こうぶり かうぶり【冠】
〘名〙 (「かがふり」の変化した語)
※
書紀(720)持統六年三月(北野本訓)「其の冠位
(カウフリ)を脱ぎて朝に擎上
(ささ)げて重ねて諫めて曰
(まう)さく」
② (━する)
男子が
成年に達して、はじめて冠をつけること。また、その
儀式。
元服。初冠
(ういこうぶり)。
※書紀(720)仲哀元年一一月(寛文版訓)「朕未だ
弱冠(カウフリ)に逮
(いた)らずして、父
(かそ)の王
(きみ)既に崩りましぬ」
④ (多く「得」「賜ふ」がついた形で用いられる) 五位下に叙せられること。
叙爵。→
冠を賜わる。
※
源氏(1001‐14頃)薄雲「得給ふべきつかさ・かうぶり」
[
補注]③の意は
孝徳天皇の
三年(
六四七)、位階に
大職冠・大繍冠等が制定され、これに「冠」の字が使われたところから派生したともいわれる。
かんむり【冠】
〘名〙 (「かうぶり」の変化したもの)
① 頭にかぶるもの。特に、束帯、衣冠などの時、頭にかぶる物。直衣
(のうし)でも晴
(はれ)の時に用いる。黒の羅
(うすもの)で作る。その頂に当たるところを甲
(こう)といい、前額部を額
(ひたい)という。
後方の高い壺
(つぼ)は髻
(もとどり)を入れる
巾子(こじ)で、その後に
長方形の纓
(えい)二筋を重ねて垂れる。冠の緒を形式化したもので古風に先端を
円形にしたのを
燕尾という。全体に有文
(うもん)の羅をはったのを「繁文
(しげもん)の冠」と呼び、五位以上が用いる。巾子の
上部と纓の裾だけに文を入れたのを「遠文
(とおもん)の冠」といい、六位以下の用とする。天皇の神事用は黒絹をはって「無文
(むもん)の冠」という。こうぶり。こうむり。かむり。かぶり。かんぶり。〔
温故知新書(1484)〕
② 能装束の一つ。通常の冠と同じ形の初冠(ういこうぶり)のほかに、透冠(すきかんむり)、唐冠(とうかんむり)などがある。かむり。
③ すべての上に位するすぐれたもの。
※三四郎(1908)〈夏目漱石〉四「さうして凡ての上の冠(カンムリ)として美しい女性(にょしゃう)がある」
④ 漢字の字形の構成部分のうち、上部にかぶせるもの。「宇」「花」「箱」などの「宀」「艹」「

」の部分をいう。
かむり【冠】
〘名〙
※ロザリオの経(一六二二年版)(1622)五つのおん悲しみのミステリオスの事「ヲソロシキ イバラノ camuriuo(カムリヲ) トトノエ」
② 頭をいう。
※満韓ところどころ(1909)〈夏目漱石〉三八「橋本はすぐ冠(カムリ)を横に振った」
※詩学大成抄(1558‐70頃)九「宸の字とわ、宀はかむりで、そらの心ぞ」
④ 和歌、俳諧などの初めの五文字。また、各句の初めの字。ことばの言い初めの意にも用いる。
※俳諧・去来抄(1702‐04)先師評「此は、善光寺如来の洛陽真如堂に遷座有し日の吟にて、初の冠はひいやりと也」
⑤ 鉱脈や鉱層の上側の地盤。上盤。
かん‐・する クヮン‥【冠】
[1] 〘自サ変〙 くゎん・す 〘自サ変〙 元服する。
※随筆・山中人饒舌(1813)下「余甫冠東二游江戸一」
[2] 〘他サ変〙 くゎん・す 〘他サ変〙
① かんむりをつける。
※史記抄(1477)一五「魋結は不冠して、もとどりはなしぞ」
② 上につける。冒頭に付加する。かぶせる。
※小補東遊後集(1469)小補東遊集序「而筆二之於レ書一、書成授レ余、且欲三以レ言冠二於首一焉」
※草枕(1906)〈夏目漱石〉七「此靄(もや)に、春宵の二字を冠したるとき、始めて妥当なるを覚える」
かがふり【冠】
〘名〙 (動詞「かがふる(被)」の連用形の名詞化)
① 頭にかぶるものの総称。こうぶり。かんむり。
※法華義疏紙背和訓(928頃か)「冠帽(加々布利)」
② (上代以降、冠によって位階を表わしたところから) 位階。官位。
※万葉(8C後)一六・三八五八「此の頃の吾が恋力記し集め功(くう)に申さば五位の冠(かがふり)」
③ 二〇歳。古代中国で成人して初めて冠を着用する年齢。弱冠。
④ (━する) かぶりものを頭に着けること。冠を着用すること。
※新撰字鏡(898‐901頃)「

頭 加我不利須」
かん クヮン【冠】
[1]
① かんむり。〔史記‐儒林伝〕
② 元服。加冠。〔礼記‐冠義〕
③ (形動タリ) もっともすぐれていること。首位であること。また、その人、もの。
