脊椎動物の内分泌器官の一つ。ヒトの副腎は腎臓の上に帽子のようにかぶさる1対の器官で,腎上体とも呼ばれる。成人では5cm×3cm×1cm以下の扁平な器官で,重さはそれぞれ5~8g程度である。種々のホルモンを分泌し,生体を外部環境の変化から防衛するのに最もたいせつな器官である。副腎は単独で脂肪の多い結合組織被膜をかぶり,さらに腎臓と共通に脂肪被膜につつまれている。また左側のものは前方が胃に,右側のものは肝臓に接している。この臓器は,周辺部にあって実質の大部分(副腎重量の約80%)を占める皮質と,その中に封じ込まれた髄質とからなるが,この皮質と髄質の由来はまったく異なる。すなわち,皮質は中胚葉性の体腔上皮に由来し,髄質は外胚葉性の神経に由来し,胎児期に皮質原基内に髄質原基が侵入して一つの器官としての副腎を形成する。皮質からは,電解質や糖代謝に関与する多種類の皮質ホルモンや男性ホルモンが,髄質からは,アドレナリンやノルアドレナリンが分泌される。肉眼的にも,新鮮な副腎の切断面では,皮質は脂肪のためにやや黄色みを帯び,髄質は赤褐色であり,容易に区別される。
ヒト以外の哺乳類でも,皮質は副腎の表層を,髄質は内部を占めているが,鳥類,爬虫類,両生類では,皮質組織の中に髄質組織が島状に混在し,皮質,髄質というのは適当でないので,それぞれ間腎組織,クロム親和性組織と呼ばれている。さらに両生類の一部や魚類の一部では,間腎組織とクロム親和性組織がまったく別に離れて存在している。
ヒトの副腎には3本の動脈,すなわち上,中,下副腎動脈が入るが,それらは互いに吻合(ふんごう)して被膜に分布した後に実質内に進入する。実質内に進入して直ちに洞様毛細血管となるものと,貫通動脈として,動脈のまま皮質を貫いて髄質に入るものとがあるが,こういった血管内を流れる血液は,最終的にはすべて中心静脈に集められ,前面にある副腎門という部分から出る副腎静脈を経て出て行き,腎静脈へ注ぐ。また,副腎へは迷走神経由来の副交感神経繊維と,大・小内臓神経由来の交感神経が行っており,神経終末と皮質細胞の間には直接のシナプス結合は認められないが,神経終末と髄質細胞の間には数多くのアセチルコリン作動性のシナプスがみられる。
副腎皮質は,生命維持にきわめてたいせつな器官である。外側から順に球状帯,束状帯および網状帯の3層に分けられる。球状帯の外側には結合組織性の被膜がある。球状帯は,腺細胞の集まりからなる球状物が密集してできた薄い層である。束状帯は,腺細胞が縦(表面に垂直)に柱状に列をなして並ぶ層で,3層のうちで最も厚く,体積比は全皮質の80%を占める。網状帯は,細胞索が不規則に配列して網状を呈する層で薄い。なお,これらの層の境界は明らかでなく,互いに徐々に移行している。皮質のすべての層の細胞はステロイドホルモンの分泌に関与するために,コレステロールを多く含む脂肪滴,管状ないし小胞状のクリスタをもった多くのミトコンドリア,およびよく発達した滑面小胞体の存在することが,その特徴である。また,各層についてさらに詳しく述べると,球状帯細胞は比較的小さく,脂肪滴も少ない。束状帯細胞は大きく多角形で,脂肪滴,滑面小胞体に富む。網状帯細胞は束状帯細胞に似るが,やや小さく,リソソームが多い。
形態学的な皮質ホルモンの産生のメカニズムはよくわかっていないが,脂肪滴の中にあるコレステロールがミトコンドリアに入り,酵素作用をうけてプレグネノロンになり,ついで滑面小胞体に出て,ここで酵素の働きをうけて再びミトコンドリアに入り,各種ホルモンとなり,細胞膜を透過して細胞体外へ出されるという。
副腎皮質からは,大きく分けて,糖質コルチコイド,鉱質コルチコイド,副腎性アンドロゲン(男性ホルモン)という3群のステロイドホルモンが分泌されるが,それらについては〈副腎皮質ホルモン〉の項を参照されたい。
