傾く(読み)カタムク

デジタル大辞泉 「傾く」の意味・読み・例文・類語

かた‐む・く【傾く】

《「かたぶく」の音変化。「片向く」の意》
[動カ五(四)]
物が斜めになる。かしぐ。「波を受けて船が大きく―・く」「地震で家が―・く」
太陽や月が沈みかける。「日が西に―・く」
勢いが衰える。ふるわなくなって、存在が危うくなる。「家運が―・く」
考えや気持ちがしだいにその方へかたよる。また、その傾向を示す。「賛成に―・く」「心が彼女に―・く」
[動カ下二]かたむける」の文語形
[類語](1傾ぐ/(2更ける沈む落ちる暮れる暮れ掛かる暮れなずむ釣瓶落とし/(3落ち目減退後退下火退潮尻すぼまり廃頽下り坂左前不振じり貧どか貧先細り下がり目低落廃る廃れる寂れる衰える尻下がり尻切れとんぼ竜頭蛇尾孤城落日末期的衰残弱体化衰弱衰微衰退頓挫衰え地に落ちる没落落ちぶれるうらぶれる成り下がる零落凋落ちょうらく転落落魄らくはく淪落堕落末路斜陽成れの果て見る影もない朽ちる消沈衰亡たそがれ失速焼きが回る耄碌もうろくぽんこつ火の車終末大詰め尾羽うち枯らす世も末尻すぼみ

かた‐ぶ・く【傾く】

[動カ四]
かたむく1」に同じ。
大匠おほたくみ拙劣をぢなみこそすみ―・けれ」〈・下・歌謡一〇六〉
かたむく2」に同じ。
「山のに月―・けば」〈・三六二三〉
かたむく3」に同じ。
みかどかしこしと申せども、臣下のあまたにしてかたぶけ奉るときは―・き給ふものなり」〈大鏡・後一条院〉
かたむく4」に同じ。
「禅の宗旨に―・かせ給ひて」〈太平記・四〉
《首がかたむく状態になるというところから》不審に思う。疑う。また、非難する。
「このたくみが申すことは何事ぞと―・きをり」〈竹取
[動カ下二]
かたむける1」に同じ。
からかさをさしたるに、…横さまに雪を吹きかくれば、少し―・けて」〈・二四七〉
器を斜めにして中の物を出す。
「わたつ海をみな―・けて洗ふとも」〈風雅釈教
かたむける3」に同じ。
「帝を―・け奉らむと構ふる罪によりて」〈栄花・月の宴〉
かたむける4」に同じ。
「なにとか、なにとか、と耳を―・けて問ふに」〈・九〇〉
かたむける5」に同じ。
白楽天の作をば東坡先生は―・けけるとかや」〈著聞集・四〉

かぶ・く【傾く】

[動カ四]《「かぶ」は頭の意》
かたむく。頭をかしげる。
「―・けるは稲のほの字ぞ京上﨟/城次」〈貝おほひ
勝手な振る舞いをする。奇抜な身なりをする。
「―・きたるなりばかりを好み」〈伽・猫のさうし
歌舞伎を演じる。→歌舞伎かぶき
「いざや―・かん」〈伽・歌舞伎草子

