ギリシア語のシュステマsystēmaに由来する英語システムsystemなどの訳語。システムはほかに〈組織〉〈系〉などとも訳されるが,特に〈体系〉と訳される場合には,〈理論体系〉〈体系的思想〉などの用法から知られるように,通常は〈知識の組織〉を意味する。近代ヨーロッパ哲学には,真の知は必ずその根拠を有し,したがってすべての知はその根拠づけの連関をたどって究極の根拠にまでさかのぼる一つの組織のうちにあり,知は必然的に〈体系知〉となるべきだ,という考え方があった。ドイツ観念論の時代にWissenschaft(学)という言葉,しかももっぱら単数形のこの言葉が愛用されたが,それはこの言葉がWissen(知)に集合を示す後綴-schaftが付されており,〈組織化された知〉つまり〈体系知〉を指すのに好都合だったからである。この時代には,哲学はいっさいの断片的な知識を一つの体系知に組織するWissenschaftであるべきだと考えられていたのである。近代のこうした考え方の背後には,人間の知識を織りなす観念ideaは,神の知性のうちにあって同時的全体として必然的に連関し合っている観念に分与しており,したがって人間が知性を正しく働かせるならば,人間には継起的にしか与えられない諸観念も矛盾なく一つの全体に結びつけられるはずだという神学思想がひそんでいる。しかも,そうした知識の可能的全体は,神の観念にもとづいて創造された世界の存在を完全におおいうるはずなのである。人間のもつ諸能力のうち,特に知にこうした特権性を認めるところに,西洋哲学の特質がある。
もっとも,西洋においても知の表現がつねに体系の形をとったわけではない。古代ギリシアのプラトンやアリストテレスにあっては,知の伝達は対話や書簡の形式でおこなわれたし,古代末期のアウグスティヌスにあっては自伝体や異教徒論駁の形式がとられ,中世スコラ哲学にあっては,注釈,論駁,質疑応答の形式がとられるのが通常であった。トマス・アクイナスの《神学大全Summa theologiae》のsummaにしても,けっして体系を意味するものではなく,初心者に教義内容を教授するための配列を意味するものでしかない。その意味では,〈体系〉は近代ヨーロッパに特有の知のあり方だと言ってよい。なお,一概には言えないにしても,一般に東洋においては,真理はすでにいにしえの聖賢の言葉のうちに顕現していると考えられ,したがって後代の知はそれら聖賢の古言の訓詁注釈という形をとることが多い。当然ここでは知の体系的性格は問題になることはない。知の体系性を主張する西洋の知の概念はやはり特殊なものであろう。
→システム
執筆者:木田 元
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
一つの統一的全体を構成する、科学的あるいは哲学的命題の集合をいう。体系の統一は、今日では対象となる実在の構造との一致照応としてよりも、多くの場合、それを構成する命題相互の内的整合という側面から考察される。といっても、このことは、体系が実在と無関係な、人間の知的、主観的構成物であることを意味するわけではなく、むしろ、それが、実在の領野を初めて開示し構成するモデルとして、われわれと対象の接点に存立の場所をもつことを意味する。あらゆる知的体系は、多くつねに体系でないもの、あるいはまた別の体系の可能性に向かって開かれており、絶えず内的整合を問われると同時に、外に向かって開かれているのである。
[坂部 恵]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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