これらのホルモンが皮質のどこから分泌されるかについては,いくつかの説があるが,現在,鉱質コルチコイドは球状帯から,糖質コルチコイドは束状帯(および網状帯)から,男性ホルモンは主として網状帯から分泌されるという層機能分離説が有力である。これに対して,束状帯からすべてのホルモンが分泌されるという考え方を束状帯機能説というが,これを支持する人は少ない。また,これらの層の細胞がどのように交代するかについては,三つの説がある。すなわち,(1)皮質の細胞は球状帯で増殖新生し,束状帯に送られ,さらに網状帯へ移行して,ここで変性退化するというエスカレーター説,(2)球状帯と束状帯の境で増殖が起こり,機能に応じて球状帯へ細胞が送られたり束状帯へ送られたりして,これらの層の幅が広くなったり狭くなったりするという説,(3)各層別々に細胞交代を行うという説があるが,いまだにはっきりしていない。なお,副腎皮質は胎児においてたいへんよく発達していて,胎児性皮質と呼ばれるが,これは生後退化消失して,成人型副腎皮質がこれにとって代わることが知られている。
副腎髄質は副腎の中央部に位置し,それぞれの髄質細胞は集まって不規則に走る細胞索を形成し,索間に血管を伴った間質結合組織が進入している。細胞は比較的大きく,中央に丸い核をもち,ヘマトキシリン-エオシン染色では塩基性を示すほか,クロム親和性を有している(クロム親和性とは,組織を重クロム酸カリやクロム酸を含む固定液につけておくと黄褐色に染まる反応をいう)。髄質細胞は,強いクロム親和性を示すノルアドレナリン産生細胞(N細胞)と,塩基性色素に好染するアドレナリン産生細胞(A細胞)とに分けられるが,前者はノルアドレナリンを,後者はアドレナリンを分泌する。電子顕微鏡でみると,両細胞ともに径150~300mμの球形の分泌顆粒をもっているのがわかる。N細胞の分泌顆粒のほうが,グルタルアルデヒド-オスミウム酸によく染まり,電子密度が高い。これらの分泌顆粒にはアドレナリンまたはノルアドレナリンのほかに,クロモグラニン,ATP,カルシウムなどが含まれ,さらに近年エンドルフィンやエンケファリンを含むことが知られている。最近,これらの細胞のほかに,きわめて小さい分泌顆粒を含む細胞が見いだされているが,その働きはよくわかっていない。
髄質ホルモンは,チロシン→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンの経路でつくられるが,ノルアドレナリンをアドレナリンに変えるのに必要なN-メチル転移酵素はA細胞にのみ存在し,さらにその酵素の産生には皮質から分泌される糖質コルチコイドが必要であることが知られている。ノルアドレナリンやアドレナリンの分泌は自律神経によって支配されており,髄質細胞は,無髄神経繊維との間にアセチルコリン作動性のシナプスをつくっているが,このことは,髄質細胞が神経組織に由来する点からみてうなずけるものである。ノルアドレナリンやアドレナリンは,皮質ホルモンと異なり,カテコールアミンと呼ばれるアミンの類である。その働きは,瞳孔散大,心悸亢進,血糖上昇,末端血管収縮,胃腸運動抑制,冠状動脈拡張などの交感神経刺激作用である。なお髄質は,皮質のように生命保持上絶対必要なものではなく,働きが衰えても,交感神経が残っているかぎり,ノルアドレナリンの分泌が起こり,あまり影響をうけない。
副腎の機能異常については種々の疾病が見つかっているが,おもなものとしては,副腎皮質の機能亢進,ことに糖質コルチコイドによる影響で起こるクッシング症候群や,アンドロゲンの過剰産生で起こる副腎性器症候群,高アルドステロンにより高血圧を起こすコン症候群(原発性アルドステロン症)があり,また皮質機能低下としてはアディソン病などがあげられる。
執筆者:藤田 尚男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生命維持にきわめて重要な内分泌器官の一つで、腎上体ともいう。副腎は1対あり、それぞれ左右の腎臓の上端に接着して、腎臓とともに脂肪被膜とよぶ脂肪組織に包まれている。副腎はまた、副腎に固有の線維性被膜に包まれている(なお、副腎と腎臓とは構造上の関係はない)。左副腎は半月状、右副腎は扁平(へんぺい)な三角状をしており、右副腎は下大静脈のすぐ右側にまで達している。副腎の大きさは長さ約5センチメートル、幅約3センチメートル、厚さ約0.5センチメートル、重さは約8グラムであるが、右副腎よりも左副腎のほうがわずかに大きい。
[嶋井和世]