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「傾く」の意味・読み・例文・類語

かた‐ぶ・く【傾】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 カ行四段活用 〙
    1. 斜めになる。一方へ向き寄る。かしぐ。かたぐ。
      1. [初出の実例]「大宮の 彼(をと)つ鰭手(はたで)(すみ)加多夫祁(カタブケ)り」(出典:古事記(712)下・歌謡)
      2. 「唐葵、日の影にしたがひてかたぶくこそ、草木といふべくもあらぬ心なれ」(出典:枕草子(10C終)六六)
    2. 太陽や月が沈みかける。
      1. [初出の実例]「山の端に月可多夫気(カタブケ)ばいざりするあまのともしび沖になづさふ」(出典:万葉集(8C後)一五・三六二三)
      2. 「あばらなる板敷に月のかたぶくまでふせりて」(出典:伊勢物語(10C前)四)
    3. 盛んな状態から次第に衰えの状態になる。国、家、年齢、運命などについていう。
      1. [初出の実例]「又天地の共(むた)長く遠くかはるまじき常典(つねののり)と立て賜へる食国(をすくに)の法も傾(かたぶく)事無く、動くことなく渡り去(ゆ)かむとなも」(出典:続日本紀‐慶雲四年(707)七月一七日・宣命)
      2. 「いとど、年もかたぶきまかるままに、世中もひさしくみて侍れば」(出典:愚管抄(1220)三)
    4. ( 首が傾く、というところから ) 不思議に思う。また、あれこれと考える。
      1. [初出の実例]「竹取の翁、この匠(たくみ)らが申すことは何事ぞ、とかたぶきをり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    5. 物事の状態や人の気持、考えなどがある方向にかたよる。あるものにひきつけられる。ある傾向を帯びる。
      1. [初出の実例]「此の君禅の宗旨に傾(カタフ)かせ給ひて」(出典:太平記(14C後)四)
      2. 「欲心には誰もかたぶきて」(出典:読本・春雨物語(1808)宮木が塚)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 カ行四段活用 〙 非難する。
    1. [初出の実例]「金葉集といふなこそ撰者のえらべるにや。かたぶく人はんべるとかや」(出典:今鏡(1170)二)
  3. [ 3 ] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙かたぶける(傾)

傾くの補助注記

中世以後、これから転じた「かたむく」という形が併用され、現代では後者が優勢である。


かた‐む・く【傾】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 カ行五(四) 〙 ( 「かたぶく」の変化した語 )
    1. 斜めになる。一方へ向き寄る。かしぐ。かたぐ。
      1. [初出の実例]「此の花の房が、雨にうるをいて、次第にをもく成て、ふさが、かたむきたやうな也」(出典:中華若木詩抄(1520頃)上)
    2. 太陽や月が沈みかける。
      1. [初出の実例]「夕陽西にかたむけば」(出典:平家物語(13C前)灌頂)
    3. 盛んな状態から次第に衰えの状態になる。国、家、年齢、運命などについていう。
      1. [初出の実例]「その時都かたむいて幽王終(つひ)にほろびにき」(出典:平家物語(13C前)二)
      2. 「イマワ スデニ ヨワイモ catamuite(カタムイテ)、ハモ ヌケ」(出典:天草本伊曾保(1593)老いた犬の事)
    4. 物事の状態や人の気持、考えなどが、ある方向にかたよる。ある傾向を帯びる。
      1. [初出の実例]「アクニ catamuqu(カタムク)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      2. 「思へば思ふ程、此問題は手の附けられぬものだと云ふ意見に傾(カタム)いて」(出典:かのやうに(1912)〈森鴎外〉)
    5. 時間が過ぎる。
      1. [初出の実例]「八ツがかたむいた抔(など)云八時過のこと也」(出典:浪花聞書(1819頃))
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙かたむける(傾)

かぶ・く【傾】

  1. 〘 自動詞 カ行四段活用 〙 ( 「かぶ」は頭の意 )
  2. 頭がかたむく。特に、稲が実って穂が傾く。かたぶく。
    1. [初出の実例]「雨ふれば門田の稲ぞしどろなる心のままにかぶき渡りて」(出典:行宗集(1140頃))
  3. 首をかしげて考える。
    1. [初出の実例]「彼者よひこされ候事者、能を可相企との内存かとかふき申候」(出典:島津家文書‐慶長六年(1601)一二月五日・島津惟新(義弘)書状)
  4. 勝手気ままなふるまいをする。派手な身なりや、異様な、または好色めいた言動をする。
    1. [初出の実例]「其上彼者かぶいたる武辺なれば、敵弱きには勝利を得る事も之有るべし」(出典:末森記(1598))
  5. 歌舞伎踊りを演ずる。
    1. [初出の実例]「かふき女名字号出来島、隼人召連被下けるが、去月比、引連令上洛、衣装已下きらびやかにしてかふきける」(出典:当代記(1615頃か)四)
  6. 茶の風味を味わって、その品種を飲み分ける。かぶきちゃを行なう。〔日葡辞書(1603‐04)〕

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