夫婦,家出・蒸発した者などの場合がそうである。これらの場合には,民法上はもっぱら現実の生活の場所が法律上の住所と考えられるけれども,公法上の権利義務については住民票上の住所を基準として処理されることが多い。また,週の前半は東京で,週の後半は大阪で生活するような場合や,学生のように学期中は下宿生活し,休暇中は帰省する場合のように,複数の場所が生活の本拠となっている場合には,その双方が住所であると考えられている。1ヵ所に定住することなく,簡易宿泊所を生活の中心としているような場合や建設工事現場の宿泊施設に滞在しているような場合には,そのような場所を民法では居所と称し,住所と同等の取扱いをしている(民法22条)。本籍地は,ときとして住所と一致する場合もあるが,本来は夫婦およびこれと氏を共にする子の戸籍上の所在地であって(戸籍法6条),生活の本拠たる住所とは異なる。
なお,住所は自然人だけではなく,法人についても存在する。民法上の法人の住所は主たる事務所の所在地であり(民法50条),株式会社その他の会社にあっては本店所在地がその住所である(商法54条等)。また,外国人との取引に関してどの国の法律が適用されるかの基準として当事者の住所が意味を持つ場合もある(法例28条)。
執筆者:栗田 哲男
常居所habitual residenceとは社会生活を行ううえで人が現実に通常居住していると認められる場所のことであって,常住居所とか〈平常の居所〉とかいわれることもある。日本では1964年に〈遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約〉(1961年,ハーグ)を批准し,〈遺言の方式の準拠法に関する法律〉を制定したときに,初めて導入されたものである(同法2条4号。なお法例30条参照)。
ある場所に常居所があるかないかは,その場所に相当の期間にわたって常時居住していたという事実,もしくは常時居住するであろうと認めるに足りる事実のみによって定まる。たんなる短期滞在の事実では足りず,また常時居住の意図・意思も規準とはならない。西ヨーロッパでは今世紀の初めごろから,ハーグ国際私法統一会議などですでに導入されようとしていたものであるが,その背景には次のような事情がある。すなわち,(1)各国で〈住所〉を取得する要件がまちまちであり,結果として住所がいずれの国にもなかったり逆に2ヵ国以上に住所があるとされたりする不統一と混乱を生じ,国際的な関係の処理に不都合が強く感じられていたこと,(2)ある場所を住所と定める個人の真意は確認することが必ずしも容易でないばかりか,その認定にも国際的な統一を欠き客観性を確保しがたいこと,(3)人の身分や能力,親族・相続関係の準拠法を定めるにあたって国籍を規準とするか住所を規準とするかそれぞれの国の基本的な立場に避けがたく解消しがたい対立があり,その間に統一的な規準を設けることが困難であることなどである。
執筆者:秌場 準一
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各人の生活の本拠をいう(民法22条)。法律には、住所を基準として法律関係を決めるものが多い。たとえば、不在および失踪(しっそう)の標準(同法25条、30条)、債務履行地決定の標準(民法484条、商法516条)、相続開始地(民法883条)、手形行為の場所(手形法2条3項など)、裁判管轄の標準(民事訴訟法4条など)、選挙の場所(公職選挙法20条など)などである。住所を設定し、あるいは変更するにあたっては、定住の事実のほかに、定住の意思が必要かどうかが争われている。これを必要とする説を主観説といい、不要とする説を客観説というが、客観説が有力である。また、住所は単一でなければならないか(単一説)、複数あってもよいか(複数説)が問題とされているが、複数説が有力になってきている。なお、公法上の住所(公職選挙法、税法など)はかならずしも私法上の住所と一致する必要はなく、独自に法律の趣旨に従って決められればよい、と解するのが最近の考え方である。なお、居所は人の生活の本拠ではないが、ある程度の期間継続して居住する場所であり、住所がない場合や、あっても不明な場合には、居所が住所とみなされる(民法23条1項)。日本に住所をもたない者についても同様である(同法23条2項)。
[淡路剛久]
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