副腎の内部構造は二つの部分、すなわち、周辺部を占める副腎皮質と中央部を占める副腎髄質とからなる。両者は発生、形態、機能をまったく異にしている。副腎皮質は中胚葉(はいよう)性の体腔(たいくう)上皮から発生するが、副腎髄質は外胚葉性の神経堤細胞に由来する交感神経系の細胞から発生する。つまり、髄質細胞は節後(せつご)神経細胞(中枢神経からの刺激を受け継ぐ体内の神経細胞)に相当し、副腎に到達した交感神経線維によって支配されるが、機能的には分泌細胞となっている。また、副腎髄質中には少数の交感神経細胞も存在している。
副腎が、このように構造と機能とを異にする二つの組織によって一つの器官を構成するのは哺乳(ほにゅう)動物の場合に限られる。哺乳動物以外では両組織が密着していなかったり、魚類のように両組織がまったく別の器官として存在している。副腎皮質は副腎内部の周辺部に位置し、副腎全体の80%ほどを占めている。副腎皮質は3層からなる細胞構造をもち、表層からそれぞれ球状層、束(そく)状層、網(もう)状層に区別される。ヒトの胎児の副腎皮質では、とくに内側の部分の発育がよく、胎児性皮質とよばれている。しかし、生まれるとこの部分は退化してしまい、外側の部分が本来の副腎皮質として発育する。
[嶋井和世]
皮質細胞からは、ステロイドホルモンである副腎皮質ホルモンが分泌される。ステロイドホルモンはコレステロールをもとにして生成されるが、この生成を助ける酵素系は皮質細胞の中に含まれている。副腎皮質の各皮質細胞層からは、それぞれ特別なステロイドホルモンが分泌される。球状層でおもに生産されるのがアルドステロン(鉱質コルチコイド)で、これは体液のナトリウム濃度を正常に保つ働きをしている。つまり、腎臓に作用して、ナトリウムイオンの再吸収を促進させ、カリウムイオンの排泄(はいせつ)を増加させるように働くわけである。束状層ではおもにコルチゾール(糖質コルチコイド)が生産される。この物質は糖代謝に関係するほか、タンパク質の合成を抑制し、分解を促進させる。また、体の中の炎症を抑える作用もある。しかし、体に過剰な量が投与されると、骨組織がもろくなり、骨格筋の萎縮(いしゅく)、リンパ組織の萎縮などがおこる。なお、コルチゾールの分泌は副腎皮質刺激ホルモン(下垂体前葉ホルモンの一種)によって調節されている。網状層ではおもに少量の性ホルモン(副腎アンドロゲン。男性ホルモンの一種)が生産される。
副腎髄質の髄質細胞には、アドレナリンを分泌するアドレナリン細胞とノルアドレナリンを分泌するノルアドレナリン細胞とが存在している。これらのホルモンは、末梢(まっしょう)血管の収縮や血圧の維持に重要な働きをもっている。この髄質細胞は、前述のように交感神経線維の支配を受けるため、交感神経系の興奮によってホルモンの分泌が高まる。生体が興奮状態になったり、生体に危険が迫ったりすると、交感神経系の興奮によってアドレナリンの分泌が行われ、血行が盛んとなり、危険から脱出しようとするさまざまな反応がおこる。
副腎皮質はその機能から判断できるように、これを除去すると生体にとっては致命的となる。すなわち、ストレスに対する抵抗力がなくなり、外界に対する順応がきかなくなり、やがては死に至る。副腎皮質の機能不全にはアジソン病(イギリスの医師アジソンにちなむ)があり、副腎皮質の機能亢進(こうしん)にはクッシング症候群(アメリカの外科医クッシングにちなむ)がある。また、褐色細胞腫(しゅ)では髄質の機能亢進が認められる。
[嶋井和世]
『有森茂・勝岡洋治・岩本晃明・岩崎克彦編『副腎・性腺疾患の臨床』(1993・東海大学出版会)』▽『竹田亮祐・宮森勇編著『示説副腎皮質内分泌学』(1993・文光堂)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これらのホルモンをまとめて胃腸ホルモン(または消化管ホルモン)といい,その中のいくつかは脳にも検出される。(7)副腎 副腎は哺乳類ではステロイドを生産する皮質組織とカテコールアミンを生産する髄質組織に分けられるが,下等脊椎動物では,ステロイド生産組織とカテコールアミン生産組織が,別々に存在したり混在したりする。前者は中胚葉性で,後者は外胚葉性である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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