律の条文のうち,主として儒教的見地から道徳上の教えに違反する罪を集めて,それを謀反(むへん)(反をはかる),謀大逆(大逆をはかる),謀叛(むほん)(叛をはかる),悪逆,不道,大不敬,不孝,不義の8項目に分類し(表参照),それに特別な法的効果を付与した規定。したがって八虐に当たる罪に対する刑罰がすべて重いとは限らない。日本律の八虐は,唐律の十悪を模したものであるが,十悪の不睦に当たる罪の大半を不道に移し,また十悪の内乱に当たる罪の一部を不孝に加えて,唐律の不睦,内乱を削って八虐としたものである。八虐の法的効果は,八虐の罪を犯すと,六議(ろくぎ)に当たる者,高級官吏,およびそれらの親族に許される議・請・減の特典が剝奪されること,有位者は除名に処せられること,八虐による死罪は,老親の扶養の問題を顧慮されることなく刑を執行されること,また悪逆以上による死罪は,時節にかかわらず直ちに執行されること,恩赦にあっても,悪逆はゆるされず,謀反,大逆はなお近流に処せられること等である。
執筆者:小林 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大宝(たいほう)・養老(ようろう)二律の名例律(みょうれいりつ)に規定された八つの大罪。唐律を模し、その十悪のうち不睦(ふぼく)・内乱を整理し8項とした。(1)謀反(むへん)(「国家」すなわち天皇を害することを謀る罪)、(2)謀大逆(ぼうだいぎゃく)(山陵または皇居を毀(こぼ)つことを謀る罪)、(3)謀叛(むほん)(内乱または外患を謀る罪)、(4)悪逆(祖父母・父母を殴り殺そうと謀り、伯叔父(はくしゅくふ)・姑(こ)〈父の姉妹〉などを殺す罪)、(5)不道(一家の死罪にあたらない者3人を殺すなどの罪)、(6)大不敬(だいふきょう)(大社を毀ち、天皇の御物を盗み、天皇を誹謗(ひぼう)し、詔使(しょうし)の命に従わないなどの罪)、(7)不孝(ふきょう)(祖父母・父母を告訴し、または詛(のろ)い罵(ののし)るなどの罪)、(8)不義(帳内(ちょうない)・資人(しじん)が主人を殺し、本国の守または恩師などを殺し、夫の喪中に再婚するなどの罪)、である。悪逆以下は別に規定される犯罪のうち、とくに名教を損ずるものをあげたものである。総括すれば、律令(りつりょう)国家の秩序維持に重要なものを八虐と称したのである。八虐を犯した者は議請減(ぎしょうげん)・贖(しょく)の特典を失うし、また常赦(じょうしゃ)にあっても赦されなかった。なお、「謀る」は未遂または2人以上の共謀を意味する。
[石井良助]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
国家や儒教倫理にそむくものとして,律で最も重い犯罪とされた八つの刑目。日本律の母法唐律では十悪とよんだが,大宝律以来,唐律の不睦・内乱を除いて,謀反(むへん)・謀大逆(むだいぎゃく)・謀叛(むほん)・悪逆・不道・大不敬(だいふきょう)・不孝(ふきょう)・不義を八虐と名づけた(名例律八虐条)。このうち悪逆・不道・不孝など儒教の親族倫理にそむく犯罪は,日本にそれにみあう親族構造と倫理がないため,事実上空文に近かった。また平安末期までに社会通念として謀反・大逆・謀叛の区別もなくなり,反逆行為一般を「むほん」とよぶようになったため,八虐の語は,以後近世まで律令法以外の世界では「むほん」と同義語になった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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