仏道に入ること,出家剃髪することをいい,また,剃髪して仏道に入った人のことをいう。本来は,入道は出家と同じ意味であり,また,出家の後,禅定(ぜんじよう)に入ったり阿羅漢の境地に達したりした場合をさすことばでもあったが,日本ではとくに,皇族や三位以上の貴族など高貴な人が仏門に入ること,またそうした人に対する敬称として入道ということばが用いられた。《源氏物語》などには入道の帝,入道の后の宮,入道の大臣といった表現がしばしばみられる。僧侶の社会で中心となり,寺院組織の中核となる者は,幼いときに寺に入り,成年に達するころに正式に僧侶となるのが一般であったから,元服していったん俗世間に出た後に出家して僧体となった人々は,僧侶の中でも別に考えられ,そのなかで身分の高い人々を入道と呼んだのである。一般に皇子の中で親王の身分を認められた人が出家した場合,その人を入道親王と呼び,さきに出家していた皇子が親王の宣下を受けた場合には法親王と呼んで,両者を区別したことにもそのことがあらわれている。中世に入ると,一度世俗で活動した後に出家する人々が増加し,武家として活動した後に出家の姿になった者も入道と呼ばれるようになった。滝口入道をはじめ軍記物の中には入道の武士が数多く登場する。そしてさらに出家の姿をしていながら,俗人と同じような生活をしている人々も入道と呼ばれるようになった。
古典の世界で,入道と呼ばれる人物として最も名高いのは藤原道長であろう。道長は晩年の8年間を出家の身で過ごしたが,その間の法成寺造営などのことを記した諸書は,多く道長を入道と呼んでいる。しかし,入道の名でだれもがすぐに思い浮かべるのは《平家物語》の平清盛に違いない。清盛は51歳で入道してからも六波羅政権の中心として活動し,専権の限りを尽くして平氏一門の急速な没落の原因をつくった。こうした道長・清盛像が背景となり,中世も後期になると入道ということばは,巨大で強そうなもの,いたけだかで事ごとに横車を押すおうへいなものを連想させるようになった。入道雲はその例であり,ゴンドウクジラを入道海豚(いるか),ヒキガエルを入道蛙,巨大なタコやイカを蛸入道,入道烏賊と呼ぶのも同様である。また土着の信仰に根ざす生活をしていた日本人は,仏教に対して畏敬の念を持ちながらも,忌避の感情を捨てきれず,村落の外から入ってくる僧侶を異形(いぎよう)の者として畏怖の念を抱いていたので,そうした感情が複合して,入道ということばは,種々の妖怪と結びつけられるようになった。あいきょうもある小僧・小坊主に対して大入道は妖怪変化の王であり,見越(みこし)入道のように,仰ぎ見ればどこまでも大きくなっていく怪物などが語り伝えられた。入道は強大であるが,どこかうさんくさく得体の知れないものと感じられているが,それは日本人の仏教に対する感情の深層の反映でもあろう。また,入道の称を,百人一首の作者の中で最も長い名の法性寺入道前関白太政大臣,つまり藤原忠通をさすことばとして使うことがある。
執筆者:大隅 和雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
世俗を捨てて仏道に入ることをいう。出家と同意。このような人を入道人、入道者というが、省略して道人(どうにん)とか入道ともいわれる。また、日本では、寺に入り僧となった人を出家というのに対し、在家のまま剃髪(ていはつ)染衣し、仏道を求める人を入道ということが多く、敬称として用いられている。転じて、坊主(ぼうず)頭の人、坊主頭の妖怪(ようかい)をもいう。
[由木義文]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新