精選版 日本国語大辞典 「内」の意味・読み・例文・類語
うち【内】
[1] 〘名〙
※保元(1220頃か)下「外には三国の難あり、内には姦臣あつまれり」
② 囲みおおわれた内部。奥まったところ。外から見えない部分。
(イ) 表面、外部でないほうを広くいう語。
※古事記(712)上「是に出でむ所を知らざる間に鼠来て云ひけらく、内(うち)は富良富良(ほらほら)」
(ロ) 御簾(みす)、局(つぼね)などの内部。
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「うちよりかはらけ出ださせ給ふとて」
(ハ) 家、屋敷の内部。
※隆信集(1204頃)詞書「ひとつうちなれど、ふみに書きつづけていひつかはしたるを」
③ 一定時間の間。
(イ) 一続きの時間。また、それに含まれるある時。
※万葉(8C後)一九・四一七四「春の裏(うち)の楽しき終(をへ)は梅の花手折りをきつつ遊ぶにあるべし」
(ロ) (「現(うつ)」に同じかという) 現世という(限られた)時間。生きている間。現世。
※万葉(8C後)五・八九七「たまきはる 内(うち)の限りは 平けく 安くもあらむを」
※土左(935頃)承平五年二月七日「くやしがるうちに、よるになりて」
※宇津保(970‐999頃)吹上上「年廿歳よりうちの人十人」
※方丈記(1212)「高さは七尺がうちなり」
⑤ 複数のものの中。ある種類に属する人。また、ものごと。
※宇津保(970‐999頃)嵯峨院「己れをばそのうちに入れられぬ」
⑥ 人の精神、心理、気持。心の中。胸のうち。
※万葉(8C後)一九・四一五四「いきどほる 心の宇知(ウチ)を 思ひ延べ うれしびながら」
※保元(1220頃か)上「宿善内にもよほし善縁外にあらはれて」
⑦ 朝廷に関する人やものごとを直接に言うことをはばかって間接的に示す語。
(イ) 宮中。禁中。内裏。おおうち。
※令義解(718)獄「其被二勑推一。雖レ非二官当除免一。徒以上。不レ得レ入レ内」
(ロ) 天皇。みかど。
※延喜十三年亭子院歌合(913)「左はうちの御歌なりけり」
⑧ 仏者の立場で、自分たちの側に関することをいう語。仏教以外、特に儒教を「外(そと・ほか)」とするのに対する。
※平家(13C前)二「内には五戒をたもって慈悲を先とし、外には五常をみださず」
⑨ 表立たない、個人的なものごとをいう語。私的な事柄。身のまわり。
※保元(1220頃か)下「されば三夫人〈略〉八十一女御ありて、内、君を助け奉る」
⑩ (家) (②(ハ) から転じて) 家、家の建物、家庭。
(イ) 自分の家、家庭。わが家。
※玉塵抄(1563)二五「うちでもえぼしかみしもきづめにして」
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉八「失礼ですが、私は、宅(ウチ)へ何とも申置ませんでしたから」
(ロ) 一般の家、家庭。商店などについてもいう。
※万葉(8C後)一一・二三五二「新室を 踏み静む子し 手玉鳴らすも 玉のごと 照りたる君を 内(うち)にと申せ」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「ここのうちの肉もずいぶんいいけれども」
(ハ) ((イ)から) 比喩的に、自分の属する所。「うちの社長」「うちのチーム」
※花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉上「内(ウチ)の親方と一緒に」
(ニ) 外出しないで家にいること。
※花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉下「馬鹿、貴様が内だと云ったらう。今急用があって外へ出たと云ふがいい」
⑪ 同じ家の中に住む配偶者。
(イ) 妻。内儀。家内。他人の妻をいう場合は「おうちさま」「おうちさん」などの形で用いる。また、書状などで、夫の名の下に記し、妻自身が用いることも多い。
※武田勝頼夫人願文署名‐天正一〇年(1584)二月一九日「みなもとのかつ頼うち」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「お袋さまやお内さまか」
(ロ) 自分の夫。うちの人。うちの。
※洒落本・狐竇這入(1802)二「内(ウチ)に大きにしかられました」
⑫ (多く「に」を伴って形式名詞として用いる。…という条件の範囲内にあるの意から)
(イ) その中でも特に。そればかりか。その上に。
※落窪(10C後)一「さやうの事かけてもおぼしたたぬうちに、いみじく色好みと聞き奉りし物を」
(ロ) とはいうものの。にもかかわらず。
※徒然草(1331頃)一六六「下より消ゆること、雪のごとくなるうちに」
⑬ (「裏」「裡」を訓読したものか。多く「の」を受けて用いられる) 物事の経過する間の状況、環境などを示すのに用いる。終始そのようなさまであるあいだ。「暗黙のうちに」
※米国及び英国に対する宣戦の詔書‐昭和一六年(1941)一二月八日「事態を平和の裡に回復せしめむとし」
⑭ 郭(くるわ)の中。なか。
※浄瑠璃・淀鯉出世滝徳(1709頃)上「きつう酔(ゑ)ふてござんす故〈略〉うちからお駕籠(かご)にめさせます」
[2] 〘代名〙 自称。関西を中心とする方言。主として婦女子が用いる。
※牛部屋の臭ひ(1916)〈正宗白鳥〉一「神酒は屹度(きっと)うちが飲まして上げらあな」
[語誌](1)「うち」は(一)②のように「閉鎖的な内部」の意を上代からもつため、本来他に対して開くことをしない「心」や、内的現象として考えられる「夢」などと結びついてよく用いられた。
(2)「うち」は閉鎖的な意をもつ「隠る」「籠る」「籠む」「埋もる」などの動詞と共存しやすく、逆に「明示的な中心部」の意をもつ「なか」はそれらと共存しにくい。
(2)「うち」は閉鎖的な意をもつ「隠る」「籠る」「籠む」「埋もる」などの動詞と共存しやすく、逆に「明示的な中心部」の意をもつ「なか」はそれらと共存しにくい。
ない【内】
〘名〙
① うち。なか。内部。内側。奥。⇔外(がい)。
※物理学と感覚(1917)〈寺田寅彦〉「光の波長が一粍の二千分の一乃至三千分の一位の範囲内にあるのでなければ」
② 仏語。
(イ) 仏教以外の教えに対して仏教の教え、あるいは仏教内の自己の立場をさす。また、世間に対する出世間。⇔外(げ)。
※霊異記(810‐824)上「外を学ぶる者は、仏法を誹り、内を読む者は外典を転みす」 〔南本涅槃経‐一五〕
(ロ) 六根、または六識などの識(心)をさす。
※大乗法相研神章(822頃)二「問拠二心内境一可レ言二唯境一耶。答。其境之体通二於内外一。外無内有。識唯在レ内」
③ 身体の内部。内臓。
※譬喩尽(1786)三「内(ナイ)が悪ひ、内(ナイ)に熱が有など、内(ナイ)と唱ふ。医書外邪等対語也」
④ 「ないじん(内陣)」の略。
※幸若・烏帽子折(室町末‐近世初)「太刀は多聞のつるぎ、刀は八幡と心ざし、ないの柱に立てをかせ」
うつ【内】
〘語素〙 名詞の上に付いて、内側、内部の意を添える。「うつあし」「うつもも」「うつほ」など。
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