対象の状況を望ましい状態になるように操作することを制御という。とくに、制御を人の手を介さずに機械が自律的に実行する場合を自動制御とよび、制御の機能を実現するシステムを制御システムという。制御工学は制御システムを構成するための機器の設計、システムの解析、システム設計、さらに背景となる制御理論と応用などに関する知識を体系化した工学である。
その分野は次の諸分野から形成される。制御対象の情報を収集する計測技術、対象のモデリング技術、古典制御理論、現代制御理論、制御動作を実現する制御機器技術、対象に作用するアクチュエーター技術などである。このなかで、制御理論は対象や手法により多様化されているので制御理論の項を参照されたい。
制御は人間の手による手動制御と、人間の手によらないで機械が実行する自動制御に大別される。制御工学の対象は自動制御である。
自動制御は方式により開ループ制御と閉ループ制御に大別される。開ループ制御は制御の目標や動作の設定から制御対象に作用するアクチュエーターまで制御信号が一方向に流れる方式でシーケンス制御が代表的である。閉ループ制御では制御の結果を示す信号が設定された目標値と比較されるために戻り、訂正動作が行われる。制御信号がフィードバックされるのでフィードバック制御とよばれる。これらの制御技術が応用される範囲は非常に広い。マイクロスケールの電子機器や強力な流体機械、金属や化学プラントなどから航空機や船までが自動制御技術により動作が自動化されており、制御工学応用の対象である。
従来の工学は、なにをつくるか、その対象により縦割りに専門化されている。しかし、制御においては広範囲の対象に対して情報をキーワードとして共通の理論や手法、設計技術などが適用可能である。したがって、それらを集約した制御工学は対象別の縦割りではなく、ほとんどの工学分野を横断する横型構造をもつ。それが制御工学の重要な特徴である。
制御工学は計測工学などともに学際的な性格をもつ学問として、独立した存在理由が十分広く認識されていなかった。縦割りの専門技術による成果はつくられた「物」として一般の人たちの目に触れやすく容易に理解されるが、横断型の技術成果は「機能」として「物」に埋め込まれるので、その価値がみえにくく容易に理解されなかったためである。それに学際的ということば自体が技術や学問の縦割り構造を暗黙の前提にしている。しかし、現代社会における自動化技術の発展は目覚ましく、制御技術の重要性が広く認められる一方で、縦割りの学問や技術の限界がみえてきた。新しく切り開かれる技術の世界においては、横断型学問や技術の重要性は学問と産業界の両方において強く認識されただけでなく、横断型工学の構造自体が本来あるべき構造であるという認識も形成されつつある。
[山﨑弘郎]
『計測自動制御学会編『自動制御ハンドブック 基礎編』『自動制御ハンドブック 機器・応用編』(1983・オーム社)』▽『岩井壮介著『制御工学基礎論』(1991・昭晃堂)』▽『柴田浩・藤井知生・池田義弘著『制御工学の基礎』新版(2001・朝倉書店)』▽『北川能・堀込泰雄・小川侑一著『自動制御工学』(2001・森北出版)』▽『大日方五郎編著、池浦良淳他著『制御工学――基礎からのステップアップ』』▽『寺嶋一彦編著、片山登揚他著『システム制御工学 基礎編』(以上2003・朝倉書店)』▽『嶋田有三著『わかる制御工学入門――電気・機械・航空宇宙システムを学ぶために』(2004・産業図書)』
各種機器,設備に自動制御を適用することを目的として,自動制御系の動作解析および構成を研究する工学分野。この分野を内容とする学術団体として,日本には計測自動制御学会(1961設立),日本自動制御協会(1957),計装研究会(1956)があり,国際的団体として国際自動制御連盟(IFAC,1957)がある。これら団体の設立年度からもわかるように,制御工学は第2次大戦後にようやく学問分野としての体系を整えた新しい分野である。
制御工学の分野をしいて分類するならば,制御理論,制御機器,および応用の三つになる。応用の分野は対象の産業分野(例えば鉄鋼,電力,機械,化学,交通など)によってさらに分類される。制御機器分野は,空気式,油圧式ならびに電気式の調節計・操作機器の研究や,油圧式・電気式サーボ機器の研究を内容とする。従来の制御機器はすべてアナログ式であったが,最近,エレクトロニクス技術など関連技術の発展により,調節計などはディジタル式のものに置き換えられつつある。このため,調節計などを知能化し柔軟性をもたせるためのソフトウェアの研究が制御機器の分野でもますます重要なものとなってきた。
制御理論の萌芽は19世紀末にさかのぼる。遠心調速機の構成が適当でないと,一定回転速度が得られず,ハンチングとよばれる不安定現象が生ずる。これを解決するためJ.C.マクスウェル,E.J.ラウスらは研究を行った。この当時から自動制御系の振舞いを記述する数学モデルとして微分方程式が用いられていたが,通信工学におけるフィードバック増幅器の理論を移入して,数学モデルとして伝達関数や周波数伝達関数とよばれるものを用いて,制御系の安定解析や構成を論ずる手法が第2次大戦前後にほぼ完成した(安定性)。フィードバック制御理論あるいは古典理論とよばれているこの手法は,制御系の振舞いを直観的に把握しやすいものであり,戦後の自動制御の普及に大いに貢献した。
フィードバック制御理論では制御偏差のみに注目していたが,1960年ころから制御偏差のみでなくその変化速度などもっと多くの量(制御系の動的状態を記述する量)に注目する制御理論が展開され,現代制御理論とよばれている。この成果を実際に適用すれば高精度の自動制御が期待されるにもかかわらず実施例は少なかった。これは制御装置に複雑な機能が要求されるためであったが,ディジタル式制御装置では比較的容易に複雑な機能を実現できるので,今後急速に実用化が進むことが期待されている。
制御理論の分野で研究されているテーマには,制御系の振舞いからその数学モデルをつくる同定問題,安定性,最適制御,最適化制御,適応制御,学習制御,サンプル値制御,また制御しようとする量が多数あってそれらの間に干渉が存在する場合の制御問題などがある。
執筆者:得丸 英勝
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