第1次世界大戦の教訓は航空戦力(軍事航空力)が戦勝に大きく貢献しうることを認識させた点にある。1920年代初頭,イタリアのG.ドゥエは《制空論》を著し,その中で敵の軍事,工業,政治の中心地を爆撃することにより戦争を早期に勝利に導くことができると主張した。そしてこのためには,自軍の航空戦力は自由に威力を発揮でき,かつ敵の航空戦力の威力発揮を封殺する必要があるとし,戦略攻撃力と防空力の強化を提唱した。ここに制海権と対応し1909年のドゥエ論文にその萌芽をみる制空権の概念が実体的に確立されたが,それはあくまで戦時に関するものであった。第2次世界大戦は航空戦力の質的向上に伴いますます制空権の重要性を実証した。大戦直後,東西両陣営の冷戦状態の発生とともに戦争は平時・戦時の区別なく,かつ軍事手段のみならず非軍事手段を用いて闘われるとする思想が生まれた。そのため制空権は平時・戦時を通じ,かつ国の航空総合力に及ぶ概念に拡大し,さらに60年ごろには宇宙利用の発展に伴いその範囲を宇宙にまで広げた。なお日本では55年ごろ以降,防衛庁は制空権の代りに航空優勢という語を使用しているので以下これに従う。
広義,狭義の二つの意味がある。(1)広義 アメリカのcontrol(command) of the airに相当する。平時・戦時を通じ,相手の航空力に対し自国の航空力の優越により空を支配または統制しうる力または状態をいい,戦争抑止力の中核をなすとされる。航空力とは単に軍隊に属する航空戦力だけでなく,民間航空輸送力,航空機製造能力,および関連組織や人的能力などを含む概念である。(2)狭義 アメリカのair superiorityに相当する。戦時に自軍の航空戦力が空において敵の航空戦力より優勢で,敵の航空行動によって大きな妨害を受けることなく陸海空の諸作戦を実施しうる状態をいう。敵航空戦力の活動を排除することで作戦を有利に遂行しうることは数次の戦争で実証されており,近代戦では通常,航空優勢の獲得・維持が作戦遂行上優先される。なお,一般に航空優勢といった場合は後者の内容をさす。航空優勢の獲得は以下の方法による。(1)広義航空優勢 第一義的に国の航空力,特に航空戦力を相手よりも質・量ともに優越して整備し,かつ使用意志を明示することである。これは集団防衛を含む国力整備そのものともいえる。(2)狭義航空優勢 敵の航空・ミサイル基地などに対する攻撃,および来攻する敵に対する防空などにより敵航空戦力を撃破することを第一義とし,かつ敵の航空産業などの航空戦力源を攻撃し,総合国力が軍事航空戦力に転化されることを阻止するなどにより能力減殺を図る。
航空優勢(狭義)とは上述のように敵機を1機も飛行させないといった絶対的なものでなく,その程度,状態,限度などは作戦上の必要から決められ,航空優勢を獲得すべき範囲により全般的航空優勢と局地的航空優勢に,またその時間により長期にわたる航空優勢と一時的航空優勢とに分類される。このほか全般かつ長期にわたる航空優勢を絶対的航空優勢と呼び,これはドゥエの制空権やアメリカのair supremacyに相当する。
→空軍
執筆者:植弘 親孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一定の空域で、空中を支配・管制する能力のことで、敵の航空戦力を上回る大きな戦闘効力をもった状態を航空優勢の確保という。航空優勢air superiorityは、味方の航空機が自由に行動できる状態のことで、制空権の確保と同じ意味である。また似た言葉では、航空環境の支配control of the airがあるが、これは航空優勢が「状態」を示すのに対し、空域を管理するなどの「能力」的な意味合いも含んでいる。
航空優勢の獲得には通常は戦闘機が使われ、担当空域の哨戒(しょうかい)、味方部隊の空からの防護を行う。こうして制圧した空域での優勢を、一定時間にわたって維持したり、あるいは拡張することを制空戦闘という。航空優勢を確保することは、敵に対して航空作戦を遂行するための行動の自由を確保し、維持することになる。現代の戦闘では、陸戦や海戦であっても、航空戦力によって敵を圧倒することが作戦遂行の基盤になっており、航空優勢を獲得していなければ勝利は困難になった。ただ、ゲリラ戦などの不正規戦では、航空優勢の価値も限定的なものとなり、航空戦力で相手よりも劣勢が明らかな場合には、不正規戦の形がとられる。また、航空優勢を確保する場合でも、どれだけ損害を減らし、かつ効果的に作戦を進められるかが、航空優勢の主要課題として考えられている。
[青木謙知]
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