※応永本論語抄(1420)顔淵「顔淵、孔子の弟子文三千人の冠たる者也」 〔史記‐項羽本紀〕
[2] 〘接尾〙 競技や大会で勝ちとった選手権や優勝数、また個人記録などを数えるのに用いる。「三冠王」
かんぶり【冠】
※運歩色葉(1548)「巾子 冠 カンフリ 入髻之物」
かがほり【冠】
〘名〙 「かがふり(冠)」の変化した語。
※新撰字鏡(898‐901頃)「幘 首服也 頭巾也 比太比乃加々保利」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「冠」の意味・読み・例文・類語
かんむり【冠】
《「こうぶり」の音変化》
1 頭にかぶるもの。特に、許されて直衣を着て参内する束帯・衣冠などのときにかぶるもの。黒の羅で作る。頂にあたる所を甲、前額部を額という。後方の高い壺は髻を入れる巾子で、その後ろに長方形の纓(俗に燕尾という)2枚を重ねて垂れる。有文と無文の冠の区別があり、時代によって形式の変化がみられる。こうむり。かむり。かぶり。かんぶり。
2 漢字の構成部位の一。上下の組み合わせからなる漢字の上側の部分。「安」の「宀(ウかんむり)」、「茶」の「艹(草かんむり)」など。
[類語]王冠・宝冠・栄冠・月桂冠
こうぶり〔かうぶり〕【▽冠】
《「かがふり」の音変化》
1 束帯や衣冠の装束のとき、頭にかぶるもの。→冠
2 男子が成年に達して、初めて冠をつけること。また、その儀式。元服。初冠。
3 《古くは冠の色で位を表したところから》位。位階。
「官―も、わが子を見奉らでは、何かはせむ」〈竹取〉
4 《多く「得」「賜ふ」が付いた形で用いられる》従五位下に叙せられること。叙爵。
「蔵人より今年―得たるなりけり」〈源・若紫〉
5 「年爵」に同じ。
「御賜りの年官―」〈源・少女〉
かん〔クワン〕【冠】
[名]かんむり。
[ト・タル][文][形動タリ]最もすぐれているさま。首位に立つさま。「世界に冠たる誉れ」
[接尾]助数詞。スポーツや将棋などの競技・大会で、勝ち得た称号の数や優勝回数を数えるのに用いる。「タイトル三冠を達成する」
かがふり【▽冠】
1 かんむり。
「次に投げ棄つる御―になれる神の名は」〈記・上〉
2 《古くは位階によって冠の色が違ったところから》位階。
「このころの我が恋力記し集め功に申さば五位の―」〈万・三八五八〉
[補説]この語がのちに「かうぶり」「かんむり」となる。
かむり【▽冠】
《「かぶり」の音変化》
1 「かんむり」に同じ。
2 和歌・俳諧などの初めの5文字。また、各句の初めの字。「冠付け」
3 鉱脈や鉱層の上側にある地盤。
さか【▽冠/鶏=冠】
とさか。
「瑞鶏を貢れり。其の―海石榴の華の似し」〈天武紀〉
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冠
かんむり
こうぶり,こうむり,かむりなどから転じた語。最も広義にはかぶりものの総称であるが,狭義には今日の神道の神主が儀式の際にかぶるかぶりものをさす。日本の冠の成立には,次のような歴史的経緯がある。すなわち,人物埴輪や発掘品にみられる古墳時代のものは,王冠型か透かし彫状の筒形で,頭頂をおおう形ではなかった。大陸風にならった飛鳥・奈良時代の冠は,当初,7世紀の冠位十二階制にみられるとおり色によって区別されたが,8世紀になって服制が確立すると,礼服用の礼服冠 (礼冠ともいい,天皇のものは特に冕冠〈べんかん〉と名づけられた) と朝服・制服用の頭巾 (ときん) の冠とがかぶられるようになった。平安時代中期 (10世紀) になって日本化が進み,衣冠束帯が着られるようになると,今日の冠の原型が完成する。これらは紗に漆を塗ってつくった柔軟な冠であるところから漆紗冠と呼ばれている。今日の冠と異なる点は,冠の額の部分が厚く,しかも纓 (えい) にあたる部分は燕尾と呼ばれ,上部から下部にいくほど広くなる一方,下端が丸くなり,内側に湾曲する形をとっていることであった。 12世紀初頭になって強装束が起ると,額が薄く,纓も今日のように2枚重なった短冊状になって後方に張出すようになった。これが今日の神主の冠で,もともと文官用であるが,武官の冠では纓が巻纓でおいかけと称する半月形の飾りがつく。西洋風の冠は一般にクラウン crownと呼ばれ,広義には花冠,月桂冠,宝冠,金冠なども含まれるが,狭義には王冠をさす。王冠は高貴,尊厳の印としてかぶる君主の冠で,古代からのさまざまな歴史的経緯をたどって中世以来かぶられるようになった。現在のイギリス王家では,戴冠式用と国事用の2種類が用いられている。クラウンに対するコロネット coronetは花冠,宝冠をいい,ディアデム diademは王冠型の頭飾りを,ティアラ tiaraは教皇冠や三重冠を意味する。
