精選版 日本国語大辞典 「余」の意味・読み・例文・類語
あまり【余】
① 必要な分を満たした残り。残余。余分。超過分。
※徒然草(1331頃)一二三「なすべき事おほし。そのあまりの暇、幾(いくばく)ならず」
② (上に行動や気持などを表わす連体修飾句が付いて) 行動や気持などが普通の程度を超えること。過度になった結果。
※土左(935頃)承平五年二月五日「よろこびのあまりに、あるわらはのよめる歌」
③ 割り算で、割り切れないで出た残り。割り切れるときは、「0」を余りとする。
④ ある限度に達するまでのゆとり、余地。使わない、または達しないで残っている部分。
⑤ 酢をいう忌み詞。発酵の過程でいったん甘くなることからいうともする。
※七十一番職人歌合(1500頃か)七一番「さもこそは名におふ秋の夜半ならめあまり澄たる月の影哉〈略〉あまりといひて、すとは聞えたるを、かさねてすとよめるやいかが」
[2] 〘形動〙 必要、期待以上であるさま。程度のはなはだしいさま。あんまり。
※平家(13C前)九「余りのいぶせさに、目をふさいでぞおとしける」
※たけくらべ(1895‐96)〈樋口一葉〉一三「余(アマ)りな人とこみ上るほど思ひに迫れど」
[3] 〘副〙
① 物事の程度が、必要、期待以上に及ぶさまにいう。度を過ぎて。非常に。あんまり。
※枕(10C終)二七「あまり心よしと人にしられぬる人」
② (下に打消の語を伴って) それほど(…ではない)。たいして。あんまり。
※枕(10C終)三一「いとあまりむつまじうもあらぬまらうど」
[4] 〘接尾〙
① 数量を表わすことばに付いて、それよりもいくらか多い意を表わす。
※源氏(1001‐14頃)帚木「ななとせあまりがほどに」
② 一〇以上の数を表わす場合に、数詞と数詞の間に入れて用いる。
※仏足石歌(753頃)「みそち阿麻利(アマリ)ふたつのかたち」
あま・す【余】
〘他サ五(四)〙
① 余分なものとして残す。
※古事記(712)下・歌謡「御諸(みもろ)に 築くや玉垣 つき阿麻斯(アマシ) 誰(た)にかも寄らむ 神の宮人(みやひと)」
② ある範囲からもらす。のがす。
※平治(1220頃か)中「但し大将は、もとの重盛ぞ。已前こそもらすとも、今度においてはあますまじ」
③ 除外する。
(イ) (主として受身の形で用い) もてあます。
※方丈記(1212)「世にあまされて、期(ご)する所なきものは愁へながら止まり居り」
(ロ) 除外してあとに残す。置きざりにする。捨ててかえりみない。
※俳諧・ひさご(1690)「染て憂(うき)木綿袷のねずみ色〈里東〉 撰あまされて寒きあけぼの〈探志〉」
④ ある範囲からあふれ出させる。
(イ) あふれさせる。こぼす。とび出させる。
※保元(1220頃か)中「馬は屏風をたふすごとく、がはとたふるれば、主は前へぞあまされける」
(ロ) 言葉などを必要以上に用いる。また、歌句が字余りになるようにする。
※能因本枕(10C終)四「下衆の言葉に、かならず文字あましたる」
⑤ ある限度に達するまでのゆとり、余地を残す。
※虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一七「一筋を前後に余(アマ)して、深い谷の底を鉄軌(レエル)が通る」
⑥ 囲碁用語。
(イ) 初めに確実な地をとっておいて、あとは相手の攻めを受け流して勢力を役立たせないように打つ。
(ロ) 終局して互いの地を数えあったとき、相手より何目か勝っている。残す。
⑦ (動詞の連用形に付いて補助動詞的に用いる) …しおおせないで残す。十分…してもし尽くせない。
※四河入海(17C前)一五「或はいねをかりあます者もあり」
あま・る【余】
〘自ラ五(四)〙
① 数量がある基準を超える。
※常陸風土記(717‐724頃)行方「囲み、大きなる竹の如く、長さ一丈に余(あまり)き」
