初穂(読み)ハツホ

デジタル大辞泉 「初穂」の意味・読み・例文・類語

はつ‐ほ【初穂】

その年最初に実った稲の穂。
その年最初に収穫した穀物・野菜・果実など。
その年最初に収穫し、神仏・朝廷に奉る穀物などの農作物。また、その代わりとする金銭。「お初穂料」
初めて食べる物。また、他人に先んじて最初に味わう食べ物
「行きゃあ隠居と立てられて見舞ひの―を喰ふ株だが」〈伎・小袖曽我
[補説]室町時代から「はつお」と発音し、「初尾」の字も当てた。
[類語]瑞穂稲穂垂り穂落ち穂穂並穂波穂先

はつ‐お〔‐ほ〕【初穂】

はつほ

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精選版 日本国語大辞典 「初穂」の意味・読み・例文・類語

はつ‐お‥ほ【初穂・早穂・最花】

  1. 〘 名詞 〙
  2. その年になって初めて実った稲の穂。
    1. [初出の実例]「きみがよのよろづのあきのはつほなるよしだのさとのいねをこそつけ」(出典:江帥集(1111頃))
  3. その年初めて出た草の穂など。
    1. [初出の実例]「かれねただはつほのすすきたまくらにむすばば露の散りもこそすれ〈藤原為家〉」(出典:夫木和歌抄(1310頃)一一)
  4. 穀物、野菜、くだものなどの、その年最初にできたもの。
    1. [初出の実例]「Fatçuuo(ハツヲ)」(出典日葡辞書(1603‐04))
  5. 神仏や朝廷などにたてまつる、その年最初に収穫した野菜、穀物などの農作物。また、神仏へ奉納する金銭、米穀など。おはつお。
    1. [初出の実例]「初穂(ハツホ)は汁にも穎にも、千稲・八千稲に引き据ゑて」(出典:延喜式(927)祝詞(九条家本訓))
    2. 「蕨・つくづくし、をかしき籠に入れてこれは、わらはべの供養じて侍るはつをなりとてたてまつれり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)早蕨)
  6. はじめて飲食するもの。まだ食べたことのない食べ物。また、他人に先んじて、最初に食べ味わうことやその食べ物。おはつお。
    1. [初出の実例]「但女子の汲んだがお厭なら、今入替へて煎じばな、初をなれどエイ捨てて退けうと指出す」(出典:浄瑠璃・善光寺御堂供養(1718)三)
  7. 赤ん坊が初めて食べる食べ物。
  8. ( 比喩的に ) 他人に先んじて、ある物を利用したり、ある女性を手に入れたりすること。
    1. [初出の実例]「よいものじゃ・何でも初尾まあ旦那」(出典:雑俳・軽口頓作(1709))
  9. 銭貨改鋳の際、はじめに鋳造された貨幣。〔三代実録‐貞観一二年(870)一一月一七日〕
  10. 少しばかりのもの。〔俚言集覧(1797頃)〕

初穂の語誌

( 1 )発音が〔 fatufo 〕から〔 fatuwo 〕に変化したため、中世には「はつを」「初尾」とも書かれた。「初尾」は穂を長い尾に見たてた表記。
( 2 )近代になって、ハツヲは転訛形で、ハツホが正しい語形であるとする意識が生じ、明治中期ごろから再び、ハツホで呼ばれるようになる。


はつ‐ほ【初穂】

  1. 〘 名詞 〙はつお(初穂)

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改訂新版 世界大百科事典 「初穂」の意味・わかりやすい解説

初穂 (はつほ)

最初に抜きとった稲穂を神前に供えることが原義。早穂,荷前,最華などと書いて,いずれもハツホとよむ。刈り取った稲穂を神垣に掛けて奉るときは懸税(かけぢから)という(伊勢神宮)。稲穂のみならず,穀物,野菜,果物,魚貝類などの初物を神前に供えて収穫を感謝する儀礼は,世界各地にみられる。とりわけ,日本人は米を主食とすることから稲の儀礼は古くから伝承され,抜穂祭,初穂祭,穂掛けなどがある。全国の神社で毎年秋に行われる新嘗(にいなめ)祭は,初穂(新穀)を神前に供えて収穫に感謝する祭りである。金員を熨斗のし)袋に入れて神前に供えるときは,〈初穂料〉と書くが,これは,本来初穂を供えるものであることを意味している。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「初穂」の意味・わかりやすい解説

初穂
はつほ

農耕儀礼において、その期の最初に収穫した穀物を、穂のままで神に供え収穫に感謝すること。またその穀物。日本ではムギやアワの場合もあるが、イネの儀礼がもっとも多く、収穫に先だって穂掛け・掛け穂の儀礼がある。稲穂を2、3本抜き取り、田の神に供えると称して神棚などに供える。のちには漁業や狩猟に関しても初穂といい、また神棚に供える御飯や神主への謝礼金をも初穂とよぶようになった。

[井之口章次]

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百科事典マイペディア 「初穂」の意味・わかりやすい解説

初穂【はつほ】

初尾とも。その年最初の収穫物。またはそれを神・首長に捧げる習俗。農・漁業,狩猟を通じてこの語が用いられる。律令国家の成立の中では贄(にえ)として制度化され,平安末期以降は上分(じょうぶん)といわれたという。八朔(はっさく)の穂掛祭は広く知られているが,月見の行事にも芋名月,豆名月など,初穂の古俗をとどめるものがみられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「初穂」の意味・わかりやすい解説

初穂
はつほ

農耕,狩猟,漁業の生産物の初物 (はつもの) を,それらを司ると信じられている神に供える習慣。生産物の成熟,収穫の感謝や予祝の意味がある。農耕の場合でみると,初穂の奉納の際にはいろいろの儀式,祭礼が行われる。稲刈りの初めに 12株の稲を神に供えるのを初穂祭という。初穂祭には収穫を終ってから,新穀を炊いて神に供えるとともに,それを食べる場合が多い。

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世界大百科事典(旧版)内の初穂の言及

【生飯】より

…仏教では衆生の飯米の意で,餓鬼や鬼子母神に供えるため,食膳に向かうときに少量取りわけた飯をいい,屋上や地上に投げ散らす。民俗儀礼としては神や尊者にささげる米や飯のことで,お初穂の意味である。神の前にまいたり供えたりする。…

【漂泊民】より

…しかし宿はしばしば河原や,遊女・傀儡などの根拠地に成立し,寺院が宿の機能を持つ場合もあったのである。他方,漂泊民,遍歴民は,その本拠とする(とまり),渡し(わたし)やなどをはじめ,山野河海,道などの場で〈道切り〉を行い,通行する人々から〈手向け〉初穂を要求することがあった。この行為が公認された場合,そこは関となったのであり,中世の関で関料を徴収しえたのは,勧進上人をはじめとするこうした遍歴民自身だったのである。…

※「初穂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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