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冠【かんむり】
古くからヨーロッパ,中国などで種々の冠が用いられたが,日本では推古朝に冠位十二階の制がしかれて以来,官服に用いられるようになった。天武朝の漆紗(しっしゃ)冠・圭(けい)冠,奈良朝の礼(らい)冠などを経て平安朝でその形が整備され,額(ひたい),縁(へり),巾子(こじ),簪(かんざし),纓(えい)などからなるものになった。五位以上は有紋,六位以下は無紋で,縁の高さや額の透かし模様によって厚額(あつびたい),薄額,透額(すきびたい),半透額などがある。→王冠
→関連項目挿頭
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かんむり【冠】
元来〈かんむり〉は〈かうぶり〉の音便形であるから,頭にかぶるものはみな冠といえようが,帽や笠あるいは冑と区別してとくに威儀を正したり権威の象徴として用いるものを冠という。冠の起源については不明なところが多い。はじめは布製の帯や月桂樹枝を環状に丸めたものなどとして存在したらしく,王朝時代のエジプトでは布製帯状の,アルカイク時代のギリシアでは月桂樹冠の図像が認められる。ただし,単なる髪飾なのか冠としての意味を備えていたものなのかは判断できない。
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冠
日本語の冠は様々な意味があり,峰(crest)と同じ意味,横臥褶曲の先端部の意味[木村ほか : 1973),背斜構造の特定の地層断面の最も高い点を結んだ線[地学団体研究会 : 1996],などに用いられている.
出典 朝倉書店岩石学辞典について 情報
世界大百科事典内の冠の言及
【元服】より
…〈げんぷく〉ともいい〈元〉は首,〈服〉は着用する意。首服,首飾,冠礼,加冠,初冠(ういこうぶり∥ういかぶり),御冠(みこうぶり),冠ともいう。
[古代]
冠礼としての成人式は,日本古代では682年(天武11)に規定された男子の結髪加冠の制以後,冠帽着用の風習が普及してからで,国史に見えるものとしては714年(和銅7)の聖武天皇(14歳で元服)の記事が初めとされる。…
【褶曲】より
…褶曲構造の解析にとって,褶曲軸や軸面は最も基本的な幾何学的要素であるが,前述の石油探鉱にとっては,石油は水より軽いのでいちばん高い部分にたまりやすいことから,これに関連した術語も使われている。すなわち,水平面を基準として同一褶曲面上でいちばん高い位置にある点を冠(クレストcrest)といい,反対にいちばん低い点を底という。ヒンジと同様にして,冠線,冠面や底線,底面が定義される。…
【舞楽装束】より
…
[歌舞の舞人装束]
歌舞とは,神楽(御神楽(みかぐら)),大和(倭)舞(やまとまい),東遊(あずまあそび),久米舞,風俗舞(ふぞくまい)(風俗),五節舞(ごせちのまい)など神道系祭式芸能である。〈御神楽〉に使用される〈人長舞(にんぢようまい)装束〉は,白地生精好(きせいごう)(精好)の裂地の束帯で,巻纓(けんえい∥まきえい),緌(おいかけ)の冠,赤大口(あかのおおくち)(大口),赤単衣(あかのひとえ),表袴(うえのはかま),下襲(したがさね),裾(きよ),半臂(はんぴ∥はんび),忘緒(わすれお),袍(ほう∥うえのきぬ)(闕腋袍(けつてきほう)――両脇を縫い合わせず開いたままのもの),石帯(せきたい),檜扇(ひおうぎ)(扇),帖紙(畳紙)(たとうがみ),笏(しやく)を用い,六位の黒塗銀金具の太刀を佩(は)き,糸鞋(しかい)(糸で編んだ沓(くつ))を履く。手には鏡と剣をかたどった輪榊を持つ。…
※「冠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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