② 才能、勢い、気持などが、ある範囲からあふれ出る。ある程度以上にはなはだしくなる。
※古事記(712)下・歌謡「大君を 島に放(はふ)らば 船(ふな)阿麻理(アマリ) い帰り来むぞ 我が畳ゆめ」
※古今(905‐914)仮名序「在原業平は、その心あまりて詞たらず」
③ 能力を超える。分に過ぎる。
※伊勢物語(10C前)八七「田舎人の歌にては、あまれりや、たらずや」
※門(1910)〈夏目漱石〉一三「分別に余(アマ)って当惑してゐた」
④ ある基準を超えて余分が出る。必要を満たして残りが生じる。
※枕(10C終)六「げすの詞には、かならず文字あまりたり」
⑤ 割り算で、割り切れないで残りが出る。
⑥ ある程度に達するまでのゆとり、余地がある。使わない、到達しない部分があとに残る。
※昇天(1923)〈十一谷義三郎〉六「蟇口をとり出した。中には払ひに余るほど這入ってる筈だ」
⑦ (②から転じて) 子供などがさわぐ。ふざけすぎる。
※菊池俗言考(1854)「あまるな 余勿(あまるな)なるへし若年の者なとの元気溢れて悪(わろび)事なとするを阿万留と云は元気の余ると云事なるへし」
よ【余】
[1] 〘名〙
① それ以外。そのほか。その他。別。ほか。他。
※令義解(718)職員「伯一人。〈掌三神祇祭祀、祝部。〈略〉惣判二官事一。余長官判レ事准レ此〉」
※申楽談儀(1430)序「只、人、一向の風斗を得て、十体にわたる所を知らで、よを嫌ふ」
② あまったもの。あとに残ったもの。あまり。残り。余分(よぶん)。残余(ざんよ)。
※浮世草子・近代艷隠者(1686)四「独(ひとり)の老人、小鰯(しらす)といふ魚を荷(にな)ひて売ありきしが、余(ヨの)所の魚を皆人にくれて帰りし」 〔孟子‐離婁・下〕
③ 数量を表わす語に格助詞「の」の付いたものを受けて、その数量より少し上まわっていることを表わす。
※浮世草子・新色五巻書(1698)四「半年の余(ヨ)海上にて渡世を暮らせば」
[2] 〘語素〙 数を表わす語に付いて、その数より少し多いことを表わす語。おおよその数をあげて端数を漠然という場合に用いる。あまり。有余(ゆうよ)。
※竹取(9C末‐10C初)「玉の木を作りつかうまつりし事、五こくをたちて、千余日に力をつくしたる事すくなからず」
あんまり【余】
[1] 〘形動〙 =あまり(余)(二)
※浄瑠璃・曾根崎心中(1703)「私がってんいたさぬを、らうぼをたらしたたきつけ、あんまりななされやう」
[2] 〘副〙
① =あまり(余)(三)①
※大乗院寺社雑事記‐文明一一年(1479)一一月朔日紙背「あんまり御まきれ申候事、一大事の事にて候」
※狂言記・柿売(1660)「あんまりあまふて物がいはれませぬ」
② =あまり(余)(三)②
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉八「おめへだってあんまりものしりぶられもしねへぜ」
まり【余】
〘接尾〙 (「あまり(余)(四)」の変化したもの) 数量を表わすことばについて、それよりいくらか多い意を表わす。また、一〇以上の数をかぞえる時、一〇の位あるいは一〇〇の位などの数と、一の位、一〇の位などその下のけたの数との間に入れて用いる。
※続日本後紀‐承和一二年(845)正月乙卯「七つぎの御代にまわへる百箇(ももち)万利(マリ)十の翁(おきな)の舞たてまつる」
あまり‐し・い【余】
〘形口〙 あまり
し 〘形シク〙 (名詞「あまり(余)」を形容詞に活用させた語) あんまりだ。ひどすぎる。

※上杉家文書‐(年月日未詳)(室町)直江兼続自筆書状「御心元なく候はは、いかやうのきしゃうに而も、かき指上可申候、乍推参、あまりしき御諚共候」
あまりに【余】
⇒あまり(余)(二)
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